第414話 決着
「氷の女王」を倒してしまえば、あとは烏合の衆──というほどでもなかったが。
いずれにせよ敵の最大火力を撃破してしまえば、戦場の危険度は大幅に下がった。
俺たちは残存する敵戦力──スノードラゴンとフロストジャイアントを、残りHPが低くなったものから順に倒していった。
竜と巨人は一体、また一体と数を減らしていき、やがて最後の一体を討伐するに至った。
戦闘が終わったとき、広間には幾多の覚醒者たちが倒れていた。
いずれも血を流し、あるいは体に霜や凍傷を負った状態で意識を失っている。
全部で百人ほどいる覚醒者たちのうち、実に二十人以上が戦闘不能状態に陥っていた。
こうした被害状況は、今の戦いがどれほど激しいものであったのかを、如実に物語っていた。
だが確認して回ったところ、「死亡」に至った者は一人もいなかった。
非常に危うかったが、結果的には完全勝利と見ていいだろう。
俺たちには、ミッション達成の通知も出ていた。
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ミッション『「氷の女王」を1体討伐する』を達成した!
パーティ全員が350000ポイントの経験値を獲得!
特別ミッション『討伐依頼を受けてアイスキャッスルに向かい「氷の女王」を討伐する』を達成した!
パーティ全員が350000ポイントの経験値を獲得!
六槍大地が62レベルにレベルアップ!
小太刀風音が61レベルにレベルアップ!
弓月火垂が61レベルにレベルアップ!
現在の経験値
六槍大地……5019854/5464572(次のレベルまで:444718)
小太刀風音……4674536/4987766(次のレベルまで:313230)
弓月火垂……4906801/4987766(次のレベルまで:80965)
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三人とも一気に2レベルのアップだ。
これで全員が61レベルの大台に乗った。
修得可能スキルリストに新スキルの出現が期待できるが、それは後でチェックしよう。
また今の戦闘でスノードラゴンを4体と、フロストジャイアントを3体、俺たちでトドメを刺していた。
これでドラゴン、ジャイアントとも累計討伐数が9体となり、どちらも10体討伐のミッション達成まであと一歩となった。
もう1体ずつ倒せていれば完璧だったのだが、いつ人死にが出てもおかしくない今の戦いの中で、さすがにそこまで意識していられなかった。
この先のお楽しみということでいいだろう。
「ふわあ~、なんとか勝てたぁ。死ぬかと思ったよ~」
すべてが終わった後、風音が腰を抜かすようにして、ぺたんと座り込む。
俺が駆け寄ると「大地くん、抱っこして~」と両腕を広げて甘え散らかしてきたので、俺は風音の手を取って立ち上がらせ、優しく抱きしめた。
そのまま後ろ髪をなでてやると、風音は「これが吊り橋効果ってやつだね」と言いながら、俺に唇を重ねてきた。
俺は驚きつつもそれを受け入れ、恋人の時間を満喫した。
例によって周囲の目は気にしてはいけない。
あと吊り橋効果はちょっと違うと思う。
風音はそれから、甘えるような上目遣いで「街に戻ったら、もっと大地くんと一緒にいたいな」と言ってきた。
何か思うところでもあったのかもしれない。
もちろん俺は二つ返事で同意した。
さらには弓月がやってきて、「先輩、分かってるっすよね?」と言うので、俺はもう一人の相方にも同じようにした。
それから唇を離し、顔を真っ赤にして恥ずかしがる後輩の頭をなでてやる。
「見せつけてくれるな。ちっとは遠慮ってもんがねぇのかよ」
傭兵団長ヴィダルが歩み寄ってきて、苦笑しながらそう口にした。
見ればヴィダルは、体のいくつかの部位がかなりの量の血に染まっていた。
防具も大きく破損している。
それらの状態は、この男の戦いも容易いものではなかったことを物語っていた。
もちろん治癒魔法により、現在は負傷そのものは癒されているようだが。
そういえばヴィダル率いる傭兵団には、ほかの部隊とは違って、戦闘不能者が一人もいないようだ。
この男が獅子奮迅の働きをしたのかもしれない。
その上で俺たちへの援護もしてきたのなら、さすがと言うほかない。
俺はバツが悪くなり、露骨に話題を逸らした。
「援護、助かりました。あれがなかったら、まずいことになっていたかもしれません」
「さすがの英雄様たちも、苦戦しているようだったからな。感謝してるってんなら、どっちかの女を一晩差し出してくれてもいいんだぜ。なんなら両方でもいい」
「……は? 喧嘩を売っているんですか?」
「ちょっ、おいおい、ストップストップ! ほんの冗談だろうが」
俺が睨みつけると、ヴィダルは両手をあげて降参の仕草を見せた。
やっぱりダメだこいつ。
しかし女日照りだとこうも見境がなくなるかね──などと、半年前の自分からは考えられない感想を抱いている俺がいた。
「でもホント、あの援護がなかったら危なかったっすよ。風音さんかグリちゃんのどっちかが、次の攻撃でやられてもおかしくなかっ……あああーっ!」
弓月が唐突に叫んだ。
何事かと思っていると、後輩はだらだらと汗を流し、あちこち視線をうろつかせる。
「どうした弓月。何かまずいことでもあったか?」
「あ、いや、その……う、うち、【リザレクション】持ってたっすよ……」
火属性魔法【リザレクション】。
戦闘不能になった覚醒者を即座に復活させ、活動可能状態にする魔法だ。
弓月が51レベルを超えた段階で修得したスキルの一つである。
でもそれに何か、叫ぶような要素があるだろうか。
「倒れている人たちを、すぐに回復したほうがいいってことか?」
「そうじゃなくて、その……【リザレクション】、戦闘不能になってない相手にも、普通に回復魔法として使えるんすよ……」
「あー、そういやそんなことも言ってたな。でもそれがどうかして……あーっ、そういうことか」
「そういうことっす。今の戦い、うちも回復手に回れたっすよ……」
どうやらミスをしていたのは、俺だけではなかったらしい。
もっとも、弓月まで回復に回ったらそれはそれでこっちの火力が激減するので、完全なミスとも言い切れないとは思うが。
ていうか、俺も忘れていたしな。
「そうか。ミスをしたのはお互い様ってことだな」
「ん……? 先輩も何かミスしたっすか?」
「あー……まあ、あれだ。いろいろあるよな」
「あ、誤魔化したっす」
と、そんなこんなのやり取りがありつつも。
無事に「氷の女王」の討伐を終えた俺たちは、凱旋よろしく帰還の途についた。
戦闘不能者は担いで運び、戦場となった広間をあとにする。
帰路はどこかというと、戦闘を終えた段階で、広間の入り口の扉が開いていた。
扉の先には転移魔法陣があり、そこに全員で足を踏み入れる。
転移魔法陣が起動し、さあ出口か──と思っていると、予想外の部屋に出た。
「……宝箱、ですか?」
ソフィアさんが、虚を突かれた様子で声を上げる。
転移先の広間には、宝箱が三つ、堂々と置かれていたのだ。




