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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第4章

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41:兵糧丸

 兵糧丸の材料は、小麦粉、粉にしていないもち麦、そば粉、雑穀のあわ

 どれも安価で手に入りやすいし、粟は水分で膨らむ性質がある。腹持ちアップに最適だ。


 さらに大豆。前世の定番レシピではきな粉だったけど、粉にするのは大変なので、茹でた大豆をペースト状にして練り込む。

 ゴマはセサミンとかの栄養たっぷり。

 ハチミツも滋養がある上に、抗菌作用がある。

 ショウガも外せない。ピリッと爽やかな味に、これまた抗菌作用アップ。


 さらに、オリーブオイル。この国では一番流通している種類の油だ。

 オイルを入れておけばつなぎになるし、腹持ちもアップする。


 あとは薬草類だ。シジミのおかゆでも使った森ニラと、ナタリーに教えてもらったギヨモという草を使う。

 ギヨモは血行促進や疲労回復、冷え性改善に効くんだそうだ。過酷な環境で戦っている警備兵たちにぴったりな成分である。


 とりあえずこの辺を基本レシピにして、ドライフルーツやナッツ類は味見しながら加えてみよう。

 私は材料を厨房に並べた。


「さあ、始めるよ! まずは基本のレシピからね」


「おーっ!」


 フィンとミアが腕まくりして、手伝ってくれた。


 兵糧丸の作り方は、簡単だ。

 ボウルにまずは粉類と大豆ペーストを入れて混ぜる。次にオリーブオイルとハチミツ、水を入れて練った。

 最後にゴマやショウガ、薬草類を刻んだものを足して、さらに混ぜる。


「うんしょ、うんしょ……」


 フィンとミアは一生懸命混ぜている。ラテとクラウスは横から興味深そうに覗いていた。


「お味噌も入れるよ」


 最後にラテ特製の味噌を隠し味に混ぜた。

 味噌は元々、殺菌作用がある。乳酸菌の働きや発酵過程で作られた成分が合わさって、強い抗菌作用を持つのだ。

 しかもこの味噌はラテ謹製。彼の特別な発酵パワーで選びぬかれた、麹菌(仮)がたっぷりと含まれている。


『フン、おぬしにしては賢い選択だ。吾輩の味噌はそんじょそこらの雑菌などには負けぬからな』


 ラテは得意そうに胸を張っている。胸毛がふさふさでかわいい。

 撫でてあげたかったけど、今は手が兵糧丸の生地まみれなので我慢我慢。


 と思っていたら、クラウスが手を伸ばした。


『おい、貴様。勝手に触るな。どうしてもと言うなら捧げ物をしてからにしろ』


 ラテが偉そうに言う。しょんぼりとしたクラウスに、私はアドバイスをした。


「クラウスさん、ラテはあごの下をこちょこちょされるのが好きですよ。指先でちょちょっと撫でて、あとは喉の方も優しく撫でてあげればイチコロですから」


「なるほど」


『ルシル! 吾輩はそのような安い魔獣では……ごろにゃ~ん』


 クラウスが言われた通りあごをくすぐっている。喉の方まで撫でられて、とても気持ちよさそうだ。

 しかしはっと我に返ると、飛びすさって背中の毛を立てた。


『ルシルやガキどもならともかく、なんで大の男に触られねばならん! あっち行け、しっしっ! シャーッ!』


「まだ修行が足らなかったか。他の猫で練習してこなければ」


 クラウスは落ち込みつつも、念願のラテに触れてちょっと嬉しそうだ。いつもの真顔がほころんでいる。

 そんな彼らをフィンとミアは呆れた目で見ている。


「ねえ、ミア。クラウスさんは強くてかっこいいのに、なんかヘンだよね」


「フィン、言っちゃだめだよ。男の人はいつまでたってもみんな子供だって、お母さんも言ってたでしょ」


「ぼくはちゃんとした大人になるもん!」


 なんかさあ。フィンとミアのご両親の語録が冴えすぎていて、亡くなってしまったのがホントに惜しいわ。


 そんな茶番はあったが、私たちは手を止めない。

 そうして材料がしっかり混ざったら、少しずつちぎって丸めていく。


「ルシル。どのくらいの大きさにするの?」


 フィンが生地をちぎって、首を傾げた。


「んー。ニンジャは五センチくらいのを食べていたみたいだけど、それじゃあちょっと大きいよね」


 片手でポンと口に放り込める大きさがいいから、二~三センチ程度か。

 私たちは生地を小さめに丸めていった。

 そうして丸めたたくさんの生地を、蒸し器にセットする。


 なお、この国に「蒸す」という料理法は行き渡っていなかったので、蒸し器も特注だ。

 といっても大きな鍋に少し水を入れて、金網をセットするだけ。あとはふたをすれば、上がってきた湯気でしっかりと蒸される寸法である。


「変わったおなべだね」


 フィンが目を丸くしている。


 たこ焼き器もそうだけど、こういうオーダーメイドの器具を作るとお値段がそれなりに……。

 今回は網がセットできる鍋だからそこまでではなかったものの、新しいことを始めるとお金がかかって仕方がない。

 まあ、きっちり元は取るけどね。


 蒸し器の金網の上に、丸めた兵糧丸を並べていく。


「くっついちゃうといけないから、少し離して並べてね」


「はーい」


 きれいに並べられた兵糧丸を確認して、ふたを閉めた。

 水が沸騰する音がして、蒸し器のふたの隙間から湯気が漏れてくる。混ぜ合わせた食材のいい匂いが漂って、ちょっとお腹が減ってしまいそうだ。


 そうして約二十分。

 まんまるの兵糧丸が、しっかりと蒸し上がった。


「あちち!」


 金網は熱せられてとても熱い。鍋つかみで慎重に取り出すと、湯気で蒸された兵糧丸はぷるぷるとした弾力のある姿に変わっている。


「おいしそう」


 ミアが手を伸ばしかけるが、ラテが肉球の手でぱしっと軽く猫パンチをした。


『まだ熱いぞ。気をつけろ』


「うー」


 ミアは残念そうに指をくわえている。フィンも手を近づけては、熱気を感じて頬をふくらませていた。

 やがて冷めてきたので、みんなで試食タイム。



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