第60話 昔のあたしと昔の彼と 4 後編
「えっ、才川君何してるの!?」
「俺、お前の好きな物を否定しちまった。だから、ごめん!」
「確かに怒ったけど、謝るにしても土下座はやりすぎ!」
突然の出来事にあたしは焦ってしまい、ベンチから立ち上がり彼のものへ駆けつける。
――あの時は大変だった。いくら言っても頭を上げないし、なんなら誠意を見せるために服を脱ぐとか言い始めたりと。
――本当に大変だった。
「――はぁ……はぁ……」
「ほんとに、ごめん………俺……俺……」
「なんであんたが泣きそうになってんのよ」
しばらくしてなんとかこのデカブツをベンチに座らせることに成功したあたしは横目で彼の表情を見る。
ズボンや額に砂埃をつけたまま、目元に涙を貯めながら鼻を啜っている。
もはやどちらが慰めていたのか分からない状態となっていた。
けれど、それだけ彼は申し訳ないことをしたと思い謝ってくれたことに、あたしは少しうれしい気持ちになった。
それと同時に、一つの疑問が沸き上がる。
「ねぇ才川君」
「ぐす……なんだ?」
「あたしのこと、変だとは思わないの?」
そう言いながら、あたしは自分の服を見せつけるように両腕を横に広げた。
この時の服装はピンク色のフリルの重なったワンピースで、普段使いには少し派手と言っていい。
振り返ってみて可愛らしさは満点だけれど、派手だし、化粧も髪も綺麗にまとめていないから「服に着せられている」と思われても仕方がないような恰好だった。
――そりゃ、気味悪がられてもおかしくないわな。
「変……? まぁ似合ってないかもしれないけど」
「うっ、また言った……このっ」
もう一回怒鳴ってやろうかと思ったけれど、彼は語り掛けるように優しい口調で言葉を続けた。
「でも、好きなんだろその格好? だったら別にいいじゃん」
「――へ?」
予想だにしない事を言われて、あたしは間抜けな声を上げる。
昔のあたしは、両親以外の人に自分の恰好を肯定されたことがなかった。
クラスメイトにも、学校の先生にも。
……おじいちゃんにも。
自分を否定しない人間が、両親以外にいるという事がなった。
だからこそ、あたしは誰かに言ってほしかった彼の言葉を前に、驚きを隠せなかった。
「ちょっと、それホントに言ってるの?」
「ん? どういうことだ?」
「今の言葉よ!」
あたしは彼を問い詰めるように近づき、両目を見合わせ言葉を続ける。
「この恰好、あんたは何も思わないの? その……男がこんな……可愛い恰好して変とか、気持い、悪いとか」
今までさんざん言われてきた言葉を反復するように、それらはあたしの口から漏れだした。
「あたし、この恰好が好き。可愛いものが好き……だけど、みんながみんなそれを否定するの……あんたもそうなんでしょ!?」
ずっと待っていた「本当の」あたしを受け入れてくれそうな人間の前で、自分の事を語り始める。
「心の中ではあたしを馬鹿にして、楽しんでるんでしょ!? みんなそう! 誰も、あたしのことなんて!」
呆然と見つめる彼の両肩を掴み爪を立てるくらいの力を込めて、自分でも何を言っているか分からなくなるくらい、あたしは彼を問い詰める。
「誰も……受け入れてくれないの」
生まれてから、両親以外の誰にも自分を否定され続けた。
男の子なんだから、女の子じゃないんだから。
そんな言葉を聞き続けて、このころのあたしは育ってきた。
だから、両親以外で自分の味方をしてくれる人なんて、信じられなかった。
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