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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第4章

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54:大勝利

 翌日。

 フィンとラテ、ギルが集めてくれた人たちに割れ鍋亭を任せて、私は屋台を広場に出した。


「いらっしゃい、いらっしゃい! 旅するキッチンですよ。ケバブサンドとたこ焼き、兵糧丸はいかが?」


 いつも通りに声を張り上げる。

 常連さんたちが、ちょっと不安そうな顔で近づいてきた。商人の一人が言う。


「シスター、おはよう。食料ギルドともめたって聞いたが、店を出して大丈夫なのかい?」


「大丈夫ですよ。これを見てください」


 私は作り直した看板を指し示した。


「今日からうちは、ただの屋台じゃありません! 『美味しいものを食べて慈善活動をする会』なんです!」


「はい? 慈善活動?」


 お客さんたちは事情が飲み込めず、ぽかんとしている。私はにんまりと笑った。


「ええ、そうです。まず、年会費として銅貨一枚をいただきます。そうすれば、あなたも今日から会員です。今まで通り、うちの美味しい料理を買っていただけますよ」


「何だかよく分からんが、銅貨一枚を払えばいいのか。それでシスターの料理が食べられるなら、喜んで払うとも」


 みんな頷いている。

 お客さんたちは次々と銅貨を渡してくれた。


「ありがとうございます! こちら、会員証です」


「おっ、猫の足跡がついてるな。これはあの黒猫の?」


「そう、我が店のマスコット、ラテの足跡スタンプです。可愛いでしょ?」


「あはは! こりゃいいや!」


 お客たちは真新しい木札の会員証を手にして笑っている。店の前はこれまでと変わらない、人々の長い列ができた。





 食料ギルドが言い渡してきた、三日の期限がやって来た。

 お昼時、広場でたくさんのお客さんを相手にしている時のことである。食料ギルドの職員たちが現れた。前回と同じく、憲兵を伴っている。


「三日の猶予はくれてやったぞ、シスター。許可を取らずにまだ営業しているとは。愚かなことだ」


 ふんぞり返って、実に偉そうな態度だ。

 リーダー格の男が、店の行列を指さして宣言した。


「これより食料ギルドの権限において、この違法屋台を営業停止処分とする! 今すぐに店を閉じろ!」


「と、言われましても?」


 私がすっとぼけて首を傾げてみせると、食料ギルドの男は顔を真っ赤にした。


「ふざけるな! 憲兵がいるのが見えないのか? 大人しく従わないなら、実力行使をしてでもやめさせる!」


 男は私に向かって手を伸ばした。

 お客さんがざわついた。ラテがゆらりと立ち上がる。

 でも、私は落ち着き払っていた。だって全部、筋書き通りだもの。





「おっと、待ってくださいね?」


 食料ギルドの男の手が私に届く寸前、ギルがすいと前に出た。

 わざとらしく手を広げて、広場のお客さんと見物人を見回してみせる。


「違法屋台? それはどれのことですか。人聞きの悪いことを言わないでいただきたいですね!」


「この屋台だ! 他にあるか!」


 食料ギルドの男が食って掛かるが、ギルはヘラヘラ笑って受け流した。


「違法かどうかは、これを見てから判断してほしいですねぇ」


 ギルは懐から書状を取り出した。神官長の署名が入った、例の認可状だ。


「よーくご覧ください。我々は『屋台』でも『店』でもありません。『神殿認可の慈善団体』ですよ!」


「……は?」


 事態が理解できず、食料ギルドの男の動きが止まる。


「ここの料理は『商品』ではありません。あくまで『試食会』であり『施し』です。お金は『代金』ではなく『寄付』になりますね。営利活動ではなく、慈善活動なのですよ」


「何を屁理屈を! これだけ客を集めて、そんな言い分が通るか!」


「通っちゃうんですよね、これが」


 ギルは改めて、神官長の認可状を男の鼻先に突きつけた。


「これは神殿の神官長様じきじきの許可証です。きちんと取り決めまして、割れ鍋亭と旅するキッチンの料理は、会員証を持っている方にのみ頒布している。ね、皆さん?」


 ギルが芝居がかった動作で客たちを振り仰ぐと、みんなが声を上げた。


「おうよ! 俺ァ『美味しいものを食べて慈善活動をする会』の会員だぜ!」


「私も! 見て、この会員証」


 一斉に肉球スタンプ入りの木札を掲げてみせる。


「神殿の認可がある活動に、食料ギルドが口出しするんですか? そんな権限が、おたくにあるとでも?」


 認可状の内容を見た食料ギルドの男が、顔色をみるみるうちに青ざめさせた。


「そ、そんな馬鹿な……!」


 すがるように憲兵を振り返るが、彼らは肩をすくめた。


「神殿が絡む問題ならば、我らの管轄外だ。当事者同士で解決してくれ」


 そう言って、さっさと立ち去っていった。


「おやおや。頼みの憲兵さんがいなくなっちゃったねえ。さあ、どうする?」


 ギルが意地の悪い笑みを浮かべる。彼の後ろには、ちょっと殺気立ったお客さんたちが大勢いる。


「く、くそっ! 覚えてろ!」


 子供みたいな捨て台詞を残して、食料ギルドの職員たちは尻尾を巻いて逃げていった。





「やったぞ、シスター!」


「ざまあみろだ!」


 逃げていく男たちの背中に、客たちから大きな歓声と拍手が沸き起こった。

 私は手を振って応える。


「皆さん、ありがとうございます! これからも屋台・旅するキッチンと『美味しいものを食べて慈善活動をする会』をよろしくお願いします!」


 私とギルはお客さんに頭を下げて、続けた。


「というわけで、会の発足と日頃の感謝を込めまして。今日は全品半額セール、いえ、半額寄付ですよ!」


「半額とは気前がいいな!」


「まあ、『寄付』だもんな! ほれ、上乗せするぜ!」


 屋台はすっかりお祭り騒ぎだ。

 私とギルはどんどん料理を売りさばいていく。ギルの伝手で人を増やしたから、料理の在庫はたっぷりあるのだ。


 夕方近くになり、やっとお客さんの波が落ち着いた頃。

 ギルが完売した屋台を前にして、満足そうな息を吐いた。


「今日のところは、僕たちの完勝だったね」


 私も彼の横に立って、私の大事な屋台を見る。


「これで引き下がってくれるでしょうか」


「どうかな。諦めてくれればいいが、そうとは限らない。表立って邪魔ができないとなれば、次は汚い手に出てくるはずさ。本当の戦いは、これからだよ」


「望むところです」


 私はぐっと拳を握った。

 食べ物のお店をやる限り、食料ギルドとの対立は避けて通れない。だったら向こうが諦めるまで、何度でも勝ち続けるのみだ。

 食料ギルドの背後にヴェロニカがいるなら、彼女ともども痛い目に遭ってもらわないとね?


 見上げた空は、きれいな夕焼け色。

 その向こうに、アステリア王城の大きなシルエットがそびえ立っているのが見えた。


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