第434話 戦闘
「エリオット! させないニャン! ニャニャニャニャニャーッ!」
槍を手にした猫耳族の少女が、部屋へと踊り込んできた。
「ちっ、新手かよ!」
エリオットにトドメを刺そうとしていた男たちは、慌てて跳び退る。
乱入してきた猫耳族の少女──槍使いのミャーナも、深追いはせずに牽制攻撃にとどめ、エリオットの保護を優先した。
「水の癒しよ、かの者に再び戦う力を──ハイドロヒール!」
さらに部屋の外からは、別の女性の声。
傷付いたエリオットの体を治癒の魔力が覆い、傷を癒していく。
その声の主も、少し遅れて部屋に駆け込んできた。
魔導士姿をした女冒険者だ。
「ミャーナ、ルシア! た、助かった!」
「もう、一人で無茶するなニャン!」
「気持ちは分かりますけどね~。アンナさんが不届き者にさらわれたのなら、一分一秒も惜しいですから。──そういうわけで、邪魔なこいつらはちゃっちゃと片付けましょう」
「ああ。アンナはこの先にいる。こいつらが白状した!」
治癒魔法によって体勢を立て直したエリオット、そしてミャーナ、ルシアがあらためて攻撃を開始した。
戦力比は逆転し、三対二だ。
二人の男は、徐々に追い詰められていく。
「くそっ、こうなりゃドンに応援を頼むしか──!」
「ああ。──旦那! ヴェロッキオの旦那! その女の仲間が来やがりました! 冒険者が三人です! 俺たちだけじゃあ──ぐあっ!」
エリオットの剣が、ミャーナの槍が、ルシアの魔法攻撃が男たちを追い詰めていく。
男たちも粘ったが、その間に増援が来ることはなかった。
「いい加減、くたばるニャン──《強撃》!」
「がはっ……! くっそぉ……こんな、ガキどもに……」
まず一人が、ミャーナの槍に貫かれて倒れ、
「トドメだ──《二段斬り》!」
「ぐわぁあああああっ!」
もう一人も、エリオットの剣による連撃で断ち切られ、HPの残りを奪われて倒れた。
死闘に勝利した三人の若き冒険者たちは、荒く息をつく。
勝利したとはいえ、前衛であるエリオットとミャーナは少なからずダメージを負っていた。
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
「エリオットさん、ミャーナも、すぐに治癒魔法を」
「そ、そんなのは後でいいニャン。それよりも、すぐにアンナを助けに行かないとニャン」
「ああ。こいつらの口ぶりだと、このすぐ先にいるはずだ」
エリオットは部屋の奥にある扉の前まで大股で歩いていって、扉に手をかけようとした。
だがその手が、びくりと震えて引っ込められる。
「エリオット、どうしたニャン?」
「い、いや……」
エリオットはぶんぶんと首を振り、あらためて扉の取っ手に手をかけた。
それから扉を引き開ける。
扉の向こうは、まっすぐな廊下になっていた。
奥のほう、行き止まり付近の左手側の壁に、扉が一つある。
廊下があらわになった瞬間、ミャーナとルシアもその身を震わせた。
彼女らが感じたことのない「圧」が、廊下の奥から押し寄せてきていた。
「な、なんニャ、これ……?」
「ミャーナも……? この怖気のような感覚は……」
ミャーナは槍を持つ手を震わせ、ルシアは杖を握りしめつつごくりと唾を呑む。
「や、やはり回復魔法を先に……」
ルシアがそう言って、魔法発動のための精神集中を始めたときのことだった。
廊下の奥にあった扉が、開いた。
扉の先から廊下へと出てきたのは、ずたぼろになった少女を手にした、一人の男の姿だった。
「ああ……? もうやられてんのかよ、クソ使えねぇな。これからだってときに、番犬も満足にやれねぇのかよ」
その男は、体格がよく筋肉質で、半裸の姿だった。
右手に抜き身の剣を持ち、上半身は全裸。
下はズボンを履いているが、ほかに衣服や装備品のたぐいはない。
男は鷹のような鋭いまなざしで、侵入者たちを睨みつける。
ミャーナとルシアはそれに怯み、わずかに後ずさったが、エリオットはギリギリで踏みとどまった。
「アンナ! 貴様、アンナに何をした!」
エリオットは叫ぶ。
だが怒りに駆られた青年の足も、前には出なかった。
「……エリ、オット……うううっ……」
その少女は、男の手に首根っこを掴まれ、吊るされた状態だった。
盾にするでもないのだろうが、エリオットたちに向けて晒すように突きつけられていた。
こちらも半裸と呼べる姿だ。
衣服はところ構わず破り裂かれ、少女の体を隠す役割をほとんど放棄している。
白い肌のあちこちには青あざができ、切り傷が刻まれている。
その瞳は淀み、絶望と恐怖の色に染まっていた。
少女を掴み上げた男は、エリオットたちを見て、その表情に愉悦をにじませる。
「ハッ、さてはテメェ、この女冒険者の男か? くくくっ、わりぃな、こいつはもう俺のものになることに決まった。それにせっかく獲物のほうから来てくれたんだ。そっちの二人ももらっとくか。ハハハッ、今日は大漁だな」
男の目が向けられ、ミャーナとルシアが再びびくりと震えた。
「ぐっ──だ、黙れぇええええええっ!」
動かなかったエリオットの足が、動いた。
剣を片手に、男のほうへと向かって廊下を駆けていく。
「くくくっ、来いよ雑魚。力の差を教えてやる」
男は手にしていた少女──アンナの体を部屋のほうに向けて放り捨てると、剣を片手にエリオットを迎え撃つ構えを見せた。




