第165話 メイドたちの話
使用人の姿に扮した俺と風音さんは、屋敷内の捜索を進めていく。
だが、何しろ部屋の数が多い。
ゴルドーの寝室、ゴルドーの執務室など、疑わしい場所は優先的に探っていったが、今のところ特に収穫はなし。
「見付からないですね。すべての部屋をしらみつぶしにしていくしかないか。でも隠し部屋まであり得るものを、どうやって探したらいいのか」
「しっ。大地くん、この先の部屋に二人いるよ。台所かな?」
廊下を歩いていると、風音さんが注意を飛ばしてきた。
もう少し進むと話し声が聞こえてきたので、近くまで寄ってみる。
廊下からのぞき込むと、そこはやはり台所のようだった。
メイド服を着た二人の女性が、野菜の皮をむくなどの調理作業をしている。
一人は若い女性で、もう一人は年配だ。
俺と風音さんは台所前の廊下にひそみ、中の会話の様子をうかがうことにした。
若いメイドが、年配のメイドに話しかける。
「あのぉ、怒られるかもしれないんですけど、つかぬことを聞いてもいいですか?」
「何ですか。新入りのあなたは、少しでも早く仕事を覚えなければいけません。分からないことがあったら分からないままにしていないで、遠慮なく質問をなさい」
「いえ、そういうのとはちょっと違うんですけど。さっき毛布とロープでぐるぐる巻きにされた荷物を、冒険者っぽい大柄な男の人が物置部屋に運び込んでいたじゃないですか。一緒にゴルドー様もいて。あれって──むぐっ!?」
若いメイドの口を、年配のメイドの手がふさいだ。
年配メイドがきょろきょろとあたりを見回したので、俺と風音さんは慌てて首を引っ込める。
年配メイドは俺たちの存在に気付いた様子もなく、ホッと安堵の息をついた。
「まったく……。迂闊なことを口にしてはいけません。余計なことに首を突っ込もうとすれば、どうなるか分かりませんよ。あなたもこのゴルドー様のお屋敷で働くことになれば、いろいろなものを見聞きすることになるでしょう。ですがそれは、すべて胸の内にしまっておきなさい。高額の賃金が惜しくなく、何かに怯えて暮らしたいのでなければです」
「わ、分かりまひは」
「あなたは仕事を早く覚えて、日々そつなくこなすこと。そのことだけを考えなさい。それがあなたのためです」
「はひ」
その後、二人のメイドは仕事の話をしながら、調理作業を続けていく。
これ以上の収穫はなさそうだ。
俺と風音さんはうなずき合って、その場から離れた。
「物置部屋だって。大地くん、場所覚えてる?」
「いえ、さすがにそこまでは」
俺は物陰に隠れて、執事服のポケットから一枚の紙きれを取り出す。
ここへの潜入前に、アリアさんから大雑把な内部の見取り図を描いて渡してもらったのだ。
以前の突入時の記憶を頼りに描きだしたとのこと。
俺たちはその見取り図を頼りに、物置部屋へと向かった。
やがて目的の部屋の、扉の前まで来た。
風音さんの【気配察知】によると、扉の向こうに人の気配はないという。
俺は慎重に扉を開いて、中を覗き込む。
そこは確かに物置部屋で、部屋の壁際には大型の絨毯など、雑多なものがあれこれ置かれていた。
見たところ、人の姿はない。
部屋の中央部の床は、物が置かれていないスペースがかなり広く取られている。
だがそれは、ただの足の踏み場には見えなかった。
「大地くん、これ」
「でしょうね。おそらく普段は、この上に絨毯が敷かれて隠されているんだ」
部屋の中央部の床には、《《跳ね上げ戸》》と思しき一メートル四方ぐらいの正方形の枠があったのだ。
この下に、地下室か何かがあるに違いない。
俺と風音さんは再び衣装チェンジをし、探索者装備へと切り替える。
それから跳ね上げ戸の取っ手をつかんで、静かに引き上げた。
跳ね上げ戸を開くと、そこには地下へと続く石造りの階段があった。
俺と風音さんは互いにうなずき合うと、意を決して階段を下りていった。




