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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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80:港町か?私も同行する

 出発の朝、私たちは旅支度を整えて割れ鍋亭の入口に立っていた。


「それじゃあ、留守番よろしくね」


「任せてください」


 留守番組に後を頼んで、いざ出発!

 港町シートンマスまでは、馬車で数日の距離。乗合馬車に乗って目指す予定だ。


 と、そこへ。

 一台の幌馬車がやって来て止まった。何事かとみんなで見る。

 幌馬車から降りてきたのは、アルフォンスである。平民風の服を着ているが、品の良さが隠しきれていない。背後にはいつもの護衛の人もいる。


「やあ、みんな。おはよう。良かった、間に合って」


「アルフォンス殿下」


 ギルが慌てて礼の姿勢を取る。エレオノーラの小麦除去食を作る関係で、割れ鍋亭のメンバーはアルフォンスの正体を知っていた。

 アルフォンスは苦笑して、ギルに立つように言った。


「何度も言うが、公式以外の場ではただのアルフォンスとして接してくれ」


「それでアルフォンス。どうしたの?」


 私が問いかけると、彼は頷いた。金の髪が朝日を反射して輝く。


「私も行こうと思ってね」


「え!? 何故?」


 思わず叫んでしまった。だって彼は王子様だ。ほいほい出歩けるような身分ではないし、公務だってあるだろう。

 何考えてんの?


 ――やはり港町か……。いつ出発する? わたしも同行する。

 ――アルフォンス院!


 とかいう謎のやり取りが脳裏に流れて消えた。


「食料ギルドの一件も落ち着いたし、時間ができたから。君たちの楽しそうな計画に、乗せてもらおうと思ったのだ」


 港町へ行くのは、彼にも報告していた。

 しばらくエレオノーラの食事を届けられなくなる。

 彼女の食事に関しては、王宮医師長と薬師長立会いの元、厨房のシェフに指導をしてきた。だから大丈夫なんだけど。


 アルフォンスはギルとクラウスをちょっと複雑そうな目で見た。なんやねん。


「君たちだけで港町へ遠征なんて、ずるいじゃないか。私も同行させてくれ。護衛もいるし、私自身も剣には自信がある。ボディーガードは多い方がいいだろう?」


 いや、あんたはどう考えてもガードされる方でしょ。

 横ではクラウスが不満そうな顔をしている。


「俺一人で十分だ。王子様は大人しく城で留守番をしていればいい。足手まといだ」


「足手まといかどうか、試してみるかい? それに旅の人数は多い方が楽しいよ。ねえ、ルシル?」


 必殺王子様スマイル!!

 今日は平民の服とはいえ、本人のキラキラ度が半端ない。眩しい!


「エレオノーラに土産話をしてあげたいのだ。あの子は遠出と無縁だったから」


 今度は少し切なそうな表情。

 うぬぬぬぬ、そんな言い方をされては断れない。

 私はため息をついた。


「クラウスさん、お願いしましょうか。彼がいてくれれば、トラブルに巻き込まれた時も安心ですし」


 アルフォンスはぱっと笑った。


「そうでなくてはね! 一緒に行く以上は何でもやるよ。荷物持ちでも、雑用でも。それと、そこの馬車は自由に使ってくれ」


「……ルシルがそう言うのなら」


 クラウスは渋々といった様子で引き下がった。

 あと、いくら何でも王子様に荷物持ちはさせられないから。


 ギル、クラウス、アルフォンスの間には何だか妙な空気が漂っている気がする。互いに軽い火花が散っているというか。


「ミア。男性の友情って複雑なのね」


 ミアに小声で話しかけると、彼女はジト目で私を見た。


「ルシルはにぶすぎ。せっかくイケメン集めてるのに、もったいないって、お母さんなら言うよ」


「そりゃ三人ともイケメンだけれども」


 これは何か? 逆ハーレムというやつか?

 まさかー。

 だって猫大好きコミュ障と、カッコよさが滑りまくりの人と、妹大好きな王子様よ?

 しかもトドメに、私自身がアラ【ピー】の転生者よ。言ってみりゃ異世界BBAだ。

 どこに逆ハーの要素があると?


 というか、私にとって彼らは年下すぎて弟を通り越して甥っ子とか息子とかの立ち位置に見える。

 みんな良い人だとは思うよ? 思うけどさあ。


 というわけで、私は微妙な空気をスルーして馬車に乗り込んだ。


「しゅっぱつ、しんこー!」


 フィンが元気な声を上げる。

 御者が手綱を取って、馬車が動き出した。車輪が回って、ガタゴトと音を立てる。

 街路を抜けて城門へ。城門の警備兵たちに手を振って、さらにその先の街道へ。


 馬車に揺られながら、私は今生でまだ見たことのない海へと思いを馳せる。

 昆布あるかな。昆布が確保できれば、出汁がばっちりになるんだけどな。

 エビは干したのが王都で売っていたから、きっとあるね。

 他にも色んなお魚で出汁を取って、必ず究極のシーフードラーメンを作っちゃおう。


 ふと、私の横で香箱座りをしていたラテが顔を上げた。


『そういえば、アルフォンスよ。王城で妙な気配を感じたのだが、何か知っているか?』


 ラテの正体は、アルフォンスとエレオノーラに打ち明け済みだ。

 たくさん助けてもらったし、エレオノーラを介して長い付き合いになりそうだったから。


「妙な気配? いや、心当たりがないが。何の話かな?」


『お前の妹の塔、あそこから少し南にある建物だ。錠前と魔法で封印がされていたが、そこが妙に臭った』


「あの建物なら、だいぶ昔の王家の抜け道だね。今はもう使われていなくて、通路が崩落の危険があるため、封じられている」


「抜け道ですか?」


 私が口を出せば、彼は頷いた。


「敵国に攻められた時やクーデターが起きた時のために、抜け道が何箇所かあるのだ。主に地下道だよ。今の抜け道は秘密」


 唇に人差し指を当ててみせる。そんな仕草も様になっているので、王子様はずるい。

 なんかギルが真似をしている。やめなよ。


『地下……』


 ラテの金色の目が、考え込むように細められる。しばらく考えていたが、結論が出なかったようだ。何度も首を振っていた。


『まあいい。今は海だ、魚だ! たらふく食うぞ!』


「タラだけに」


 ほら、魚のタラってお腹がぽっこりしてるじゃない。ただの当て字だっていう説もあるけど、ついタラを連想してしまう。

 タラも美味しいよね。お鍋の鉄板具材。


 ふと馬車の外を見れば、晴れ渡る夏空が広がっている。

 でも行く先――港町の方角に、もくもくと大きな黒い雲が立ち込めているのが見えた。


(嵐にならないと、いいけど)


 今回はあくまで、食材調達と販路開拓の旅だ。何事もない方がいい。

 でも、もしも何かが起こるのなら。


「その時はその時よね!」


 私はパンと両手を打ち合わせた。ミアが不思議そうにこちらを見ている。

 どんなトラブルがあっても、美味しいもののためならば頑張れる。それで、王都にシーフードラーメン・ブームを巻き起こすのだ!


 ガタゴト、ガタゴト。馬車は夏の空の下、街道を走っていく。

 目指すのは港町シートンマス。まだ見ぬ海の食材が、私たちを待っている!


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