第187話 ゾンビ討伐
村を出てから、森の中の獣道を西に進むこと三十分ほど。
あるとき風音さんが、ぴくりと反応し、俺たちを制止した。
風音さんは、ここまで道案内をしてくれた村の狩人に、小声で問う。
「モーリスさん、この先ですよね?」
「あ、ああ。よく分かったな」
「複数の気配がありますから。おそらくはモンスター──ゾンビのものかと。ねぇ大地くん、モーリスさんはここまでで帰ってもらって大丈夫だよね?」
「ですね。モーリスさん、あとは俺たちでやります。先に村に戻っていてください」
「わ、分かった。よろしく頼む」
村の狩人はそう言って、村のほうへと帰還していった。
それを確認してから、俺と風音さんは【隠密】スキルを発動し、森の木々の間を静かに進んでいく。
わずかに数歩進むだけで、木々にふさがれていた視界がある程度開け、その光景を目視できる場所まで来た。
森の中の広場のような場所に、古びた石造りの神殿が建っている。
その周囲には、複数の動く死体──ゾンビの群れが徘徊していた。
ゾンビはスケルトンと同じく、素材さえあれば闇魔法によって生み出すことが可能なモンスターらしいが、スケルトンと同様に決して強くはない。
スケルトンよりも敏捷性や防御力が低い一方で、HPや攻撃力が高めなのが特徴とはいえ、今の俺たちの実力からすれば、そんなものは誤差の範囲でしかないだろう。
つまり問題があるとすれば、目の前のゾンビの群れではなく、その先なのだが──
ひとまず見えている仕事を片付けるとしようか。
「風音さん」
「うん、大地くん」
風音さんは【隠密】スキルを解除し、すぐさま魔法発動のための集中に入る。
【隠密】スキル発動状態だと、魔法は使えないのだ。
そのアクションによって、ゾンビたちは風音さんの存在に気付いたようだった。
ホラー映画で見るようなポーズで、神殿前にいた十体を超えるゾンビたちが、俺たちのほうに向かって一斉に近付いてくる。
だが最も近い場所にいるゾンビでも、俺たちまでの距離は目算で数十歩ほど。
風音さんの魔法発動の準備はすぐに整い、むしろ群れ全体が十分に近付いてくるまで引き付ける必要があるぐらいだった。
その間に俺は、少し後ろに控えていた弓月を呼び、すぐそばまで寄って越させた。
「あれがゾンビっすか。またぞろぞろといるっすね」
背後まで来て俺に寄りかかってきた弓月が、そう感想を漏らす。
緊張感はないが、ひとまずは緊張するべき相手でないのも確かだ。
「目視可能な範囲にいる数だと、ざっと十五体ってとこか」
「ゾンビはそれで全部だと思うよ。ものすごく遠くにいなければだけど。──大地くん、そろそろ撃っていい?」
風音さんがそう聞いてくるので、俺はゴーサインを出した。
同時に俺は、弓月の肩に乗っていたグリフォンを地面に下ろし、【テイム】を使って本来の大きさに戻す。
このあとの展開がいまいち読めないので、念のためだ。
「よし、それじゃ──【ウィンドストーム】!」
風音さんは、十分に引き付けて大多数のゾンビが効果範囲に入ったところを狙って、範囲攻撃魔法を放った。
神殿前のゾンビが密集した空間に、ごうと唸りを上げて、風刃を大量に含んだ魔法の嵐が巻き起こる。
嵐がやむと同時に、魔法攻撃の範囲内にいたゾンビはすべて黒い靄となって消滅、魔石へと姿を変えた。
三体ほど範囲内に巻き込めずに取り逃がしたが、これは俺と弓月、それに風音さんの単体攻撃魔法によって、各個撃破で片付けることに成功。
「ふぅ。ひとまず片付いたな」
「だね」
「問題はここからっすね」
「クアッ、クアッ!」
ピコンッと音がして、メッセージボードが出現する。
いつも通り、ミッション達成のお知らせだ。
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ミッション『ゾンビを10体討伐する』を達成した!
パーティ全員が2000ポイントの経験値を獲得!
特別ミッション『西の神殿跡にいるゾンビの群れを討伐する』を達成した!
パーティ全員が3000ポイントの経験値を獲得!
新規ミッション『グールを3体討伐する』(獲得経験値5000)を獲得!
現在の経験値
六槍大地……309934/344368(次のレベルまで:34434)
小太刀風音……302426/303707(次のレベルまで:1281)
弓月火垂……310051/344368(次のレベルまで:34317)
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俺たちは神殿前の広場に出て、魔石を拾い集めながら、周囲を警戒する。
すぐに風音さんが、こう伝えてきた。
「やっぱりいる。神殿の中、気配が一つ。こっちに来るよ」
神殿に向けての警戒を強めていると、やがて今は使われていないはずの神殿の中から、一つの人影が歩み出てきた。
「一体なんじゃ、騒がしい。ああもう、せっかく作ったゾンビどもが倒されておるではないか」
そう言って神殿の入り口に姿を現したのは、露出度の高い衣装に身を包み、細身の剣を腰から提げた、一人のダークエルフの少女だった。




