第197話 会議(2)
「のう、ドワーフの。一つ聞くが──この集落の近くに『ダンジョン』はないか?」
ユースフィアさんの言葉に、ドワーフ戦士たちはにわかに騒めいた。
議長席のグランバさんが問い返す。
「『ダンジョン』というと、いわゆる『狭義のダンジョン』のことか?」
「うむ。あふれ出し現象が起こっているとすれば、この状況にもある程度の説明はつく。それでも分からん部分はあるが……」
完全に聞く側に回っていた俺は、ここで少し驚いた。
ユースフィアさんの口から、馴染みのない、しかしわずかに聞き覚えのある言葉が出てきたからだ。
あふれ出し現象──それは俺たちの世界でも過去にあったと言われる、ダンジョンからモンスターがあふれ出してくる現象のことだ。
こっちの世界のダンジョンでもそれがあるのかとか、こっちの世界でもそう呼ぶのか、いや【翻訳】スキルの効果かとか、いろいろと思うところはあるが。
「いや、『狭義のダンジョン』が集落の近くにあるなど、ワシは聞いたことがないぞ」
グランバさんが、ユースフィアさんの問いに答える。
ほかのドワーフ戦士たちも、それにうなずいた。
するとユースフィアさんは、次の見解を示す。
「だとすれば、あるいは『できた』のかもしれんな」
「『できた』って、何がです?」
俺が問うと、ユースフィアさんは俺のほうを向いて、こう返してきた。
「だから、『新たなダンジョン』が、じゃよ」
「『新しいダンジョン』が、できた……!? そんなことがあるの?」
俺の隣で驚きの声をあげたのは、風音さんだ。
一方で俺は、ああそうか、そういうこともあるのかと納得していた。
俺たちの世界でも、ダンジョンは三十年ほど前のあるとき、突然に「できた」のだと目されている。
そのときには、全世界で同時多発的にダンジョンが発生したらしく、世界的にモンスターのあふれ出し現象が起こったとのことだが。
一方で、現代でも稀に──それこそ世界的にも稀な現象だが───新たなダンジョンが「できた」としか思えない事態が起こるらしいとは聞いていた。
そのケースに限っては、一般人の前にモンスターが現れる可能性が生まれる。
どうしても一定の被害が出て、その後、探索者が集まってきてダンジョンに潜り、あふれ出し現象が終了するのが一般的な流れらしいが。
「無論、滅多にあることではないがの。それに仮説の段階じゃ。可能性の一つとしてあり得る、ぐらいに考えておくことじゃな」
ユースフィアさんはそう言ってから、「だが」と付け加える。
「その場合には、このような襲撃は半永久的に続くぞ。ダンジョンに潜ってボスを倒し、ダンジョンを『クリア』しない限りはな」
その言葉に、会議室全体がしんと静まり返った。
ドワーフ戦士の誰かが、ごくりと唾をのむ。
次には弓月がびしっと挙手をして、こんな発言をした。
「じゃあ逆に言うと、そのダンジョンに行ってボスを倒せば、全部解決、万々歳ってことっすよね?」
ドヤ顔の弓月である。
なお挙手制の会議ではない。
だからというわけでもないだろうが、ユースフィアさんは眉をしかめた。
「だから早合点をするな。仮説の段階だと言っておろう。それにダンジョンがあったとて、どこにあるとも分からんのじゃ。この周辺の山中をしらみつぶしに探すつもりか?」
「うっ……ま、まあ、それはそうっすけど」
言葉を詰まらせる弓月。
次に言葉を継いだのは、議長席のグランバさんだった。
「話は分かった。ユースフィア殿の意見は、可能性の一つとして検討しておこう。いずれにせよ、族長の帰還までは集落の防衛を優先するべきだろう。──そこでダイチ殿、カザネ殿、ホタル殿、ユースフィア殿。集落の防衛を担う傭兵として、我々に雇われてはくれんか」
グランバさんは、俺たちとユースフィアさんのほうを見回して、本題だとばかりにそう切り出した。
「期間はひとまず、我らが族長バルザムントが帰還するまで。明日か、遅くとも明後日には帰還の予定だ。報酬は一日につき、一人あたり大金貨5枚を払おう。その間にモンスターの襲撃があろうとも、そうでなくともだ。またそれとは別に、今日助けてもらった分の礼として大金貨5枚ずつを支払おう。どうだ、頼まれてはくれんか」
するとドワーフ戦士たちがまた、にわかに騒めいた。
「一日につき、大金貨5枚だと? 四人で20枚……そんな大金を払うのか……」
「だが背に腹は代えられまい。集落の戦士に死人が出るよりもずっといい。金はまた、ヒト族の集落にモノを売りにいって稼げばいいのだ」
「ああ。それに最悪のケースも考えておかなければならん。俺はグランバの提案は妥当だと思うぞ」
あれこれと意見を言うドワーフ戦士たちである。
まあ、安い金額じゃないからな。
ちなみにだが、Aランククエストの報酬相場が、一日以内で片付くような仕事で大金貨12枚~15枚程度だ。
これは25レベルの熟練冒険者四人以上を想定したものなので、一人につき大金貨5枚は、熟練冒険者を雇うための金額としても十分すぎる額と言える。
そして──お待ちかねのピコンッが来た。
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特別ミッション『族長バルザムントが帰還するまでドワーフ大集落ダグマハルを防衛する』が発生!
ミッション達成時の獲得経験値……20000ポイント
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20000ポイント、20000ポイントかぁ……。
一日で終わるか、二日かかるか分からないミッションで、20000ポイント。
まあ十分に「有り」の圏内だな。
何より、ここで集落のドワーフたちを見捨てて、はいサヨウナラはしたくないし。
風音さんと弓月も文句はなさそうだ。
俺が代表して、グランバさんに返事をする。
「分かりました。その依頼、俺たち三人は引き受けます。ユースフィアさんは──」
部屋の隅でひねくれ者をやっているダークエルフに目を向ける。
まあどうせ、引き受けるんでしょ。
なんやかんや、いい人だしね──このときの俺は、そう思っていた。
だがユースフィアさんは、少し意外な返事をしてみせた。
「わしは断る」
そう言ったのだ。
その場にいたドワーフ戦士たちが、再び騒めく。
グランバさんが眉をひそめながら、ユースフィアさんに問いかける。
「ダークエルフの客人よ。理由を聞いてもよいか」
「理由は二つじゃ。一つ、わしは今、金に困っておらん。二つ、わしは自由を束縛されるのが嫌いじゃ。契約をすれば勝手ができん。わしは勝手にやらせてもらう。──が、どの道バルザムントが帰ってくるまでは滞在するつもりじゃ。その間にモンスターどもの襲撃があったら、気が向いたら手伝ってやろう」
「「「…………」」」
め、めんどくせぇ~!
この場にいたユースフィアさん以外の誰もが、そう思ったに違いない。
でもまあ、有事の際には、なんとなく協力はしてくれそうだ。
俺、風音さん、弓月の三人は互いに顔を見合わせ、苦笑したのだった。




