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世界一素敵なゴリラと結婚します  作者: 志岐咲香
番外編:禁断のBL本編

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ファンレター

※この章では、物語の中で同性同士の恋愛(BL)を扱います。

苦手な方はご注意ください。

 クロイツナーとレアリィーナさんは、思いを交わすとすぐに結婚した。


 だけど、結婚後もレアリィーナさんは公爵家への恩を返すため、花街のサロンを辞めなかった。

 いまも諜報員として、サロン『マルセリア』の女主人であり、私――作家ピンクローズ・スウィートの身代わりでもある。



 少しずつ本来の性格を出してくれるようになった彼女は、意外にも笑い上戸なところがあり、よく笑った。


「実は、奥様の言動に、笑いをこらえるのが大変なときが多々ありましたの」


 そんな訳が分からないことも言うようになった。

 なぜかリオスもクロイツナーも、静かに頷き同意していた。


 相変わらず、レアリィーナさんが来る日は、この四人で集まっている。

 クロイツナーもこの時ばかりは、執事の面を少し脱ぎ、口数が増えた。


 そして今日、彼女はピンクローズ宛のファンレターを持ってきてくれた。

 たまに編集者経由で持ってきてくれるのだ。

 なお、リオスの指示で彼女が先に目を通すため、変な手紙は私の元には届かない。

 過保護なくらいに守られている。


「実は今日のファンレターは……少し、特殊ですの」

「特殊?」

「ええ。ですので、まずは公爵令息閣下に見ていただいてもよろしいでしょうか?」

「え?」

「俺が見よう」


 有無を言わさずにリオスが手紙を受け取り、読み始めた。

 本当に、守られ過ぎじゃなかろうか?


 それにしても、特殊なファンレターとは一体……?

 そわそわしながら、リオスの言葉を待った。


「これは……特殊だな」

「そうなのです。けれど害意はありませんので、どうしたものかと……」

「うむ……。確かにアリィーを傷つける内容ではないが……扱いに困るな」

「見たい! 見せてください!」


 リオスの心に、わずかな隙を見つけた私は、ここぞとばかりに主張した。

 このまま読めなくなったら、おそらく今夜は気になって眠れないだろう。


「まあ、そこまで言うならば」

「やったあ!」


 リオスから渡された手紙を、好奇心のまま読み進めた。


『親愛なるピンクローズ・スウィート先生


 いつも素敵な作品をありがとうございます。

 先生の作品を楽しみにしているファンのJ・Vと申します。』


「なんだ。いつもファンレターをくれるJ・Vさんじゃない」


 J・Vさんは、私が小説家としてデビューした頃からファンレターをくれるファンの女の子だ。

 新作を出版すると、必ず感想を送ってくれる。

 いつも熱い感想と称賛をくれる素敵なファンだ。


 この前の新刊の感想の後に、こう書かれていた。


『先生の作品は、いつも素晴らしく、心がときめきます。

 自分もいつかこんな素敵な男性と出会えたらいいなと、そんな想いを抱きます。


 そんな私は――いえ、僕は、男です。』


「えっ!?」


 驚いて、思わず声が漏れた。


 今まで、彼女を――いや彼を、女の子だと思ってファンレターを読んでいた。

 というか、女性の読者からしかファンレターをもらったことがなかったからそう思い込んでいた。


 何度かその部分を読み返し、読み間違いでないことを確認して次に進んだ。


『先生の作品では、当たり前に男女が恋に落ちます。

 生きてきた中で、僕はずっと主人公の女性に自分を投影して読んでいました。


 ただ、段々そのことに違和感を覚えるようになったのです。

 すると、なぜ僕は男でありながら、男の人を好きになるのだろうと思うようになりました。

 けってい的な出来事があったわけではありません。

 てを伸ばしてはいけないと、自分を押し込めて生きてきました。


 つらいと思う気持ちを誰にも言えず、それでも普通を装っています。

 らくになれたらと願う夜もありますが、方法が分からないのです。

 いまの僕は、ただ立ち尽くすことしかできません。


 でも、この気持ちを誰かに伝えたくて、勇気を振り絞って手紙を書きました。

 すこしでも楽になりたかったのだと思います。』


 彼の心の叫びが聞こえてくるような内容だった。



『これからも、先生の作品を楽しみにしています。


    先生のファン J・Vより』




 流麗な文字でつづられた手紙だった。

 そこにはペンネームだけで、住所は書かれていなかった。

 思い返せば、J・Vさんはいつもそうだった。


「ええ……?」


 困惑した声が漏れた。

 いたずら……?

 にしては、心のこもった文章だった。

 そもそも、こんないたずらをする理由がない。


 彼はもう何年もファンレターを送り続けてくれている古参のファンだ。


 そもそも――。


「男の人が……男の人を好きになることって、あるの?」


 聞いたことのないその話を、にわかに信じられなかった。

 静まり返った部屋に、私の声だけが響いた。


 周りを見渡すと、リオスは気まずい表情をしていた。

 クロイツナーは目を伏せていた。

 レアリィーナさんは、まっすぐに私を見つめて、落ち着いた声で言った。


「そういう方もおりますわ」

「そうなの!?」

「ええ。花街におりますと、いろんな方を見かけます。表向きには存在しませんが、裏社会にはそういう方向けの娼館もありますの」

「えええーーー!?」


 初めて聞いた。

 恋愛の組み合わせは、男女しかないと思っていた。

 なんと、自分の世界の狭かったことか。


「でも、私が知らなかったってことは、この手紙をくれた男の子も、そういう世界があることを知らない可能性があるってことよね……?」

「その通りです。わたくしも、花街にサロンを持ってから了見が広がり、知りましたもの。でも案外、多いんですのよ」


 ということは、J・Vさんが花街に行く機会がなければ、一生悩み続けるということ?

 そんなの、辛すぎる。


 私は、今まで困ったときは必ずと言っていいほど周りに助けてもらってきた。

 J・Vさんとは会ったこともないけれど……今度は私が誰かを助ける番なのかもしれない。

 善意というものは、きっとこうやって巡っていくのだろう。


(なんとか、してあげられないかな)


 私の小説に、さりげなくその情報を入れてみる?

 登場人物に「花街では同性同士が恋愛することも珍しくない」と話させる?

 だめだ。違和感しかない。

 そもそも、そんな生々しい描写なんて書いたことがないんだから、編集者から訂正が入るに決まっている。


 この男の子が私に手紙を書いたのは、きっとSOSだ。

 私にできることは……?


 ――物語なら、書ける。


 たった一人の男の子に届けばいい。

 花街じゃなくて、普通に恋愛する男性たちを書いてみるのはどうだろう。

 べつに、出版社から本を出す必要もない。

 手作りでもいいし、自費で出版することだってできる。

 それくらいのお小遣いはある。

 ……むしろ、十分すぎるほどある。

 

 考えて考えて、私は一つの結論にたどり着いた。


「私、男性同士の恋愛小説を書いてみる!」


 そう宣言した。


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