102 カザオト・レイガは、かつての友と主を想う7(カザオト視点)
「俺と姫を国外に逃がしてくれると……安全を保障してくれると……そして大臣による合議制の国を作ると……その手伝いをしてくれると……お前たちは――」
「うん、そういう名目で僕らの軍勢はこの国に労せずして入りこめたわ。君と姫には感謝してもしきれんなぁ。おかげで全部僕の功績になる……覇王様もお喜びやでぇ」
ナシェルは嬉しそうに目を細めた。
彫像のように整った顔立ちだけに、そういう表情をすると異様なまでの邪悪さが際立つ。
こいつは純粋な『悪』だ――。
カザオトはそう感じて身震いした。
優しさや慈しみといった感情をいっさい持たない、『魔』そのもの――。
魔族と言っても、実際には情にあふれた者が大半だ。
ここまで情をそぎ落とし、悪だけに特化した者が存在するとは……。
カザオトはゾッとするような悪寒が止まらなかった。
「お前の悪意が――拙者たちの国を滅ぼす」
うめくカザオト。
「許すわけにはいかぬ」
「同感だ」
グランが剣を掲げた。
「結局、俺がやったことは自分の望みのために国を売ったことだけ……だが、お前だけは許さんぞ、ナシェル!」
吠えて、駆け出すグラン。
「カザオト、お前は手を出すな! こいつは俺が斬る!」
「グラン――」
「『俺が斬る』やて? 無理やね」
ナシェルが微笑む。
ばきん。
グランの剣が折れ飛んだ。
「あ……?」
「『剣士』は僕には勝てへんよ」
どんっ!
ナシェルの放った魔法弾が、グランの胸を貫いた。
「あ……が……」
「君の生首、せっかくやから姫の横に並べてあげるわ。僕、優しいやろ?」
ざんっ!
グランの背後の空間から突然現れた魔力の刃が、彼の首を切断した。
「あああああああああああああああああああっ……!」
カザオトが叫ぶ。
目の前で殺された親友の無残な姿に。
涙が止まらなくなる。
「ほい、っと」
ナシェルは地面に転がったグランの首を拾い上げ、祭壇の上に置いた。
姫の生首の隣に――。
――それから後のことは、あまり覚えていない。
ナシェルはグランと姫の首を並べた後、カザオトを一瞥すらせずに去っていった。
間もなくして王城は落とされ、リサカ王国は滅びた。
カザオトはナシェルが率いる一軍――【覇王軍】の囲みをなんとか切り開き、逃げ延びた。
その後、さ迷いながら魔王軍の騎士団に入団することになった。
カザオトは今も答えを探している。
グランと姫はどんな思いで国を裏切り、国を売ったのか。
二人はどんな未来を思い描いていたのか。
そして、二人にとって自分はどんな存在だったのか。
何一つ分からない。
だから、剣を振る。
しょせん、自分にできるのはこれだけだ。
自分の道を進んだ先に、二人が望んだ未来を見つける日が来るかもしれない――。
そんな予感がしたから。





