87 魔族のサムライ
「お初にお目にかかる。ゼル・スターク殿とお見受けする」
と、カザオトが俺の前で足を止めた。
涼しげな顔立ちの少年で、赤茶けた髪を高い位置で結い、垂らしている。
まさしくサムライという感じだ。
身に付けているのは、これまたサムライ然とした着物に手甲と脚絆だ。
「拙者、一週間前に3番隊に配属になったカザオトと申す者。お見知りおきを」
堅苦しい言い回しで一礼するカザオト。
外見通り、性格や言葉づかいまで完全に武士のそれである。
「ゼル・スタークだ。よろしく」
俺も礼を返す。
あらためて彼を見つめた。
……うん、間違いない。
ゲームに登場するSSRキャラ、カザオト・レイガだった。
独自の剣技と、闘気を使用した闘法を操り、魔法が効きにくい相手にも遠距離攻撃でダメージを与えたり、色々と重宝するキャラだったことを覚えている。
が、登場するのはゲームの中盤以降。
もちろん3番隊に同行して序盤で死ぬ……なんてシナリオではない。
それがなぜ3番隊に配属されているんだ?
俺は訝しんだ。
序盤で全滅する運命の3番隊に、ゲーム中盤以降に登場するカザオトがいる――。
これは、何を意味するんだろう?
カザオトだけは全滅から免れるということか?
それともカザオトも全滅に巻き込まれ、本編とは違う死を迎えるのか?
いずれにしても――シナリオが変わり始めているのかもしれない。
と、
「光栄でござる」
カザオトが恭しく礼をした。
「人間界での潜入任務において、【聖女】と呼称される人間を撃破したとか」
俺を見つめながら、うっとりとした顔で告げるカザオト。
「拙者もあなたを見習うとしよう。戦果を挙げられるように、さらなる精進を致す。その手始めとして――今回の対抗戦の一員に選ばれることを目指しているのでござる」
「戦果……か」
俺は、人を殺したんだ。
しかも二人。
色々なことがあって、その事実とキチンと向き合わないまま時間が過ぎてしまった。
レキの死。
そして、その後の修行の日々。
いや、きっと俺は忘れようとしていたんだ。
何かに没頭していれば、それ以外のことを忘れ、あるいは薄れさせることができる。
そうやってレキの死の悲しみを遠ざけるのと同時に。
俺は、人を殺したという重みからも逃げていた。
けれど、カザオトの言葉で久しぶりに思い出してしまった。
そう、俺は人間を二人殺したんだ――。
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