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バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~  作者: 宮城こはく
第二章「陰になり日向になり」

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第二十一話「黒くきらめく宝石のように」

 なぜか顔が……千景(ちかげ)さんの大きなおっぱいにうずもれてしまった。



 おかしい。

 私のほうが千景さんよりも頭一つ大きいのに、これでは上下が逆だと思う。


「ま……ましろさん。重いのです」

「あぅ」


 ふわふわとした雲のような感触を頬っぺたで楽しみながら、私は体を起こす。

 そしてようやくこの状況が分かった。

 ……どうやら抱き着こうとして、勢い余って押し倒してしまったらしい。


「ビ……ビックリしたのです。……転んだのですか?」


 動揺する千景さんを、私は真剣なまなざしで見つめる。


「転んでません。……ただ、私の話を聞いてほしくて、抱きしめました」

「ふぁ……っ? ま、まさかまた、ほたかみたいな暴露(ばくろ)話を……するのですか?」


 千景さんは耳を押さえようとしたのか、両腕を振り上げる。

 耳を塞がれるわけにもいかないので、私はとっさにその腕をつかみ、床に押し付けた。


「わ……私は昔、本当の自分を隠して『普通』を演じようとしてました。中身は全然『普通』じゃないから、そのギャップに苦しんで、自分が大嫌いになってたんです……! ……本当の私はド変態で、いっつもエロエロ妄想が爆発しているのに、それを隠してたせいで鬱になってたんです!」


 なにやら勝手に口が滑って余計なことを言ってしまった気がする。

 でも、もう止まるわけにいかない!


「……そんな私ですが、親友の言葉に救われて、私は私のままでいいんだって思えるようになりました。……だから!」



「ま、まま……ましろさん! 自分が変態だって言いながら、ボクを押し倒してるのですか? ……これでは、まるでボクがこれから襲われるみたいなのです……」


 千景さんは銀髪を乱し、顔を真っ赤に染めて視線をそらしている。

 その言葉で、私はようやくこの状況を俯瞰できた。



 小さな女の子を押し倒し、両腕を床に押し付けた状態で馬乗りになっている。

 しかも、自分は変態だと告白しながら。

 これはもう……完全にいろいろアウトだ。

 警察に通報されても、何の言い訳もできない状況だった。



 私は慌てて、千景さんの腕を解放した。


「あぅぅぅああ……ち、ちち、違います! 私の興味はあくまでも二次元! マンガやアニメだけのもので、現実の女の子に向けたそう言う感情はこれっっっっぽっちもございません! ……って、それはいいんです。本当にお伝えしたいことがあるんです。今だけ、この姿勢は無視してください!」


 千景さんは顔を赤らめたまま、私の目をじっと見つめ返した。


「わかりました……のです。お……お話を、続けてください。……なのです」


 まるで変態の私を受け入れてくれたような顔。

 勢いで抱きしめてしまいたい衝動に駆られてしまうが、必死に自分を抑えようと深呼吸をする。


「……ふぅぅ。……。じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」


 コホン、と軽く咳ばらいをして続ける。


「えっと……、私が言いたいのはですね……。私は私のままでいいって思えるようになったから鬱ではなくなったので、千景さんも同じように、千景さんのままで自信を持ってほしいってことなんです。……ヒカリさんがあんなにテキパキと仕事をできるのは、千景さんが努力しているおかげなんです。どうか、そこを否定しないでください」


 ……そう。

 そうなのだ。

 倉庫の中に作られた小さな勉強机。

 ここで勉強し続けたのは、ほかならぬ千景さん自身のはずなのだ。

 そんな自分の努力を「不器用」という一言で切り捨ててほしくない。


「ヒカリさんは千景さんがいなければ存在できない。千景さんこそがすごい人なんだって、ご自分でわかって欲しいです」

「違うのです。千景(ちかげ)は『(かげ)』。誰も見てない暗がりでしか頑張れない落ちこぼれ。本当に父と母の助けになるのはヒカリなのです」


 千景さんは首を横に振り続ける。

 目をつむって、何も見るまいとするように。

 でも、耳は塞がないでいてくれる。


 ……だから、私は囁くように言葉をつむいだ。

 千景さんの心にしみ込むことを願って。


「私は絵を描くんですけど……、明るい色だけでは物の形を描けないんです。影があるからこそ、物の輪郭がわかり、私たちはその存在を認識できるようになる。魅力ある絵は、光だけではなく影も同時に存在するんです」

「同時……?」

「はい。だから、ヒカリさんを演じている時点で、すでにそこに千景さんもいるんです。熱心な勉強家なだけではない。ご両親を助ける一身で、本当は恥ずかしくて仕方がない『ヒカリさん』まで演じている。……すべて、千景さんがご自分でやっていることですよ」


 千景さんの努力は誰にも否定させない。

 ……千景さん自身にも否定なんてさせたくなかった。

 それに、そもそもヒカリさんなんていなくても、千景さんは十分に魅力的なのだ。

 だって、ヒカリさんの存在を知る前から、私は千景さんの魅力に酔いしれていたのだから。

 恥ずかしがり屋なのに、私がいるから階段トレーニングを頑張ろうとしてくれた千景さんを、ちゃんと知ってるのだから。


「そもそも、私はヒカリさんじゃない千景さんも……大好きなんですけどね」

「……ボクはいいと思ったこと、ないのです。影だけでは、絵は真っ黒になってしまうのです」


 そう言って、千景さんはプイっと横を向いてしまった。

 千景さんは自分の魅力をちっともわかってない。

 ……そこも大きな魅力の一つだというのに。 


「真っ黒でいいじゃないですか。私、好きですよ。黒い絵。なんか、黒ってかっこいいじゃないですか。……それに、その黒はたくさんの想いが集まって黒くなってるんです」

「……想い?」

「ええ。お店のために頑張って勉強し続けた、熱い想いが形作った黒。……黒曜石(こくようせき)みたいにきらめいて、すごく素敵ですよ」

黒曜石(こくようせき)……?」


 千景さんの目が潤む。

 ……その瞳の奥に光が宿ったような気がした。


「はい。黒曜石は熱い溶岩から生まれるんです。黒く透き通っていて、とてもきれい……。きっとヒカリさんは、その千景さんという魅力が放つきらめきの光にしか過ぎないんです」


 千景さんの肩はいつの間にか震え、私を見つめる目には涙があふれてきていた。


「ましろさん。……ボクを泣かせたいのですか……?」

「笑わせたいんです。自信を持ってください! 千景さんは私の大好きな人なんですから!」


 千景さんの頬にひとしずくの涙が零れおちた。


「ましろさん……!」


 涙を浮かべながら、千景さんはやさしく微笑んでくれていた。

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