107 雷の歩法
「こ、これは――!?」
カザオトが驚愕の声を上げる。
俺は激しいステップでジグザグ走行しながら、彼に迫った。
「――参った」
間合いに侵入し、一閃させた剣を、カザオトの前に突きつける。
同時に彼が降参を宣言した。
「見事でござる」
「……いや」
俺は首を左右に振った。
その場にへたりこむ。
「ゼル殿……?」
「足がガクガクだ。この歩法は脚力を消耗しすぎる」
俺は苦笑した。
「カザオトはすごいな。こんな歩法を使いこなして戦ってるんだろ?」
「見たところ、ゼル殿は常に全力で走っているように見受けられる」
と、カザオト。
「この歩法の肝は『全力』と『脱力』でござる」
「あー……『脱力』を覚えないと、あっという間に消耗しちゃうわけか」
「然り」
俺の言葉にカザオトがうなずいた。
「助言ありがとう。参考になったよ」
俺は礼を言った後、ハッとなる。
「あ、でもいいのか? それって奥義の術理を教えるようなものだろ?」
「構わぬ。もちろん、みだりに教えるようなことではござらぬが……ゼル殿はいずれ、さらなる高みに行く方だ。わずかでもその手助けになれば幸い……」
「カザオト――」
俺は微笑んだ。
「ありがとう」
感謝を込めて、深々と一礼した。
※
一方、そのころミラ・ソードウェイも修行をしていた。
相手は3番隊の隊長を務めるラヴィニアだ。
銀髪碧眼の美女を前に、ミラは緊張気味だった。
今でこそ部隊長に過ぎないが、かつてラヴィニアは魔界最強クラスである騎士団長の一人だった。
ただ、数十年前の【覇王戦役】を境にその職を自ら辞し、部隊長に甘んじているというが――。
「致命的な怪我を負ったとか、衰えたとか……そういうわけじゃないよな、やっぱ――」
こうして向かい合うだけで、すさまじいプレッシャーで押しつぶされそうになる。
しかも彼女はまだ本気には程遠い。
にもかかわらず、本能が全力で警戒を発していた。
ラヴィニア・ティルゾードは戦闘能力の次元が違う――と。





