表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/81

70:病の原因

 塔の部屋は窓が小さくて、薄暗い。

 けれどその薄闇の中に輝くように、金の髪をした少女が座っていた。

 兄のアルフォンスとそっくりな、でも、もっと儚げで美しい色。


「妹のエレオノーラだ」


 アルフォンスの紹介に、彼女は上品な礼を返してくれる。

 ――エレオノーラ。それは、このアステリア王国の王女様の名前。

 非常に貴重な『大治癒』の能力を持ちながら、病弱で能力を使いこなせず、伏せったままだったという人。


「え、えーと。王女様が妹さんということは……」


 ぎぎぎ、と音が出そうなぎこちなさで、私は隣のアルフォンスを見上げた。彼は困ったように微笑んでいる。


「改めて名乗らないといけないね。私はアルフォンス・アーネスト・ミーティス・アステリア。――この国の第二王子だ」


「ウボァ」


 なんか変な声が出た。王子様スマイルが似合っているとか思っていたら、本物だったとは。貴族どころの騒ぎじゃなかった!

 前世日本人の私としては、階級社会というのがピンと来なかった。

 でもさすがにロイヤルファミリーは分かる。


 急に緊張しだした私に、アルフォンスはどこか寂しそうに笑った。


「騙すつもりはなかったが、この事態を打開するために、私の王子としての力が使えると思った。だから名乗ったが、シスター。できれば今まで通り、ただのアルフォンスとして接してくれないだろうか」


「……はあ」


 そう言われてもな。まあ今まで屋台の手伝いをさせたり、ゴロツキから助けてもらったりとコキ使う……いや、手伝ってもらったけど。


「お兄様はシスターをご友人だと思っているのですわ。あなたのお話をする時、いつも楽しそうで」


 エレオノーラがころころと笑った。


「そうですか? その……今まで、けっこうご無礼を働いたと思うのですが」


 私が言うと、彼は首を振った。


「楽しかったよ。私を王子の肩書で捉えずに、ただの人間として扱ってくれた。新鮮だったし、嬉しかった。平民で初めての友人と言っていい。だから君が迷惑でなければ……」


「分かりました。そういうことなら」


 私は頷いた。王子様が私と友達だと言ってくれるなら、私だって友情を返しちゃうね。

 私が手を差し出すと、アルフォンスは嬉しそうに握り返してくれた。





「それで、エレオノーラのことだが」


 名を呼ばれて、彼女は小首を傾げた。

 エレオノーラは確か今年で十三歳のはずだが、体は細くて小さくて、十歳くらいにしか見えない。


「この子はずっとろくに食べ物を食べられなかったのに、シスターのガレットだけは平気なのだ。そのお礼をどうしても言いたいと言ってね」


「シスター・ルシル。あなたのドングリのガレットのおかげで、わたくしはこんなに元気になりました。ベッドから起き上がって歩くのも、お腹が空いたという感覚も、わたくしにとってとても新鮮なのです。あなたは命の恩人です。感謝してもしきれませんわ」


 彼女はベッドから立ち上がった。少しふらついているけれど、しっかりと立っている。

 足元にやって来たラテを見つけて、にっこりと笑った。


「まあ、猫ちゃん。シスターのお店の猫ですね?」


「はい、名前はラテです。黒猫だけどミルクの由来の名前なのは、ミルクとヨーグルトが大好きな食いしん坊だからですよ」


 ラテは私の説明に若干不満そうな顔をしたが、とりあえず何も言わなかった。


「それにしても、どうして私のガレットだけ食べても平気なんでしょうね?」


「さあ……。わたくしの病気は原因不明で、王宮医師長も薬師長もさじを投げました。神殿の中治癒の能力ですら、症状を和らげるのが精一杯で。このまま何も食べられず、やせ細って死ぬのだと思っていましたのよ」


 エレオノーラの口調は淡々としている。たった十三歳の女の子が、死を身近に感じて諦めていたのだ。

 胸が痛くなった。


 それにしても、食べ物を食べると悪化する病気か……。

 彼女をベッドに戻してやりながら、私は聞いてみた。


「食事をすると症状が出るんですね?」


「はい。食べて少しすると、湿疹が出たり頭痛や腹痛が起きていました。だから食事の時間が憂鬱でしたの」


「ドングリのガレットも、味噌味と醤油味は駄目だったと聞きましたが」


「普通の食事に比べれば、症状は軽いのですが。完全に平気だったのは、ヨーグルト味だけです」


 食べてすぐに湿疹、頭痛、腹痛。

 思い当たる原因が一つある。これが正しいとするなら、味噌と醤油が駄目だったのも筋が通る。


「食事ができないと言っても、本当に何も食べないと飢え死にしてしまいますよね。今まではどうしていたんですか?」


「野菜のスープを少量程度なら、何とかなっていました。それも時には駄目でしたが」


「……原因が分かったかもしれません」


 私が言うと、アルフォンスとエレオノーラは目を見開いた。動作がそっくりでさすが兄妹である。


「まさか! 医師ですら分からないのに、シスターが?」


「えぇあの、私はそれこそ医者じゃないので、確証はないのですが。前に似た病気を見たことがあって」


 といっても、この国の話じゃない。前世日本でのことだ。


「結論から言うと、エレオノーラ様は食物アレルギー。たぶん小麦アレルギーです」


 私が知っているのは、親戚の子が卵アレルギーだったこと。うっかり卵が入った食品を食べると、蕁麻疹や顔の赤み、嘔吐などで大変だった。

 卵と小麦じゃ症状は違うだろうが、食べると悪化するというのは同じ。

 そして小麦と当たりをつけたのは、ヨーグルトは平気だったのに、味噌と醤油が駄目だったという点。

 味噌と醤油は麦麹を使っている。量としては多くはないが、反応してしまったのだと思う。

 そして、麦麹程度の量ではっきりと自覚症状が出るとは、エレオノーラのアレルギーはかなり重い。


「その、アレルギーというのはどういう病気ですか?」


 エレオノーラが不安そうに言う。


「特定のものに、エレオノーラ様の場合は食べ物――たぶん小麦――に、過敏に反応してしまう病気です。他の人にとっては無害なものでも、アレルギーを持つ人にとっては毒になってしまうんです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ