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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第4章

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53:再出発

「ただいま、フィン、ミア、ラテ! あとついでにクラウスさん! 神殿の認可、取ってきたよ!」


「ほんと!? やったね」


 フィンとミアが飛び上がって喜んでいる。ラテも嬉しそうに尻尾を振り、クラウスは――なんかへこんでいる。


「俺は『ついで』なのか……?」


 めんどくせぇな? あんた、店員じゃないじゃん。

 しかし私は慈愛あふれるシスターだ。彼の手を取って、優しく微笑んだ。


「ごめんなさい、クラウスさん。クラウスさんも今まで、たくさんこの店を助けてくださいましたものね。これからも一緒に頑張りましょう?」


「ああ。任せてくれ」


 クラウスはあっさり立ち直った。うむ、これでS級冒険者を割引きで働かせる口実ができたというもの。


「ねえフィン、アレが僕よりカッコいいクラウスさんかい?」


 ギルがボソボソとフィンにささやきかけている。


「そうだよ。すっごく強くて、おっきな魔物もいっとうりょうだんなんだ!」


「あー、そういう。君くらいの年の男の子は、おしゃれより武力だもんねえ」


「ギルさんは、おしゃれっていうより、ハデなだけ」


 ミアに一刀両断されたギルは、崩れ落ちた。

 そのような小芝居はさておき、明日からまたお店の営業をしなければならない。


「みんなー! 工作するよ!」


 割れ鍋亭の前に、倉庫から旅するキッチンの屋台を出した。

 手作りの看板――ラテをイメージした黒い猫耳つき――を外す。次に小刀を取り出して、神殿の印章を模したマークを彫った。

 さらにはこう書き加える。


『神殿認可・美味しいものを食べて慈善活動をする会』


「よし、いいね。もう一度看板を取り付けてっと」


 取り付けはクラウスがさっとやってくれた。妙に張り切っていらっしゃる。仲間認定が嬉しかったのかもしれない。

 続いて私たちは、木板を切り分けて小さな木札を作った。こちらには「会員証」の文字を記した。


「これは、『会員』になってくれた人に配るよ」


「文字だけじゃ、ちょっとさびしい。ラテ、足、かして」


『なんだ?』


 ミアがラテを抱っこして、右の前足をインクに浸した。


「フギャッ!?」


 ラテが驚いて悲鳴を上げる。ミアは構わず、インクまみれの前足を会員証の木札にぺたりと押し付けた。


「あっ。いいね」


 文字の横に猫の肉球の形がスタンプされている。とても可愛くなった。


『良くないだろうが! 肉球が濡れて気持ち悪い!』


「まあまあ。後でちゃんと足を洗って、夕ごはんにお魚つけるから」


『……チッ。ならば仕方ない。さっさと済ませろ』


 ラテはミアの腕をするりと抜け出して、自分でペタペタとスタンプを始めた。

 横ではクラウスがソワソワしている。ミアが言った。


「クラウスさん、にくきゅうスタンプしてみたい?」


「うむ。頼めるだろうか」


『断る。何が楽しくて大の男に前足を掴まれなければならん』


 クラウスはがっくりうなだれた。気の毒だが、ラテが嫌がるなら仕方ない。

 ギルが困ったように言った。


「あー、皆さん? さっきから猫と話しているけど、そういう遊びなの?」


 おっと。まあ、ギルはもう仲間だ。これから力を合わせていく以上、秘密は減らしていこう。


「ラテ」


 私が目配せすると、ラテはひげをピクリと動かした。


『フン。ギルよ、吾輩は猫ではない。偉大なる腐敗の魔獣だ。この店の発酵マイスターにして、裏の店主でもある。以後、畏敬の念をもって接するように』


「猫ちゃんは魔獣だったのか! これはすごい」


 ギルにラテの能力を説明すると、感心しきりの様子だった。


「なるほどねえ。割れ鍋亭の料理は、ラテちゃんのおかげでもあったんだね」


『おい、ちゃん付けするな』


 ラテは牙をむき出して威嚇したが、猫の姿では迫力がない。クラウスが「可愛い……」と呟いていた。

 私は続ける。


「ギルさん、この店は色々ワケアリなんです。ラテの能力はすごく特別だし、フィンとミアは前に人さらいにあって怖い思いをした。だから口外はしないでください。これから人手を増やすにしても、秘密を守れる信頼できる人をお願いしたいです」


「分かったよ。大丈夫、集めようと思っていた人たちは、前から付き合いがある人間ばかりだ。僕と同じ、今の王都の商売に疑問と不満を持つ奴らさ。現状を打ち破るための同志だからね」


 ギルはしっかりと頷いてくれた。頼もしい限りだ。

 そうしているうちに会員証も完成する。フィンとミアが手分けして、インクを乾かすために木札を並べてくれた。

 私はパンと手を打ち合わせる。


「さて! それじゃあ今日は、たくさん料理を作っておこう。最近はいつも品切れ気味だったものね。ケバブサンドとたこ焼きと、兵糧丸と。そろそろ新メニューも開発したいよね~」


『どんなメニューだ? 魚を使え、魚を』


「うーん、せっかくお醤油とお味噌があるから、そっち使いたい」


 唐揚げは作ってみたから、ラーメンとか? こうじがあるから、甘酒なんかもいいね。


「作りたいものがいっぱいあって、人手が足りないよね」


「じゃあ、すぐにでも人を集めてくるよ。今日これから声をかけて回って、明日にでも連れてこよう」


 ギルが言う。


「お願いします!」


 これで今後は、料理の在庫不足を気にしなくてもよくなる。

 私は腕まくりをした。


「よーし! 明日の分のお料理、作っちゃおう!」


「おーっ!」


 フィンとミアが、嬉しそうに声を上げる。

 私たちは手分けして、たくさんの料理を作った。


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