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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第5章

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73:逆転の広場

 次にアルフォンスが壇に登った。

 王子としてのオーラをまとって、よく響く声で言う。


「皆のもの、分かってもらえただろうか。ドングリは森の恵み。アク抜きをすれば害はなく味は良く、森の魔力に包まれて育ったために健康にも良い。つまり『ドングリを食べると豚になる』などというのは、民の不安を煽るだけの恥知らずなデマである!」


「……!」


 群衆が動揺してどよめいた。

 買収された医者は小さくなって俯くばかり。


「そして、もう一つ。何よりの証拠をお見せしよう!」


 アルフォンスが合図すると、大人たちの後ろに隠れていたフィンとミアが飛び出した。元気よく壇上に駆け上がる。


「ぼくは割れ鍋亭の子です。まいにちドングリのガレットを食べているけど、元気です!」


「わたしも……です。ガレット、おいしいです」


「この愛らしい子供たちが、豚に見えるか?」


 アルフォンスの問いかけに、群衆はざわざわとざわめきながら首を振る。


「健康そのものに見える」


「うちのかみさんが豚っ鼻で、ドングリ毒を心配していたんだが」


「そりゃお前の嫁さんが、もともとそういう顔なんだろ」


「何だと、このやろう! ……そりゃそうなんだが」


 アルフォンスは群衆の様子をぐるりと見回した後、食料ギルドの幹部らに目を留めた。


「これで分かっただろう。家畜のごとき卑しい性根の持ち主は、誰なのかを」


 第二王子の視線を受けて、食料ギルドの男たちは震え上がった。


「さらに、もう一つ」


 彼は懐から王家の紋章が入った羊皮紙を取り出した。


「ここに私の妹、第一王女エレオノーラからの言葉を預かっている」


 意外な人物の名前に、群衆たちは息を呑んだ。


「『私は長らく原因不明の病で苦しんでいました。しかしシスター・ルシルのドングリのガレットを食べるようになって以来、少しずつ回復しています。今はまだ、民の皆さんの前に立つだけの体力がありません。けれど近い内に必ず、私の元気な姿を見せられるはずです。全てはシスター・ルシルのおかげです』」


「王女殿下の病は原因不明とされてきた。だが、シスター・ルシルの助言によって、どのような病であるか判明したのじゃ。ドングリのガレットは、王女殿下の健康を助けるためのもの」


 医師長が言えば、薬師長も続けた。


「どのような薬草よりも、体質に合った食べ物が重要なのです。毒などととんでもない。ドングリは優れた食物ですよ」


 ここで私もしゃしゃり出てみた。


「医食同源という言葉があります。食べることは生きること。私の料理は変わり種が多いですが、どれも美味しくて健康にいいものばかりです。美味しく食べて、笑顔になる。笑顔になったお客さんを見るのが、私の何よりの生きがいです!」


 綺麗事だけど、本心だ。

 ふと横に気配を感じて見上げると、いつの間にかクラウスが立っていた。


「この店の飯は美味い。力が湧く」


 ぶっきらぼうにそれだけ言って、そそくさと壇を降りてしまう。

 群衆、主に冒険者たちから声が上がった。


「今の、S級冒険者の『銀狼』か?」


「最近あまり姿を見せないと聞いていたが、あの店で用心棒をしていたんだな」


 おお。S級の肩書が役に立っている。半ニートなどと思ってすまなかった。


 王宮医師長と薬師長という、王国最高権威のお墨付き。

 今まで表に出なかった王女が、わざわざ名指しで私に感謝したこと。それを他ならぬ第二王子が読み上げたこと。

 それからついでに、S級冒険者の推薦。


 群衆の様子は今やすっかり反転している。

 もう私に悪意を向ける人はいない。

 その代わり、彼らを騙して扇動した食料ギルドのメンバーに、怒りの視線が注がれていた。





 一瞬の間を置いて。人々の怒りは一気に爆発した。


「食料ギルドは嘘つきだ!」


「私たちを騙したのね!」


「医者のくせに、恥を知れ!!」


 群衆が叫ぶ。ギルド幹部とすっかり縮こまった医者たちに詰め寄った。怒れる民衆と、壇上の本物の権威――アルフォンスと医師長以下の人々――に挟まれて、逃げ場もなく震えている。


「憲兵隊長よ」


 アルフォンスが命じた。


「民の健康に関するデマを流し、無実の店の名誉を貶めた罪は、見過ごせない。市井の医者や薬師を利用し、民衆の不安を煽ったのは悪質な手口である。食料ギルド幹部、およびデマに加担した者たち全員を拘束せよ! 王家の名において、この罪は厳しく裁かせる!」


「はっ! 王子殿下の仰せのままに!」


 号令一下、憲兵たちが壇上になだれ込んだ。

 以前、憲兵に威圧された時はムカついたけれど、味方だと頼もしい。

 ギルド幹部と買収された医者たちは、わあわあ喚きながら引きずられていった。


「そこの医者が、ドングリが毒だと言ったんだ! 私たちギルドはそれを聞いて警告をしただけ!」


「ち、違う、私は食料ギルドから頼まれて、こうしただけで……!」


 わあ。お互いに罪をなすりつけ合っている。

 ここまで来ると、みっともないを通り越していっそ滑稽だわ。

 そりゃあ原点は食料ギルドだろうけど、お金をもらってデマを流す医者も無実ではないだろうよ。おかげで酷い目にあったもん。

 本当は殴ってやりたいところだが、正当な罰を受けるならまぁいいか。

 この件を教訓に、今後はぜひ良心と相談しながら職務を全うする医者になってほしい。


 ともかく、食料ギルドは「民衆を騙した悪徳組織」として、信用が完全に地に落ちた。

 元より食料品の値上げがひどくて、民の反感を買いがちだったのだ。

 最近は私の店に嫌がらせをするために封鎖をしたり、身勝手も目立っていた。全くもって自業自得ってやつだ。

 幹部の多くがしょっぴかれた今、ギルドがすぐになくなるわけではないにしろ、立て直すのに時間がかかるだろう。


 私たちの大きな勝利だった!




読んでくださってありがとうございます。

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