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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第4章

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47:次なる問題

【ルシル視点】



 旅するキッチンの営業は、絶好調だった。

 新しく開発した兵糧丸は、屋台の新しい定番メニューとなっている。今までのケバブサンドとたこ焼きはその場で食べる軽食だったのに対し、携帯食という新しい道を開いたのだ。

 本来の目標だった警備兵だけでなく、冒険者や行商人、旅人にも大人気のメニューとなった。


 そしてもう一つ。私たちの店の安定経営に一役買ってくれる出来事があった。


「シスター。今日の分の兵糧丸を引き取りに来ました」


 割れ鍋亭の店先に、若い警備兵が顔を出した。


「いつもありがとうございます。はいこれ、どうぞ」


「どうも」


 中倉庫の能力持ちの彼は、カゴいっぱいに盛られた兵糧丸を格納していく。


「でも、良かったですね。思ったより早く携帯食用の予算がついて」


 私が言うと、警備兵はにっこりと笑った。


「はい。大隊長が王国軍の上層部に掛け合ったら、案外あっさり予算が下りたそうです。どうも、どこかのお偉いさんが口添えしてくれたそうですよ」


「へぇ~。誰でしょうね。偉い人ですか。王家の誰か、王子様とかかな?」


「あはは。そうかもしれませんね、なーんて」


 私たちは冗談を言って笑いあった。


 そう。警備兵たちの携帯食に、兵糧丸が正式採用されたのだ。

 おかげで国から予算が出るようになって、兵士たちは自腹を切らずに済んでいる。

 それでこうして毎日、必要量を納品している。


「はい、今日の分の代金です」


「確かにいただきました」


 屋台とお店の販売も、しっかりと売上が上がっている。

 でもそれとは別に、保証された安定収入があるのは頼もしい。

 兵糧丸は料理としてはかなり簡単なので、フィンとミアに積極的に手伝ってもらっている。ナタリーも時々来ては、一緒に作ってくれる。クラウスもなんでかたまに手伝ってくれる。

 なんにもしないのはラテくらいである。まあ、彼は発酵と熟成という超重要なお仕事をしっかり果たしてくれているけれど。


「では、また」


「はい。警備兵のみなさんに、神様の祝福がありますように」


 お祈りをすると、若い兵士は敬礼で返してくれた。そのまま去っていく。


「ルシルー。兵糧丸の生地、丸め終わったよ」


 厨房からフィンが顔を出した。


「はいはーい。じゃあ、蒸し器にセットしないとね」


 火の扱いは双子じゃちょっと危ないので、私の出番である。

 王都中の警備兵の兵糧丸は、けっこうな数だ。蒸し器は三つに増やしたけれど、正直、最近は忙しすぎる。

 料理して、お店と屋台で売って、警備兵に納品して。寝るのとご飯食べるのとお風呂するの以外は、みんな働き詰めだ。

 たまには休むようにしているけれど、フィンとミアが過労で倒れないか心配になる。


(お店、人を雇った方がいいのかなぁ……)


 そんなことを思う。

 問題は、人を雇う伝手が何もない点だ。というか、どうやって募集をかければいいのかも分からない。前世みたいにお店にアルバイト募集の張り紙でもしておけばいいだろうか?


 でも、フィンとミアが人さらいにさらわれかけた事件がある。

 ラテとクラウスがいるとはいえ、素性の知れない人を店に入れたくないのだ。


 本当はもっとメニュー開発をしたいし、ゆくゆくは割れ鍋亭を食堂として解放したい。宿屋もやってみたい。

 夢ばかりは大きく膨らんで、実際は人手不足。何とも世知辛い話である。


 この前聞かされた、食料ギルドが警戒している話もある。ラテが感じた正体不明の魔力も。

 心配事は多いけれど、まあ、何かあったら何とかしていこう。


「さて! 兵糧丸が蒸し上がったら、旅するキッチンを出動させるよー!」


「おー!」


 私は気持ちを切り替えて、目の前の仕事に取り組んだ。





 蒸し終わった兵糧丸を食堂のテーブルに並べた。あとは冷ませば完成だ。


「ラテ。私、屋台で行ってくるから。見張りをお願いね」


『あいわかった』


 ラテは頷く代わりに、尻尾を振っている。

 私はフィンを連れて店の外に出た。


 すると、店の前に何人かの男性たちが立っていた。一人は下町に不似合いなほど立派な服を着た人。他は憲兵――魔物を相手にする警備兵と違い、人間の犯罪者を取り締まる兵士たち――が数人、付き従うようにしている。


「ここが、例の無許可営業の店か」


 立派な身なりの男が、偉そうな口調で言った。いかにも見下した目で私をジロジロ見た後、一枚の羊皮紙を突きつけてくる。


「……何ですか?」


「読めば分かる」


 仕方なく紙を受け取って読んでみる。


『警告書。当該店舗は食料ギルドの許可なく営業していると判明した。また、魔物の肉などの「規格外」の食材の使用も確認された。ただちに改善するように』


「そんな馬鹿な!」


 私は思わず声を上げた。

 こう見えて、私は前世でキッチンカーのオーナーだった人間。お店を出すにあたって、法律上の手続きやら商習慣やらがある可能性は考えていた。だからちゃんと調べて、結果、この国では特に許可はいらないと知ったのに。


 魔物肉だって、普通に流通している食材だ。ロックリザードはうちの専売だけど、他の食べやすい肉は冒険者ギルド経由で市場に流れている。


「食料ギルドの許可が要るなんて、初耳ですよ。お役所にも確認したのに」


「許可制は今月から導入された。今後は無許可の食料店をどんどん取り締まっていく」


「はぁ!?」


 無茶苦茶である。今月から導入されたなら、全部の店が無許可ってことじゃないか。

 だが、食料ギルドの男は私の言い分なんて最初から聞く気がなかったようだ。背後では憲兵が威圧するようにこちらを睨んでいる。


「三日以内にギルド本部へ出頭し、正規の営業許可を取ること。それができなければ、この店は営業停止処分とする。分かったな、シスター」


 いや分かんねぇから。

 ツッコミを入れる暇もない。男は一方的に言うと、さっさと去っていった。


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