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「あなたって最低のクズね」と罵倒された最低ラスボスに転生してしまったので原作にない救済ルートを探してみる  作者: 水都 蓮(みなとれん)
第三章

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異伝 ここではない誰かの記憶

 アイリスが死んだ。


 ――私はオルトに穢された。あなたの婚約者なのに私は……私は……


 やめろ、やめろアイリス!!


 必死に制止する俺を振り払って、アイリスは短剣を己の喉元に突き刺した。


 来るのが遅すぎたのだ……教団に捕まってグズグズしている間に、オルトは俺の顔と声、そして卑劣な催眠を使い、まんまとアイリスを穢した。

 全て……全て、俺のせいだ。


 ――ジークよ。お前は我が家と祖国のため、騎士学校に通え。


 オルトを殺害したことを咎めず、婚約者を失った俺を慰めもせず、父は淡々とそう告げた。


 愛情などない。ただ、オルトを倒すほどの力を秘めた俺を後継者に相応しいと認め、手駒として利用としようとしているだけだ。

 徹頭徹尾、相手の力しか見ていない。父はそういう男だ。


 目標も希望も、生きる気力もないまま、俺は父に従って学園に通った。

 そして、俺はなるべく人気のない場所で、淡々と日々を過ごしていた。

 誰かと交わるのが苦痛だった。


「あなた、変わった仮面を付けてるのね」


 仮面を付けた怪しい男。そんな俺に声を掛ける物好きがいた。

 誰の力も借りない。誰とも心を通わせない。一人で宿願を果たす。そんな決意を瞳に湛えたような少女だった。


「大やけどを負ってな。不快なら消える。別に俺の場所じゃないしな」

「別に気にしてないわ。あなた一人いたって、どうって事ないもの」


 なんとなくアイリスを思い出した。

 性格も容姿も似ているわけではないが、芯の強さがどこか似通っている気がした。


 それから、俺はその名前も知らない女と時間を共有するようになった。

 別に気の利いた話をするわけではない。だが、俺たちはお互いに近くに居て、苦にならない。そんな関係だった。


 しかし……


「どうして、どうしてあなたがジークなの……? 私の母を殺した《炎帝》の……」


 その少女は親を殺された。他ならぬ俺の父オーガスタスに。

 あの、全ての運命の歯車が狂った《神授の儀》の日、彼女の母は儀式を執り行う聖職者の中にいたのだ。


 父の放った獄炎の中で、もがき苦しみ逝った母の無念を晴らすために、彼女は密かに証拠を集めた。

 そして、《炎帝》の息子が通うという学園に潜り込み、復讐の第一歩として俺に手を掛けることとしたのだ。


「俺は、俺は……」

「あなたの、あなたのせいで私の母は死んだ!! なのに、どうして……」


 彼女の……レイナの手は震えていた。


 俺の喉元には短剣の切っ先が突きつけられている。

 偶然にも、それはアイリスの命を奪った短剣だった。


 後はそれを俺の喉に突き立てれば彼女の宿願は果たされる。

 彼女の願いが叶い、俺もアイリスの元に逝けるならそれも良いと思った。しかし……


「出来ない……私には出来ないよ……」


 彼女は短剣を振り下ろせなかった。


 ――ジーク。私がこの学園でやりたいことを果たしたら、私と一緒に静かに暮らさない?


 それはある日、交したささやかな約束であった。

 情で刃が鈍る程度には、俺たちはお互いに関わりすぎていた。


 しかし、その直後――


「甘いなジーク。この程度の障害も払えないとは……」

「え……?」


 レイナの全身を蒼い炎が包み込んでいた。


「がっ……あっ……ああああああああああああああああああああああああ!!!」


 彼女が復讐すべきもう一人の男《炎帝》がレイナを焼き払ったのだ。

 魂魄も焼き尽くすほどの炎の中、レイナは絶叫した。


「の、呪って……やる……母の無念が……必ず貴様を――」

「さっさと逝け。害虫が」


 父がうんざりした表情で指を鳴らした。

 それを合図に彼女を包む炎は一層強まり、それが収まった頃には彼女の生きた痕跡は一片たりとも残っていなかった。


「あ、あ……」

「あまり手を焼かせるな、ジーク。お前は俺の跡を継ぐ男だ」


 そう言って父が俺の頭をそっと撫でた。反吐が出るような気分だ。

 俺はまたしても、守りたいと願った人を失った。他ならぬこの俺の頭を撫でるクズのせいで。


 アイリスを失い、ぽっかりと空いたこの胸の喪失に、どす黒い何かが入り込んでくる心地がした。


*


「っ……はぁはぁ……い、今のは……?」


 じんわりと胸に嫌な物が染み込んできた瞬間、俺は目を覚ました。


「ジ、ジーク様!? 大丈夫ですか?」


 身体を起こした俺の視界に真っ先に入ってきたのは、心配そうに俺の顔を覗き込むリヴィエラの姿であった。

 しかし、その顔の近さ足るや。今にも唇が触れそうな距離に…………


「いや待て、どうして俺に馬乗りになってるんだ」

「え? その……ジーク様を起こそうと思いまして」

「寝てる間に何かしたりは?」

「何もしてません!!……………………まだ」


 まだじゃねえよ。


「リヴィエラ、姿が見えないと思ったら、ずるいわよ」

「ず、ずるいって……私はジーク様を起こしに来ただけですよ、アイリス様」

「本当にそれだけかしら……?」

「ほ、本当ですよ~~」


 俺はその姿を見て安心する。


「二人が生きてて良かった……」


 ぼそりと呟く。


 まるで、本当に経験したかのようなリアルな夢だった。

 アイリスを失った喪失感に胸が深く抉られ、吐き気がするほどに悲しく苦しかった。


 それが夢でしかなかったことを実感し、心から安堵した。

 だけど、あの記憶は何だったんだろうか?


 夢に出てきた少女レイナは、ゲーム知識のある俺でも知らない人物であった。

 アイリスを失い、学園に通うことになったジークの心情も、ゲームで垣間見たイベント以上にリアルに感じられた。


 本来ジークが経験するはずだった記憶が流れ込んだ……? でも、一体どうして?


 実に不思議な体験だった。

 ゲーム知識があると言っても、ジークはあくまでもラスボス。


 最終ルートでその半生が掘り下げられはしたが、主人公ほどの密度はない。

 だが、俺が見た夢はそのジークの隠された人生を補完するようなものだった。


「……まあ、深く考えても仕方ないか」

「仕方ないって何が?」


 アイリス達が俺の独り言に不思議そうな表情を浮かべた。


「嫌な夢を見たけど、気にしても仕方ないと思ってな」

「どんな夢かしら?」

「アイリス達が死んで、俺だけが一人取り残される夢だった」

「何それ。変なの」


 アイリスがあっさりと言い切った。


 本当はそれが正史だったのだが、確かに今となっては変な話だ。

 アイリスとリヴィエラの二人が俺の側にいる、それが今の俺の現実なのだから。


 夢で見たのはこれから起こる不吉な未来かもしれない。

 しかし、二人は今も生きている。何が起ころうと、その様な未来は回避してみせる。


「さて、観光に行こうか。まだまだ、この街を堪能してないからな」


 夢で見た嫌な心地を振り払うように、俺は街に繰り出すことにした。

 お読みいただいてありがとうございます!!


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