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28 それぞれが目指す最強へ


 神殿内を探し回った後、中庭に出たところでミラを見つけた。


 彼女はベンチに座り、ボーッと空を見上げている。


「どうしたんだ、ミラ?」


 俺は心配になって歩み寄った。


 さっきも感じたことだけど、やっぱり彼女の様子が変だ。


 いつも勝ち気すぎるほど勝ち気で、『エースは俺だ!』が口癖の彼女が……。


 まるで生気が抜けたような表情をしている。


「……ミラ?」

「えっ? あ、ゼル……いたんだ」


 ミラはハッとしたように顔を上げた。


「ごめんね。あたし、ボーッとしてたみたいで……」


 ん?


 ミラの口調がいつもと違うぞ。


「ねえ、あたしって……やっぱり弱いのかな」


 ミラはうなだれていた。


 昼間の敗戦がよっぽどショックだったんだろうか。


「いつもは『エースは俺だ!』なんて口癖にしてるけど、あれ本当は……ただの空元気なのよ」


 ミラが自嘲気味に言った。


「本当のあたしは弱い……昔は盗賊団の頭なんてやっていたけど、すぐに分かった。上には上がいるって。あたしはただ狭い世界でいい気になっていただけなんだって」


 ミラにはミラの過去があるんだな。


 そして背負ってきた思いもある。


「あたしは最強になることを夢見て……口調も変えて、『俺』なんて言って見たりして、自分を鍛え続けて……でもしょせんはこんな程度なのよ」


 今にも泣き出しそうな顔だった。


「そろそろ、心が折れそう……」


 ミラはポツリとつぶやいた。


 悔しくてたまらないという顔だった。


「確かに、世の中には強い奴がいくらでもいるよ」


 俺も、以前に戦った第五騎士団長ルインには、力の差を感じた。


 その時は勝てたけど、もう一度やって勝てるかと言われれば――。


 おそらく、実力に圧倒的な隔たりがあるだろう。


「俺も、今よりも強くなろうと思ってる。ミラみたいな『夢』とは違うけど、俺なりの理由があって強さを目指している」

「……そっか」

「ミラも……そんな悔しそうな顔ができるのは、まだ心が折れていない証拠じゃないのか?」


 俺は彼女に微笑んだ。


「もう一回……俺と一緒に挑んでみないか?」

「ゼル……?」

「俺はまだまだ自分が強くなれると思っているし、信じてる。ミラも――まだ強くなれると思うんだ」


 いや、絶対になれる。


 だって、この世界にはステータスがあり、成長するための手段があるんだから。


「諦めずに、一緒に強さを目指そう。お互いに目指す理由は違うけど、目的は一緒じゃないか」

「ゼル……」

「二人で奴を倒そう。ミラが今、行き詰っているなら――その先に道が見えるかもしれない」

「はあ……」


 ミラがため息をついた。


「……前向きだな、お前は」


 ん?


「後輩ががんばってるのに、先輩の俺がいつまでも凹んでいてもしょうがねーか」


 ミラの口調が変わった!


「へへ、今の俺じゃ……一人で奴に勝つことはできねぇ。だからお前の力を借りる」

「俺たちはチームだろ。協力するのは当たり前だ」


 俺はミラに手を差し出した。


「二人で倒そう。そして、もっと強くなるんだ。俺も、君も」

「当然だろ。エースは俺だ」


 ミラがニヤリと笑った。




 俺たちはふたたび【サイクロミノタウロス】が生息する森の中にやって来た。


 再戦だ。


「この間は馬鹿正直に正面から突っこんで力負けした。もうあんな無様な真似はしねぇ」


 ミラが言った。


「俺の身上はスピードだ。そいつをもっと活かす戦術を取るべきだった。前回は完全に俺のミスだ」

「ミラ……」

「反省」

「お、反省できる子えらい」

「へへへ」


 俺の軽口に、ミラは妙に嬉しそうな顔をした。

 と、


 ずしいいいんんっ。


 地響きを立てて、巨大なモンスターが現れた。


【サイクロミノタウロス】だ。


「……!」


 俺たちは同時に身構えた。


「ふん、また来たのか」


【サイクロミノタウロス】が嘲笑する。


「特にそっちの女――俺に一撃で半殺しにされておいて、まだ戦う気か? くくく」

「へっ、戦わなきゃ借りを返せねーだろ」


 ミラが左右の剣を抜いた。


「それに戦わなきゃ――最強にたどり着けないからな」

「そういうことだ。お前を倒して、俺たちは最強に一歩近づいてみせる」


 俺も剣を構える。


 さあ、決着を付けるときだ――!

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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