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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第4章

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48/81

48:たらい回し

 翌日。私は仕方なく、食料ギルドを訪れていた。お供はラテだ。

 王宮近くにある食料ギルドの建物は、やけに豪華だった。見た目からして飾り立てられていたが、内部に入ると玄関に分厚い絨毯が敷かれていて、フカフカである。

 私は落ち着かない中でフカフカしながら歩き、受付へ向かった。


「営業許可を申請しに参りました」


 受付に行くと、きれいなお姉さんにジロリとにらまれる。美人なのに感じ悪っ。


「申請には、まず正組合員からの紹介状が必要になります」


「紹介状? それはどこでもらえますか?」


「このギルドの二階で発行しています。そちらに行ってください」


 私はラテを連れて二階に行った。

 なんか、廊下を歩く時も階段を登っている時もやたらと見られている気がする。


「紹介状をもらいに来ました」


 忙しそうな事務室に入って言えば、カウンターの向こうのおっちゃんが不機嫌そうに応じた。


「紹介状? あぁ、あんたは例の……。その紹介状とやらは、こちらの組合への加入が必要ですよ」


 紹介状とやらって。あんたらが指定してきたんでしょうが。

 示された書類は、「食料ギルド王都組合支部」とある。なんかネーミングが適当すぎない?


「加盟はどうしたらいいですか?」


「四階で受け付けています。書類を書いてきてください」


 たらい回しかよ!

 なんか、昔のゲームでこういうのなかったっけ。ダンジョンの奥のボスモンスターのところへ行くと、戦うかお使いを聞くかの選択肢が出る。普通じゃ勝てない相手なので、仕方なくお使いをする。するとお使いした先でまたお使いを頼まれる!


 四階に行くと、こんなことを言われた。


「ただいま混み合っています。しばらくお待ちを」


「どのくらいですか?」


「二時間くらいですかねぇ」


 長っ。もう帰っていいですか? と言いかけて、黙った。ここで喧嘩をしてもいいことはない。

 仕方なく待ったが、座る椅子の一つもない。廊下に立ちっぱなしである。


『吾輩はもう帰る』


「そんなこと言わずに。一人だと心が折れちゃう」


 ようやく二時間が経過して、部屋のドアが開いた。

 顔を出したのは気難しそうなお兄さんだ。


「食料ギルド王都組合支部? への加盟ですか。えーっとそれなら、こちらの書類を書いてください」


 今、疑問符つけたでしょ。

 出された書類はやけに複雑で、記入する場所がいっぱいあった。注意書きは小さい字で書いてあるので、読むのに苦労する。

 やっとのことで書類を書き終えると。


「じゃあその紙を持って、三階に行ってください」


 いい加減にしてほしい。私は内心のムカつきを抑えながら、三階に向かう。

 指定された窓口に向かうと、二階にいたおっちゃんが待っていた。


「なんだ、バカ正直に手続きしたのか。じゃあ、紙を見せてください」


「はい」


 おっちゃんはちらりと用紙を見ると、すぐに突き返してきた。


「では、あとは金貨千枚を払ってください。それで加盟を受理します。もちろん即金で」


「せんまい!?」


 私は絶句した。

 庶民の年収が金貨十枚とかの世界なのに、千枚!

 そんなお金、あるはずがない!


『最初から、営業許可とやらを出すつもりは無かったようだな』


 ラテが不機嫌そうに言った。


「払わないんですか? じゃあ許可は出せませんね。帰ってください」


 おっちゃんが馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


 要するにこれは嫌がらせだ。無理難題を突きつけて、困らせているだけ。

 でも、食料ギルドが大きな組織で、食料品の商いを一手に引き受けているのは事実。

 私個人の力では勝ち目がない。

 どうすれば……。





 私とラテは追い出されるようにして、食料ギルドの建物を出た。


「ラテ、どうしよう」


『許可など無視して、今まで通り商売をすればいいではないか』


「でもそれだと、嫌がらせが悪化しそう。これからどんな手を使ってくるか、分かったものじゃないわ」


『ふむ……』


 ラテは鼻にシワを寄せる。


『ゴロツキのような相手なら、吾輩が負けるはずもないが。搦手からめてを使われると厄介だな』


「昨日、食料ギルドの人が憲兵と一緒にいたでしょ。最悪、難癖つけて私を逮捕とか、そういうのもないとは言えないかも」


『なんだと。人間社会は面倒だな。魔獣の世界は喰い殺せばそれで済むものを』


 二人でうんうん唸りながら対策を考えるが、何も浮かばない。かといって、引き下がるのなんてもっとできない。

 フィンとミアに心配をかけたくなかったが、あの子たちにも相談するべきか。


 重い気分で道を歩いていく。

 すると。


「こんにちは、シスターのお嬢さん。浮かない顔をして、どうしたの? 僕で良ければ相談に乗るけど?」


 急に横合いから声を掛けられて、私はびっくりした。

 振り返れば、オレンジ色の髪の青年が立っている。年の頃は二十代前半くらいか。ずいぶんとおしゃれな服を着て、髪型もバッチリ決めていた。


「あ、ナンパは間に合っていますので」


 というか、シスター姿の私をナンパするとはいい度胸をしている。神様の罰が下るとは思わないんだろうか。


「つれないなぁ。僕はシスターのこと、前から見ていたのに」


 え、キモ。ストーカーならラテにぶちのめしてもらいますけど?

 思わずそう言いかけて。


「おおかた、食料ギルドの連中にいじめられたんだろ。昨日も一悶着あったものね」


 私は足を止めた。


「どういう意味ですか?」


「そのまんまだよ。あぁ、申し遅れた。僕はギル。見ての通り、おしゃれでカッコいい商人さ」


 ギルはそう言って、ふわさぁっと前髪をかき上げてみせた。絵に描いたようなキザ野郎だった。

 アルフォンスとは別ベクトルで歯が光りそうだ。


「シスター・ルシル。君の商売の評判は知っている。斬新な食材と料理で、町の問題を解決してきたのもね。面白い、非常に面白いよ。あんなの、頭の固い食料ギルドの連中じゃ、絶対思いつかない」


 それから彼は少しだけ表情を改めて、続けた。


「だからシスター。――僕と組まないか?」


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