第24話 とりあえずの休息
「……? ――んっ!? なああああああっ!? なんでだ!? どうして町がっ!?」
山賊のアジトから一転。
視界に映る広々とした光景を見たルンドが驚愕した。
一緒に転移してきた娘たちも同じような反応を見せている。
「落ち着け……これが転移の魔法だ」
「魔法?」
「本当に一瞬で移動しちゃった……これも狭間くんの力なんだ」
「そうだな。まあ、このくらいは大したことじゃない」
「いやいや、すごく大したことだよ……!」
呆れたような口調と共に、長嶺は俺に苦笑した。
だがその表情は直ぐに変わって、
「ボク……もう、ダメかもしれないって思ってたから……はぁ……本当に
助かったんだ。あの場所から逃げられたんだね……」
言って長嶺が安堵の微笑を浮かべる。
町に来られたことで助かったという実感が、一気に湧いてきたのだろう。
「――お、おい! あんたら、一体なんなんだ……!?」
騒ぎ出す俺たちに声を掛けてきたのは、町の門前に立っていた衛兵だ。
突然、俺たちが大人数で現れたものだから、戸惑った様子でこちらを窺っている。
自身の目を疑うみたいに手の甲で瞼をごしごしていた。
「ちょうどいいところに――こいつらを引き渡したい」
「うん……? このモヒカンに見覚えが……っ――こいつ、手配中の賞金首じゃないか」
対して強くなかったが賞金を懸けられるくらいには有名だったらしい。
「こいつら、あとは任せていいか?」
「あ、ああ! こちらで拘束させてもらう」
「頼む。それとこの子たち――攫われて拘束されていたところを助けたんだが、それぞれ家に帰してあげてほしい」
衛兵なら行方不明者の情報なども持っているだろう。
「まさか、この子たち全員がそうなのか!? ここ数ヵ月で、随分と行方不明者が増えていたが……いや、とにかく無事でよかった。こちらも任せてほしい!」
「よろしく頼む。もし金が必要になるようなら、賞金はこの子たちの為に使ってくれ」
もしかしたら家が町から遠い者もいるかもしれない。
その時は転移で送り届けてしまったほうが早いだろう。
「狭間くん、本当に優しいんだから……でも、学校でもそうだったよね」
「学校で?」
長嶺との間に何かあっただろうか?
気になって俺が聞き返そうとした時だった――
「ぅ……ん、な、なんだ……?」
モヒカン野郎の声が聞こえて、俺は振り返った。
「おお、意外と早く目覚めたな」
「ぁ……っ!? テメェ、さっきの! って、ここは!? 俺様がこんなところに!?
どうやら元気は有り余っているらしい。
かなり手加減はしたつもりだが、ただの山賊にしては大したものだ。
(……呪術の件といい何か特別な力を持っているのか?)
そう考えたほうが自然だろう。
まあ、もう牢屋行きであることを考えれば俺が気にしても仕方ないが。
「はっ、クソがっ! テメェが俺様に何をしたのかはわからねえが、二度目はねえぞ! おいクソ女ども! こいつをやっちまえ!」
モヒカンが首を上げて顎で俺を指し示した。
だが、その命令に従う者は誰一人としていない。
「な、なにをしてやがるっ! さっさと――」
「服従の刻印ならもう解呪してあるぞ?」
「は……? かい、じゅ……?」
「だからもうお前に従う奴はいないんだ」
「ハッタリを抜かすんじゃねえ! 人間が解呪できるような呪いじゃねえんだよ! あれは俺様が契約した邪神ファルガから――」
「あの呪術は、やはりお前の力じゃないのか」
「ぁ――」
悪魔との契約を想定していたが、この男と契約を結んだのは邪神だったらしい。
モヒカン男の顔色にしまったという焦燥感が浮かんでいた。
もしかしたら契約上、口にしてはならない名前だったのかもしれない。
「ち、違うんだ! ファルガ、お前の名前を口にするつもりはなかった――頼む、どうか許してくれ!」
突然、激しく脅え出す男に衛兵たちは周囲を見回す。
だが……。
「あ、あれ……?」
「どうした?」
「け、契約で……もしファルガの名前を口にした場合、あ、悪魔たちの贄にされるって……」
しかし結果的に何も起こらなかったらしい。
考えられる可能性は複数ある。
具体的な条件を聞いていないことから正確な判断はできないが……。
「契約不履行になったんだろ」
「ぇ……?」
「ファルガと契約した力をお前は行使していた――が、結果的に、俺によって解呪されてしまい効果が発動しなくなってしまった。だから契約不履行になった」
相手が力を当てにしている時にその力を使えません……では、責任を果たしたとは言えないだろう。
「これでしっかりと罪を償える」
「ぁ……」
頼りの力も使えないことがはっきりしたせいか。
それとも命を拾った為なのか……モヒカンは力を失ったようにその場で項垂れた。
「な、なんだか良くわからんが、とにかくお前を拘束する!」
山賊たちは抵抗することすらなく、衛兵たちに連れて行かれた。
続けて応援に駆け付けた衛兵たちが少女たちを保護していく。
「皆さん、ありがとうございました! 救出された娘さんたちも必ず無事に家まで送り届けてみせますので!」
「ああ、よろしく頼むな。何かあったら教えてくれ。多分、酒場か……宿屋にでもいると思うから」
「はい! それでは失礼します!」
敬礼のあと衛兵たちは去っていった。
「ハザマ……オレはこのまま行方不明者が戻って来たことを、みんなに知らせて来ようと思う。心配している人も大勢いたから、直ぐにでも教えてあげたいんだ」
それなりの情報網があるであろう衛兵たちに任せておけば、直ぐに少女たちの家も見つかると思うのだが……正義感の強いルンドらしい。
「わかった。結果的にお前のお陰で長嶺と会えたよ。ありがとうな」
「礼をしなければならないのはオレのほうだ……心からの感謝を――もしまた機会を得られるのなら、是非一度、オレに稽古を付けてほしい!」
一方的に言ったルンドは返事を聞かずに駆け出した。
とりあえず一件落着。
だが、ルンドの背中を見送りながらも俺は思考を続ける。
『アル……邪神ファルガについては?』
『全く聞き覚えがない名だ』
『少なくとも天界の神々じゃないってことか』
『上位神以上ということはないだろうな。少なくとも上位一級神以下であることは保証しよう。最上位神以上であれば、まず地上の些末な出来事に干渉することはない』
神々のランクは知らないが、天界でも能力に応じたクラス分けがあるのだろう。
だが、下位の神様である可能性はあるということか。
このモヒカンに興味はなかったが……この世界に直接、神が干渉していたというのは気になった。
アルが言ったように、神は地上に干渉はしない。
無数の転生転移を繰り返してきた俺も――神が直接干渉してきた世界は数回程度。
ぶっちゃけめちゃレア。
そして――そういう場合は大抵ろくなことがないのだ。
「さて、とりあえず一仕事終わったな」
「うん……このあとは……?」
「宿屋か……いや、酒場にでも行くか。腹が減ってるだろ?」
「そう、だね……緊張が解けたらお腹、空いてきちゃった」
照れたように頬を染めて微笑をする長嶺と共に、俺たちは酒場を探すのだった。




