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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第5章

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59:粉ゲット

 蕎麦の実を取って森の入口に戻ると、得意満面の孤児院の子たちが待っていた。


「見てみて、ルシル! いっぱいとったよ!」


「ぼくのほうがいっぱいだもん!」


 子供たちは口々に言って、袋を掲げてみせる。中にはしっかりとドングリが詰まっていた。


「春でも探せばあるものですね」


 ナタリーが子供たちの頭を撫でて、微笑んでいる。


「みんな、ありがとう。新しい料理を作ったら、みんなにもご馳走するからね!」


「はーい!」


「わーい!」


 こうしてたくさんのドングリとそれなりの蕎麦の実をゲットした私たちは、意気揚々と王都へ戻った。





 割れ鍋亭へ帰ると、ギルも戻ってきたところだった。


「やあ、ルシル。そちらの収穫は良さそうだね。僕も鍛冶屋へ行って、君の言う『ミキサー』を発注してきたよ。なる早でね」


「うん、ありがとう」


 ギルはかっこつけて歯を光らせている。とうとう本当に歯が光るようになった。あれも能力だろうか?

 まあそれはともかく、私は準備に取り掛かった。


「まずは、ドングリの渋みを消すために、しっかりアク抜きするよ」


 私は大きな鍋に水を張って、ドングリをざざーっと入れた。軽く洗いながらかき混ぜれば、それなりの数がぷかぷかと水に浮いてくる。


「こういう水に浮くのは、虫食いだったり中身がスカスカだったりするから、捨てちゃう」


 やっぱり春のドングリは虫食いが多そうだ。想定よりも多めの実が浮いてきて、取り分けた。

 次にかまどに火を入れて、ドングリを煮る。沸騰させてしばらくすると、だんだん水が茶色っぽくなってきた。


「これが渋みのもと、タンニン。アク抜きでこれを減らせば、渋くなくなるの」


 茶色い水は捨てて、もう一度煮る。今度はあまり茶色くならない。大丈夫そうだ。

 茹で上がったドングリは、本当は二~三日天日干しにする。でも今は、時間があまりないので……。


「よう、クラウス。来たぞ」


「……こんにちは」


 二十代くらいの男女が入ってきた。男性は赤ちゃんを抱っこしている。

 この人たちは元冒険者で、クラウスと組んでいた。魔法使いを冒険者ギルドで斡旋してもらおうとしたら、クラウスが「知り合いにいる」と紹介してくれたのだ。


「俺たちは今はパン屋なんぞやっているが、嫁さんの魔法の腕は鈍っちゃいないぜ。なにせヘマをやらかしたら、ビシバシ魔法が飛んでくるからな!」


「……」


 あっはっは、と笑う旦那さんをお嫁さんはジト目で見ている。テンションの落差が激しい夫婦である。


「で? わたしは何をやればいいの?」


「このドングリと、あと蕎麦の束を乾かしたいんです。弱い火と風の魔法で、いい感じに乾かせますか?」


 私が言うと、お嫁さんは頷いた。


「そっちの食堂に広げてくれる?」


「はい」


 水を切ったドングリと小束にした蕎麦を、食堂のテーブルの上に並べた。

 お嫁さんは懐から短いワンドを取り出して、小さな声で詠唱した。するとぶわっと熱風が巻き起こる。熱すぎず強すぎない風が部屋を満たして、ドングリと蕎麦を撫でていく。しばらくすれば、かなり乾燥が進んでいる。


『ほう。見事な魔力操作だ』


 ラテが感心したように呟いていた。

 その間、旦那さんは赤ちゃんをあやしながら、クラウスと雑談していた。


「クラウスよお、お前、居場所を見つけたんだな。ずっとソロだったじゃねえか。俺、心配したんだぜ」


「お前に心配されるいわれはない。俺は上手くやっている」


「そうか、そうか。俺らは赤ん坊がいて身動き取れないからさ。この子がもっと大きくなったら、また冒険者に復帰してえなぁ」


「お前はパン屋が似合っている。わざわざ危険を侵す必要はない」


「ん、そうか。クラウスは相変わらず、優しさが分かりにくいな」


 旦那さんはその後、眉尻を下げた。


「食料ギルドの連中は、うちの店にも来たよ。シスターの店に何も売るなってな。ぶん殴っても良かったんだが、この子のことが心配で……」


「大丈夫ですよ。私、しっかり抜け道見つけて戦いますから」


 口を挟めば、彼はにっこり笑った。


「頼もしいシスターだ。クラウスのことも頼むよ」


「ええ、もちろん」


 そうしているうちに乾燥が終わった。私は代金を払おうとしたが、断られてしまった。


「何も助けになれなくてごめんなさい。今回はせめてもの罪滅ぼしよ」


 お嫁さんはクールに笑って、夫婦は去っていった。


「魔法、すごかったね!」


 フィンとミアは大興奮だ。


「みんな、次はドングリの皮を剥きましょう。剥き終わったら、ミキサーが来るまで待機ね」


「鍛冶屋の親父さんが、明日には第一号機ができると言っていたよ」


 ギルが言う。


「速くて助かるわ。それじゃ皮むきね」


 みんなで手分けして、たくさんのドングリの皮を剥いた。

 蕎麦の方も乾燥がほぼ終わっている。こちらはそんなに量が多くないので、袋に入れて叩いて脱穀する。

 外れた蕎麦の実はすり鉢に入れて、叩いて殻を外した。


「なかなか重労働ですね……」


 雇い人たちが苦戦している。


「そこまでの量じゃないから手作業でいけますけど、そうでなければ石臼が欲しいですね」


「そうですね。今回は急場しのぎなので。いずれ石臼の購入も考えましょう」


 私もドングリの皮剥きの手を止めず、答えた。





 翌日、鍛冶屋からミキサー試作機が届けられた。


「シスターの嬢ちゃん、また妙なもの作ったな。面白かったぜ。また何かあったら、うちの工房に持ってきな!」


「はい! ありがとうございます」


 急ぎの仕事をねじ込んだにもかかわらず、親方は上機嫌だった。

 皮を剥き終わり、もう一晩乾燥させたドングリをミキサーに入れる。

 大きさは直径三十センチ程度。ボウルの底に刃がついており、ふたを閉めて上のハンドルを回せば、刃も連動して回転する仕組みだ。


「ぐぐぐ……」


 ドングリを入れて回してみるが、かなり力が要る。


「貸してみろ」


 クラウスがハンドルを握った。軽々と回している。


「わ。さすがですね」


「……冒険者は体が資本だからな」


「なんの。僕だって」


 ギルが張り合うようにミキサーを奪い取って、回している。クラウスほど軽々ではないが、きちんと回っていた。

 しかし回しながら「フッ、軽いもんさ」とか妙なカッコつけをやるので、みんなスルーした。


 しばらくして中を見ると、しっかりとドングリ粉ができあがっていた!

 まだ少し粗い部分は、すり鉢ですり潰しておく。

 蕎麦も同様にミキサーにかけて、粉末にしていった。


 こうして私たちは、ドングリ粉とそば粉をゲットしたのだ。


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