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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第4章

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56:【閑話】クラウスの事情

 食料ギルドとの一戦に勝利して以来、私たちのお店は順調に続いている。

 私は次なる商品の構想を練りつつ、日々の業務をこなしていた。


 ギルから五人ほどの人手を借りられたので、とにかく料理できる量がアップした。

 ギルが彼らを信用できると言う以上は、私も信じる。だからレシピの秘匿なんかはなしだ。


「はい、そうです。たこ焼きの生地の配合は、小麦がカップ一に対してデンプンは六分の一で」


「なるほど」


「ロックリザードの肉用のヨーグルトは、基本はこの配合。サンドに合わせる野菜を考えて、フルーツやニンニクを加えています」


「勉強になります」


 作れば作るほど売れる好調っぷりに加えて、うちの商品はどれも利益率が高い。材料がどれも安いものだからだ。

 五人の人を雇っても、お給料はちゃんと出せていた。

 料理以外にも店番を任せたり、大活躍である。これは、割れ鍋亭の食堂オープンも近いかもしれない。


「……」


「クラウスさん、何を覗いているんですか」


 活気のある厨房の向こう側、食堂の入口にクラウスが立っている。何だか柱の陰からこちらを覗いているようだ。私は柱の陰から覗く顔文字を思い出した。

 声を掛けると、彼は足音を立てずにこちらにやって来た。


「俺にも何か、手伝うことはないだろうか」


「え? いや、今は別にありませんね。ていうか、どうしたんですか。クラウスさんは最上位の冒険者でしょ。なんか最近、暇そう?」


 S級冒険者ともなれば、ドラゴン退治とか、国家の危機を救うような冒険をしまくっているものだとばかり思っていた。

 ところが最近の、いや、けっこう前からのクラウスはどうだ。割とうちの店を手伝ってくれて、湖の遠征まで付き合ってくれた。

 暇かよ?


「……」


 クラウスは微妙に傷ついたような顔をした。

 この人はいつも仏頂面のクソ真面目な表情なので、分かりにくい。


「俺はS級冒険者だが」


 彼はぼそりと言う。


「一人だけではできることは限られる。なまじ等級が高いだけに、ソロで攻略できる依頼は下位の者たちに譲らなければいけない。あまり、ちょうどいい仕事がないんだ」


 なんと。ニートかよ。


「なら、冒険者の仲間を探せばいいのでは? クラウスさんほどの実力があれば、組みたい人はいっぱいいるでしょう」


「それが、そうでもない……」


 彼はますます暗い顔になった。


「以前、気の合う奴らと組んでいたが、そいつらは結婚を機に引退してしまった。今はパン屋をしている」


 あ、そういや前にそんなこと言ってたね。


「それ以来、パーティで失敗してばかりだ」


「えぇ? なぜ?」


「実は、俺はあまり人付き合いが達者ではない」


「ああ、うん、まあそんな感じですね」


 いい人だと思うんだけど、かなりな天然だし。


「騒がしいのも苦手だ。だから、半分廃墟だったこの宿屋に居座っていた」


「そういやそうでしたねえ」


 で、廃墟なのをいいことに勝手に上がり込んで騒いでいたゴロツキを成敗しちゃったのよね。


「それで……」


 クラウスは何度かためらってから、言った。


「パーティを募集しても、目つきが怖いとか、静かにしていないと怒るとか言われて、上手くいかなかった」


「え~?」


 なんだろう。S級冒険者の肩書きに、相手が勝手に萎縮した感じだろうか。


「極めつけは……」


 クラウスは拳を握りしめた。どす黒いオーラが漂ってきて、なんか怖い。


「俺が……街角で猫を見つけて、話しかけたら……気持ち悪いと言われた……」


「……」


 想像してみる。眼光鋭い強者が、街角で猫を見つける。で、話しかけるのだ。


『猫さん、元気にしていたか。姿が見えなかったから、心配していたぞ』


 逃げ出す猫。呆然とするクラウス。

 ううむ。ちょっと気の毒である。


「気持ち悪いはひどいですね」


 というわけで、私はフォローすることにした。


「そりゃあクラウスさんみたいな腕の立つ人が、猫を可愛がっていたらギャップがありますけど。でも、そのギャップがいいんじゃないですか。ほら、ヤンキーが捨て猫にミルクをあげる流れですよ」


「ヤンキーとは?」


 あ、しまった。


「ゴロツキみたいな奴ら、くらいで。とにかくいつもとギャップのある行動を取ると、キュンときちゃいます。いいじゃないですか。私も猫、好きですよ」


「……本当か? 気持ち悪くないか?」


「ないない。だって私もラテとお話しますし。まあラテは本当に喋る魔獣ですけど」


「ああ。最初、ルシルがラテに話しかけているのを見た時は驚いた。子供や俺以外でも、猫と話す人間がいるのかと」


 それはちょっと言いすぎじゃない……?

 私が口を尖らせると、クラウスは笑った。意外に子供っぽい、無邪気な笑みだった。


「安心した。お前たちにまで嫌われたら、ここを出ていかねばならないところだった。感謝する」


「感謝だなんて。割れ鍋亭の宿屋オープンはまだまだ先ですけど、クラウスさんはずっと居てくれていいんですよ」


 私がそこまで言った時、食堂にぬうっと誰かが入ってきた。

 相変わらずハデハデな服に身を包んだ伊達男、ギルである。ギルは肩を震わせていた。


「話は聞いたよ! クラウス、なんだい、それ! 猫に話しかけて気持ち悪いって? あっはっは、確かに君みたいな強面がそんなことをしたら、気持ち悪いね!」


 ギルはヒイヒイと笑っている。

 まあなんつーか、あんまり悪気はない感じなんだけど。クラウスは本気で悩んでいたみたいなので、その言い方はいかがなものか。

 止めようとしたが、ギルはぺらぺらと続けた。


「じゃー今度から、君のことは猫男って呼ぶよ! いやいや、猫が好きなんて、女の子にモテるポイントだよ? 今度一緒にナンパに行こうか。こいつ、見た目によらず猫が好きって紹介してやるからゲフッ」


 ギルはクラウスの掌底をみぞおちに受けて崩れ落ちた。悶絶している。

 さすがS級冒険者。流れるような動作だったわ。


『おぬしら、何をやっている』


 そこへラテが通りかかった。クラウスはすかさずしゃがみ込んで、ラテの鼻先に指を伸ばした。


「ラテ。ギルが心無いセリフを吐いてきた。慰めてくれ」


『知らんわ』


 カブリ。ラテは差し出された指を思いっきり噛んだ。今度はクラウスが悶絶している。


『なんなんだ、こいつら』


 床でのたうつ男二人に、ラテは呆れ顔だ。


「さあ、なんだろうねぇ」


 私も答えようがなくて、あいまいに笑った。


「まあ、いいんじゃない。みんな仲良くてさ」


 どうしてS級冒険者が、こんな宿屋未満の場所にいるか理由が分かった。

 ちょっとだけ優しくしてあげようかな、なんて思った次第である。






+++

これにて第4章は終了です。次章は食料ギルドとさらに対立を深めながら、一応の決着がつく予定。


もしよければ、ブックマークや評価(★5で満点)をお願いします。

読者様が思っている以上に、作者はブクマ評価をもらうと喜ぶのです。

ブクマ評価がいっぱい入る→ランキングに上がる→良作として目立つ→出版社から書籍化のオファーがかかる、という黄金ルートもあります。

未来の本、未来の漫画を作るのは冗談抜きで読者様の一票なのです。

というわけで、よろしくお願いしますね!


既にくださっている方は、本当にありがとうございます!

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