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109話 物資担当

「君達が討伐補助の依頼を受けてくれた冒険者さん達だね? 僕達、そしてこの女性が今回の討伐隊のメンバーだ。よろしく」


 大勢の冒険者たちの前でAランク冒険者パーティのリーダーであるベンディスが挨拶をする。その前には延べ100名ほどの冒険者たちが話を聞いている。

 彼らが今回の討伐補助依頼を受注した冒険者たちである。その中でもCランク冒険者たちは主に他の魔獣の露払い、それ以下の冒険者たちは魔獣と戦う冒険者の援護及び補助係となる。

 そんな彼らの視線を一身に請け負うのがベンディス……ではなく、少し離れた場所に澄ました顔で立っているオルカであった。


 見目が美しいからという理由もあるが、それよりも全く見覚えのない存在がAランク冒険者以上でなければ受注することが出来ない依頼を受けているという点にある。

 冒険者たちの間では「あんなAランク冒険者居たか?」、「何者なんだ?」といった声が聞こえてくる。


 そんな冒険者たちの中、端の方でオロオロと不安げに辺りを見渡す女性マザリオそしてその傍らにフードを目深に被る少年オリベルの姿があった。


「み、皆さんお強そうですね。足手纏いにならないかな……」

「討伐補助だし大丈夫じゃないかな」


 オリベルは一応、協力者『リベル』としてマザリオの依頼に同行という形で参加している。

 協力者というのはギルドから正式に認められた制度の事なのだが、パーティと違う点はその協力者が冒険者でなくても良いという点にある。

 ただ、依頼に参加しても報奨金がもらえるわけではないため、その多くは協力を頼む冒険者が何かしらの対価を与えている場合が多い。


 今回の討伐依頼に参加するオルカもその制度を利用して協力しているという訳だ。


「長期戦になる可能性が高い。各自野営の準備は出来ているな? それじゃあ出発する!」


 そんなベンディスの言葉と共に冒険者たちは町から出るのであった。



 ♢



「君、冒険者ランクいくつくらいなんだい?」

「俺はEランクさ。お前は?」

「Dだね」

「Dランク!? そりゃ凄い。是非とも同行させてくれ」

「ははっ、良いとも」


 あちらこちらで冒険者たちのそんなやり取りが聞こえてくる。露払いに出向くのはCランク以上の冒険者たちだけだが、それ以下の冒険者が魔獣と対峙しない保証はない。

 討伐補助の中ではCランク以上の冒険者とCランク未満の冒険者で分かれることになる。

 だからこそCランク未満の己だけでは魔獣と太刀打ちできない冒険者たちはCランク未満同士で出来るだけ強い者と信頼関係を構築しようとするのである。


 そんな会話が至る所で聞こえてくる中、マザリオやオリベルの下へも話しかけてくる冒険者が居た。


「君もCランク未満だよね? いくつくらいなんだい?」

「……Fランクです」

「F!? よく君この依頼受けたね……」


 そんなマザリオの方へと話しかけてきた冒険者だけでなく周囲の冒険者までもが冷ややかな視線を浴びせてくる。

 こういった他の冒険者と協力してこなす依頼の場合、低ランク冒険者が自身よりも高ランクの冒険者の力を頼りに受注する場合が多い。

 そうした冒険者は基本的に依頼への貢献度が低くなるわけだが、貢献度が違うのに報酬は同じだという事でそれを不満に思う冒険者は多い。

 一般的にそういった行為は「寄生」と呼ばれ、疎まれている。


 今回の依頼もEランク程度なら募集しているランク帯からして許容されるだろうが、Fランクという冒険者の中でも最低ランクであることで寄生だと思われてしまっているのだろう。


「そっちの君は何ランクなんだい?」

「僕は冒険者じゃない。彼女の協力者だよ」

「協力者ねぇ。大層な武器を背負ってはいるけど強いのかい?」

「君よりはね」


 オリベルのその言葉に一瞬、眉をピクリと動かす冒険者。実力が全てであるこの世界で自分よりも強いと言われて腹が立たない者は居ない。

 オリベルもそれが分かっていてそう言っていた。マザリオを馬鹿にしたような話し方が少し鬱陶しいと思ったのだろう。

 良くも悪くも感情を表現するようになったオリベル。果たして冒険者は少し苛ついた様子を見せながらもその感情を抑え込み、二人に背を向ける。


「そうかい。楽しみにしておくよ」


 マザリオがFランク、そしてその隣にいる者がフードを被った怪しげな協力者である。そんな二人に魅力を感じる者は無く、それきり二人に話しかけてくる冒険者はいなくなり、孤立してしまうのであった。


「……幸先不安です」

「大丈夫さ。どうせ僕らは魔獣討伐なんてしないんだし」

「でもいざって時があるじゃないですか」

「それも大丈夫。()()()なら」

「私と()()()さんと言うよりも頼りになるのはリベルさんだけなんですけどね」

「いや、そんなこともないと思うよ」

「へ?」


 オリベルの言葉にマザリオは不思議そうな顔を見せる。その言い方はあたかもマザリオにも力があると言いたげであったからである。

 しかし、当のマザリオは魔力を使う事が出来ず、大した力もないただの少女である。今回の依頼も他の人よりも多く物資を運ぶ要員として以外、出来ることはないだろうと思っていたところなのだ。


 そんなマザリオの疑問を振り払うようにオリベルは口を開く。


「だって君の魔力量はこの中でダントツに多いからね」

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