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バレてない。バレてない。

「あ、篠崎先輩、後で確認したいことあるんでシフト終わった後に時間ありますか?」


 東条――東野君からそんな事を言われて、俺は近くのアニメショップで時間を潰した後、彼と合流して喫茶店に入ることになった。けっこう遅い時間になってしまったので、お客さんも店員さんもまばらで、二人だけで話すならちょうどよさそうだった。


「あ、ホットコーヒーお願いします。ミルクと砂糖も……えっと、東野君は――」

「俺はブラックでいい」


 明らかに警戒した様子の彼はそれだけ言うと店員から目を逸らした。感じが悪いな、と思わないことも無かったが、彼の性格を慮ると仕方ないという気持ちも沸いてきた。なんせ人気絶頂の状態から突然の休止宣言だ。間違いなく気難しい人間だろう。


 俺はそう考えながら待っている間、彼の表情を伺う。


 不機嫌そうに窓の外を見ているが、彼の整った顔立ちは、苛立ちや前髪、そしてメガネ程度では隠せるものではなかった。男の俺から見ても、明らかに美形の部類に入る。


「はは……」


 これで一時期「モブの正体はこの人!」なんて言われてたのがおかしくて、笑いが漏れてしまった。東条君はそれを見て更に機嫌が悪くなる。


「ちっ……何だよ、弱み握れて楽しいか?」

「いやいや、そういう訳じゃないって!」


 おれは慌てて否定すると、言葉を続ける。


「俺の身の周り、有名人になる覚悟が決まり過ぎてる人が多くてさ、目立ちたくないとか、そういうのにうんざりしてる人に共感しちゃったっていうか」

「はっ、お前に何が分かるんだよ」

「いや、そんなことないって、聞いてるだろ、俺の幼馴染、犬飼ちくわなんだよ」


 バイトの時話したと思うのだが、改めてそれを口にする。自分自身はすごくない肩書を話すのはちょっと抵抗があったが、自分の正体を明かすのはもっと抵抗があった。


「それは知ってるが、それでもお前自身は有名でも何でもないだろ」

「ま、まあそうなんだけど……」


 ちょっと気まずくなったところでコーヒーが運ばれてきたので、俺と東野君はコーヒーを啜る。


「はぁ、まあなんにせよ、お前にバラす気がなさそうなのはよく分かったよ」


 ため息と共に、安堵の声を漏らす。俺はその姿を見て、聞きたいことはそれだったのかな。と考えた。


「で、俺が聞きたいのはここからだ」

「えっ」


 安堵しかけた俺は、再び背筋をピンと張る。一体何を聞くつもりなのだろうか。


 全く見当がつかない。彼が俺に教えられる情報は何かあるだろうか? もしかして、バラさないと信用してもらうために何か――


「モブの正体って誰だ?」


 俺は手に持ったコーヒーをちょっと零した。

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