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~乙女心と…~

「…お前も優しい言葉かけられて、しろのこと好きになったんだろ?ぷっ…単細胞。」嘲笑う黒斗。

「…っ!うっさい!どうでもいいでしょ!!?」これ以上弱みを握られたくない。

「図星かぁー。しろの奴無自覚のたらしだからな。」黒斗がうんうんと頷く。

「あ、だから…白斗先輩を心配して、私を遠ざけようとしたの?」ほんの少しだけ紅の中の黒斗の好感度が上がった。

「いーや?単にお前が邪魔だから!」気持ち良いほどスッパリと言う黒斗。

「……。」

(本当にこいつがあの白斗先輩と双子なの!?ひねくれすぎ!)

「それに、しろ彼女いるし?」黒斗が爆弾発言を付け足しの様に軽く口にする。

「は…?」自分の耳を疑った。

「だ・か・ら!付き合ってんだよ!分かったか、バーカ!」捲し立てる黒斗。

「…そ…なの?…わかった!またからかってんでしょ?その手には乗らな…。」と言いかけ、

織羽しょくばね 朱璃あかり。俺らと同級で、美術部員。加えて……。」淡々と事務的に話す黒斗に阻まれる。

何か続けて話している様だが、耳が聞くのを拒否しているのか、内容は全然わからない。

(なんだろう…心に穴が空いたみたい…。)ただ何もかもが虚ろに思えた。


「黒斗〜?終わった?そろそろ帰れる?」ひょこっと白斗が教室のドアから顔を出す。

「しろっ!遅かったじゃん!」と黒斗。

「紅さん…弟の相手大変だったでしょう?…あれ、紅さん?」心配そうに紅を見る白斗。

「……え?…あ、白斗先輩…。お疲れ様です。」上手く笑えない。

「なんか元気ないね…。黒斗が何かした?」紅から視線を外し、黒斗を叱るような目を向ける。

「待てよ、しろ!俺は何もしてないぜ?」誤解だと慌てて弁解する黒斗。

「…本当に何でもないんです!最近このサークルのことで、張り切りすぎてて、疲れたのかも…。」苦笑いを浮かべる。

「そっか…。あんまり無理しないでね。」微笑む白斗。

「じゃあっ…お開きってことで…。」そそくさとドアを出ようとする黒斗。

「ひとりで寮まで行ける?」白斗が黒斗の腕を引っ張り、紅の方を振り向く。

「ありがとうございます、大丈夫です…。」口元だけの笑みをたたえて言う。白斗たちの方を向いているはずの目は何も写らない。


「すごいな!紅が作ったサークル美形双子が兼部してるって話題になってるで!…アレ?なんかあったん?」紅の顔色が優れないのを見て紫杏が気遣う。

「う…ん。ちょ…っ…。」堪えられなくなった涙が零れる。

「ちゃんと聞くから、話してくれへん?そんで、今晩はウチの部屋に泊まっていったらええよ!」優しく肩に手を置いて安心させる様に笑う紫杏。


紫杏は、紅が泣き止むまでただ黙って側にいて、紅が話し出すまで何も聞かないでいてくれたので紅の心はとても救われたのだった。紅は、双子の獅稀先輩とサークルをやることになった経緯、白斗との出会いと、紅が片想いしていたこと、しかし彼には彼女がいることなどをぽつりぽつりと話した。紫杏は頷いたりするものの、基本的に口を挟まず聞いてくれた。

「そっか。つらかったな…。でもいくらかスッキリしたんとちゃう?」紫杏が泣き腫らした紅の顔を覗き込む。

「…ん。ありがと。」確かに心は少し軽くなっていた。


金曜日。この曜日は、白斗とふたりきりのサークルの日だ。紅の気持ちも2日たったので、なんとか落ち着いた…様に思っていた。

「こんにちは、紅さん。」白斗が教室にやってきた。

「あ、白斗先輩…こんにちは。」しかしまだ顔を合わせるのは気まずい。

「一昨日は大丈夫だった?」おそらく心配して聞いてくれているのだろうが、紅には嫌なことまで思い出させる。

「……。」紅が答えられないでいると、

「あ、ごめんね。答えたくないならいいんだ…。」慌てる白斗。

「それよりさ!今度黒斗のバスケの試合観に行かない?あいつ人付き合いは悪いけど…バスケは、けっこう上手いんだよ!日曜なんだけど、どうかな?」白斗がワクワクとした様子で聞いてくる。

「え?…私行っていいんですか?」なんだかデートに誘われてるみたいで嬉しかった。

「もちろん!紅さんには笑顔が似合うから、早く元気になってほしいんだ。」にこにこと白斗が言う。

女の子皆に対して優しいとわかっていても、ドキドキしてしまう。


「具体的な活動は今日が初めてですよね。今日は、『白雪姫』について検討したいと思います。」言いながら、『白雪姫』の絵本を出す。

「7人の小人が出てくる話だよね。確か最後は王子と白雪姫、小人たちで暮らすような感じになるんだっけ?」パラパラと絵本を捲りながら白斗が言う。

「はい。そこで終わりです。」こくりと頷く。

「じゃあ…毒林檎を作った魔女がまた邪魔をしにくるんじゃないかな。紅さんはどう思う?」白斗が難しい顔をする。

「んーと、そうですね。お城ならまだしも小人たちの家で暮らすとなると…いくら小人でも7人もいたら、ちょっと気まずくないですか?ほら、ふたりきりになりたい時だって、絶対あるはずですし。」自分で言っておいて、本当に夢が無いなと思った。白斗に受け入れられるか少し不安になる。

「確かに。…そうだ!じゃあ折衷せっちゅう案で、お城にセコム付けて、ふたりで住めばいいんじゃない?」目をキラキラと輝かせ、白斗が言う。

「…ぷっ…セコムって…でも確かにそうですね。現実を反映させるならそれがいい…かも…。」おかしくて笑いが納まらない。久しぶりに笑い、心が暖まる。

「じゃあ決まり!思った以上に、楽しいね、コレ!」白斗が満足気に笑う。


日曜。近くのアリーナに9時に待ち合わせだ。昨日からそわそわして落ち着かない。

「変じゃない?この服。」服選びに協力してもらった紫杏に聞く。

「むっちゃかわええで?」笑顔の紫杏。紅が元気になったので、紫杏も嬉しかったのだ。


アリーナに着くと、白斗はもう来ていた。隣に女性がいる。

「あ、紅さーん!おはよー!」白斗が手を振ってくる。

嫌な予感がしたが、ここで逃げる訳にはいかない。

「白斗先輩っ…あの、おはようございます…。」白斗にあいさつするが、その女性が気になる。

「こちら…えっと…。」と白斗が照れて言葉に詰まり、

「はじめまして。織羽 朱璃と申します。」と朱璃が言う。

(綺麗な人…。)皮肉ではなく、心からそう思った。

「あ…っ、い…季露葉 紅ですっ。」なんだか緊張してしまう。

「あぁっあなたが黒斗が気にかけてるっていう紅さん?よろしくね。」笑うとえくぼができて、幼い印象になる朱璃。

「…よろしくお願いします。」

(気にかけてるっていうか…見張られてるだけなんですけど。)それはさすがに言えなかった。


席は白斗、朱璃、紅と座り、ふたりは楽しそうに話していて、とても紅の入る雰囲気ではなかった。

(デートに誘われたみたいに浮かれてバカみたい。そうだよね、彼女いるなら…当然彼女も呼ぶよね…。)すごく惨めな気持ちになった。

「黒斗、頑張ってねー!」白斗がコート内の黒斗に言うと、

「かっこいいとこ見せてね!」と朱璃もエールを送る。

「ったく…バカップルめ。また来たんか。…ん?」とぼそっと悪態をつき、紅が来ていることに気づいて、

「おーい!そこの単細胞!」紅に声をかける黒斗。

「誰が、単細胞だって!?」手すりに手をかけて反論する。

「お前のことだよ!自覚ねぇの?今から俺様の大活躍見せてやっから、瞬きしないで観てろ!!」黒斗がふふんと不敵に笑う。

「そんなの無理に決まってんでしょ!このバカ!」叫んで気分が少し紛れたので、悔しいが黒斗に感謝する。



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