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バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~  作者: 宮城こはく
第二章「陰になり日向になり」

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第十四話「大会にはテストがあるんだよ」

 突然部室にやってきたあまちゃん先生が、『予報第一号』と書かれたプリントを置いて、いなくなってしまった。

 どうやらこれは、次の大会の役割分担というものに関係するらしい。


「分担って、何すればいいんですか?」

「ペーパーテストだよ。『自然観察』、『救急知識』、『気象知識』、『天気図』の四つがあるんだけどね、これは同時に行われるから、どうしてもお姉さん一人では対応できないの……」

「なるほどです。……ていうか、同時にやらなかったら、お一人でやるつもりだったんですか?」

「もちろんだよぉ。大丈夫、大丈夫。全然いけるよぉ!」


 ほたか先輩は腕を振り上げて力こぶを見せてくれる。

 先輩はどこまでパワフルなんだろう……。


「たとえば『自然観察』の出題範囲なんだけど……」


 そう言って、ほたか先輩は冊子をめくり始める。

 その指が止まった場所には「島根県の山」、「三瓶山(さんべさん)の成り立ち」、「コース案内」などの見出しと共に、文字に埋め尽くされた情報の山が顔をのぞかせていた。

 なんのエンターテインメント性もない情報の羅列は、まさに教科書と言って差しさわりがない。


「……ましろちゃんには『自然観察』をお願いしようかなって思ってるの。ましろちゃんは観察眼があるから、大会が行われるお山のことを覚えてもらうと大会中も活かせると思うの」

「あぅぅ……。これ、めちゃめちゃページ数があるじゃないですかぁ……。十三、十四、十五……。二十二ページもある! これ、全部覚えるんですか……?」

「ごめんね、ごめんね……。あ、でもね、『自然観察』は他の三人も少し出題されるから、一緒にお勉強会しようねっ」

「あぅぅ……」


 毎日の勉強もあるのに、部活でまで勉強とは思いもよらなかった。

 私、運動部に入ったつもりですよ?

 完全に文化部のノリじゃないですか?


「アタシは何をすればいいんです?」


 剱さんが冊子を眺めながら言う。

 すると、ほたか先輩は本棚からなんと別の冊子を取り出した。


美嶺(みれい)ちゃんには『救急知識』をお願いできるかな! ……簡単に言うとケガや熱中症対策なんかの応急処置方法の知識のことだけどね。こういう知識は普段でも役立つから、是非覚えておいて欲しいの」


 表紙には『登山の医学』と書かれている。

 その冊子も二、三十枚はありそうな紙の束だった。

 しかし剱さんは動じることなく、冊子をパラパラとめくっていく。


「ぜんぜん大丈夫っすよ」

「あぅ。なんか私の紙よりずっと多いよ?」

「こういうのを持ってるんで……」


 そう言って、剱さんは自分の鞄から小さなカードを取り出す。


「普通救命講習……修了証?」

「美嶺ちゃん、すごいね! 心臓マッサージも止血も習ってるってことだし、完璧だよ!」

「あうぅ。……意外過ぎる」

「なんだよ、意外って! 空手の師範が講習に行っとけって言うからさ!」


 空手と聞いて、ようやく剱さんとつながった。


「ふふふ。なんか、お姉さん、安心しちゃった。でね、お姉さんが気象知識で、千景ちゃんが天気図なんだけど……」


 ほたか先輩は言葉を濁し、ツェルトと呼ばれた小さなテントを振り返る。


「……千景ちゃん。そろそろ出てこない? みんな、千景ちゃんのことを全然変だって思ってないよ? ね?」


 そして、ほたか先輩はこちらに目配(めくば)せする。


「そ、そうですよ、千景さん! 絶対に言いふらしたりなんかしません!」


 私が明るく呼びかけると、テントの隙間からきれいな手が伸びてきた。

 その手に握られた紙には一言、「無理」と書かれていた。



 △ ▲ △ ▲ △



 勉強会が終わった頃には、もうかなり日が落ちていた。

 私は靴を履き替え、ひとりで昇降口を出る。


 私にはどうすればいいのか、全然分からなくなっていた。

 山道具のお店での事件は全部私が悪いし、私にできることならなんでもしたい。

 でも、私が頑張れば頑張るほど、なんでも悪いことにつながってしまう。


 本当なら今すぐ千景さんのおうち……あのお店に行って土下座でも妄想ノートを見せて懺悔でもしたいけど、どうせ私を見ている神様は事件を起こす気満々だろうし、私も私で暴走するだろうから、私はもう、何もしないほうがいい。


 千景さんはもう一生、テントから出てこないかもしれない。

 私が千景さんをテントに閉じ込めちゃったんだ。

 八方ふさがりの袋小路に迷い込んだ気分で、私はトボトボと校門を出る。


「ましろ」


 突然、私を呼ぶ声があった。

 ふと顔を上げると、そこにはお団子頭の女の子が校門にもたれかかるようにして立っている。

 夕日の逆光を浴びながら私を待っていたのは、小桃ちゃんだった。

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