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男の娘がヒロインでもラブコメは成立しますか?  作者: @芳樹
3章 その気持ちに、嘘はダメだよ
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第47話 怪物降臨 前編

午後十六時を過ぎた頃、少年少女はある一軒家に向かう。

放課後にランドセルを背負ったまま遊びに出かける彼らは、公園や商店街を練り歩き、最後にここを訪れる。


この街で一番立派な新居である早乙女家の別邸……つまり秋音の住んでいる家に悪戯をしかけることが最近のブームになっていた。


「ね、ねぇ。そろそろやめようよぉ雄太(ゆうた)君」

眼鏡をかけた短髪の少女が、震える口でそういうと、

「あ!? 大丈夫だって(かおる)! 俺、あいつ怒ってる姿なんて全然怖くねえ!」

前歯が抜けた半袖半ズボンで、如何にもやんちゃな少年が自信満々に声を上げた。

彼ら二人は家が隣同士の幼馴染であり、毎日のように一緒に過ごす一蓮托生の存在である。


そんな雄太と呼ばれるやんちゃ少年と、眼鏡越しに目に涙を貯めた薫と呼ばれる少女の後ろに、二人の男女の小学生が付いてきていた。


「ほーんと、男子ってすーぐ馬鹿な事すんだから。あんたもあれくらいはっちゃけたら琢磨(たくま)ー」

ツインテールの巻髪を触りながら退屈そうにため息を吐く少女の隣で、

「……ぼ、僕もいっしょにしないでよ美咲(みさき)ちゃん……」

ひと際身長が大きいが、オロオロと視線を泳がせ体をギュッと固まらせた少年が震える声で返事をする。

小学生とは思えない程大人びた顔つきの少女……美咲は、中校生と勘違いされてしまうような高身長の少年……琢磨と一緒に二人を追いかける。

目の前で繰り広げられる痴話げんかに興味を持ち一緒に行動するようになった美咲と、いつの間にか仲良くなっていた琢磨。


彼らは同じ小学校の同級生であり、幼稚園の頃からずっと一緒に遊んでいる幼馴染グループである。


楽しい事が大好きで、本能のままに生きる我が儘少年、雄太。

臆病で涙もろいが、学校一番の天才少女、薫。

感情の起伏があまりないが、実は甘えん坊の少女、美咲。

体のデカさは重量級、心の大きさ軽量級の少年、琢磨。


個性や毛色が違う彼らだが、互いに親友同士と認め合う程の仲の良いズットモ四人衆。

今日も今日とて、彼らは退屈しない青春の毎日を送るのであった。


「おっしゃ! 今日も秋ねぇ怒らせてやるぜ!」

「もぉぉぉ、秋ねぇちゃん怒らせちゃダメだってぇ」

「まぁぶっちゃけー、怒ってもそんな怖くないしいいっしょー」

「……僕はすごく怖い、怖い……」

四者四様、それぞれの想いを抱きながら、少年たちは秋音宅のインターホンを鳴らした。


一回目。

……しかし、誰も出てこなかった


「秋ねぇ留守か?」

「そ、それだったらもうやめておこうよぉ」

「まぁあの人も高校生だしー、毎回出てくるとは限らないしー」

「……今日はもう解散……かな」


反応がないインターホンの前でそれぞれの動きを見せる少年たち。

雄太以外の三人は既にこの場を去ろうとしたが、当の本人は諦める気配がなかった。


「いいや、秋ねぇは暇人だから無視してだけだって……えい!」

「も、もぉまた鳴らした! 迷惑だってぇ!」

諦めることを知らない雄太は何度も何度もボタンを押して呼び鈴を鳴らし続ける。

そんな彼の服の袖を引っ張り、必死に止めに入る薫はもうすでに目元に涙が溜まって今にも零れ落ちそうになっていた。


「うちもう帰っていい? ママに会いたいしー」

「……僕はどうなっても知らないからね……はぁ」

近所迷惑のことなど考えずに大きな声で痴話げんかをしている二人を、まるで他人の様に俯瞰している美咲と、もうすでに来た道を引き返そうとしている琢磨。


……そう、こうなるのもいつものことである。

琢磨が何度も何度も諦めずにインターホンを鳴らし、それを止めるために薫が玄関で騒いでいると、流石に家主は無視できない。


そして、叱るために出てきた秋音を遊びに誘うまでが、今の彼らのルーティーンである。


「お? 玄関から誰かくるぞ? やっぱりいるじゃん秋ねぇ!」

「ごめんなさいごめんなさい! 秋ねぇちゃんいつもごめんなさい!」

「あー、やっぱりいたんだ。早く出てくればいいのにー」

「……今日も怒られる……よね?」


雄太の鬼コールの甲斐もあり、玄関から人が出てきた。

これも、いつものことである。

何度もインターホンを鳴らし続けていると、怒鳴り声と共に家主である秋音が玄関からかっとんでくるのだ。

しかし、今回は違っていた。


玄関から出てきたのは、秋音よりも何倍もデカい怪物の様な図体をした人間だった。


「――なるほど、確かに子供のようだな」


筋骨隆々の逞しすぎる体つきに、少し威圧感を与えてしまうような男らしい顔つき。

そして、その筋肉を見せつけるように小さく、今にも張り裂けそうなタンクトップを身に着けた漫画でしか見たことのないような大男が玄関から現れたのだ。

今まで見たこともない存在が出てきたことにより、少年たちはパニックになってしまった。


「な、なんだこいつ!?」

「ひゃ!? 熊さん!?」

「ちょ、ええー? デカすぎ、でしょー!?」

「……あぁ、死んだわ僕ら」


可憐でちんまりとした秋音が出てくると思っていた四人は、突如現れた熊の様な大男に驚いてその場で固まってしまう。

今まで見てきた大人達の何倍も恐怖心を煽られるその男は、無言のままズンズンとこちらに近づいてくる。


「か、薫! 俺の後ろに隠れろ!」

「こ、怖いよ雄太君!!!」

「ちょ、あんたもあたしを守ってよ琢磨ー!」

「……無理だ美咲ちゃん、死ぬ」


慌てふためく彼らに近づいてきた大男は、立派で大きな門扉を片手で軽々開けて少年たちを見下ろせるくらいの距離まで接近してきた。

近くで見るとその巨体はより際立ち、彼らの中でも比較的身長が高い琢磨ですらその筋肉を見上げてしまう。


「…………」

無言のまま彼らを見下ろす大男は叱るでもなく、ただ彼らを睨みつけている。


「お、おいデカブツ! 秋ねぇの何なんだよ!?」

「ま、まさか秋ねぇちゃん。食べられたのぉ……?」

「や、やだ。ひどいこと、しないで」

「……終わったわ」


四人のそれそれの問いかけに対し、筋肉ダルマは何も言わない。

ただ彼らを見つめ、眉一つ動かさず口を閉ざしている。

意図が読めない分、不気味さが異様に目立ち、気持ち悪いほどの沈黙がしばらく続く。


「……はぁ」

息が詰まるような雰囲気の中、いよいよ男がため息を吐いた。

そう、困惑しているのは何も、少年たちだけではないのである。


――困った。

玄関から現れた筋肉男……才川裕作は後ろ頭を掻きながら途方に暮れていた。


※後半に続きます

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