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拷問開始

「ふぅ。ナナシ様、情報の提供ありがとうございました」

「そいつら良い情報何か持ってたか?」


 獣人の国の城に通された俺達はそのまま客室で疲れをとっていた。

 特にネクストにとっては木々の多い森の中で休むというのは必要不可欠だったのだろう。

 今は寝て顔色がどんどん良くなっている。

 ジラントとズメイ、ユウは風呂に行っている。

 サマエルはすぐそばで俺とシリウスに茶を淹れていた。


「あの5人からはポラリスの内政について聞く事が出来ました。機密性は高くありませぬがそれなりに良い情報を手に入れる事が出来ました」

「それは何より。それであの女帝って呼ばれてたやつは」

「まだ口を割りませぬ。肉体的には支配できているようですが、精神的なところはいまだに」

「拷問してるんだっけ?レナが」

「はい。回復役で回復させ、また破壊するという繰り返しをしているようですが中々の根性です」

「……それじゃ俺がやるか」

「よろしいので?」

「ユウ達が風呂に行ってる間に終わらせたい。シリウスも来な。サマエルも協力してもらうぞ」

「はい」


 こうして俺達は茶を飲んだ後、女帝と5人の女を捕まえている地下牢獄までやってきた。

 5人の女はおとなしくしており、隷属されているためうつろな表情のまま虚空を眺めている。

 その隣の檻ではちょうどレナが女帝を回復薬で傷を治しているところだった。

 女帝は檻の中で磔にされ、さっきまでレナの拷問によってできた傷が少しずつふさがりながらも俺の事を睨んできた。


「ようレナ。うまくいきそうか?」

「ナナシ様。申し訳ありません。少々時間がかかっています」


 女帝は回復すると俺に向かって言う。


「貴様が……大、罪人、だな」

「ああそうだ。俺はお前の敵だよ。レナ、少し変わってくれ」

「分かりました」


 俺とレナが後退して檻の中に入り、とりあえず女帝に向かって言う。


「いい加減情報を吐いてくれないかな?拷問は苦手なんだ」

「貴様に話す情報はない」


 隷属の首輪を付けられているのにはっきりとモノが言えるとは、スキルの力だけではなく元々根性が据わっていると考える方が自然かもしれない。

 それどころか強気で話してくる。


「そちらこそ、勇者様を返せ!あの方は我が国の宝!わが国で威光を掲げてこそ勇者様なのだ!!」

「何が威光だよ。あんな暗い所でクズ野菜のスープと硬い黒パンしか食わせてなかったくせに。まぁいいや。これからは俺の拷問を受けてもらうから覚悟しておきな」

「私はどんな拷問にも屈しないぞ。痛みなどで口を割るものか!」


 そう言って俺に唾を吐きかけた。

 唾は俺の頬にあたり、レナがすぐに殺意を向ける。

 抱かれ俺はかかった唾を手で拭い、女帝の服で拭いた。


「良い根性してるな。それじゃ始めようか」


 俺はそう言ってから結界を使用した。

 闇系の魔法であり、本来は身を隠すために使用する魔法だがこういう間違った使い方もできる。


「さて、部屋に戻って茶でもすするか」

「?ナナシ様。拷問はしないのですか?」

「今実行中だレナ。拷問って言うのは何も物理的に傷付けるだけじゃない。精神的に追い込むことも技術の1つだ」

「精神的、ですか。しかしあの魔法が拷問になるのですか?」

「知識ではな。俺も初めてやるから本当に効果があるのか知らん」


 俺が使用した空間魔法の名前は『ブラックボックス』。

 結界系の魔法であり、魔法の対象を様々な外的情報を遮断する空間で包む魔法だ。

 外側からの見た目に関しては無色透明で一見するとそこには何もないように見える。

 本当の使い方はこの魔法で身を隠すことでその場をやり過ごすっというだけなのだが、別に対象は自分自身じゃなくてもいい。

 使用すると対象に合わせて正方形の結界が包むだけ。

 内部から外の状態が分からないし、外からの情報が中に入ってくることもない。

 それに結界系と言っても身を守ることは出来ず、ただの範囲系魔法と変わらずこの空間を歩いて脱出する事も可能だ。

 目立たないが閉じ込める事は出来ない、中途半端な魔法の1つだ。


 だが相手が拘束されているのであれば相手が勝手にこの空間の外に出ることは出来ない。

 それに情報が一切入らない空間と言うのは非常に気持ちが悪い。


 例えば音。音は当たり前のように周囲の壁や床、天井などに反射する。

 しかしこのブラックボックス内ではそれは一切ない。

 正確に言うと吸収される。すべての音が吸収されることで音が響かないという自然な状態ではありえない環境に変える事が出来る。


 そして他よりも大切な情報、光の欠如だ。

 このブラックボックス内では光も吸収され中は完璧な闇が広がる。広がると言っても本人を囲む程度の正方形だが光がないという事は自分自身の姿を捉える事も出来ない。

 目に見えるとは様々な光の情報を目から手に入れる行為の事を言う。

 その情報源である光が遮断されたらどうなるか。

 目を開けても何も見えない本当に目から入る情報が一切ない空間の出来上がりだ。


 では当たり前の情報、音と光がない空間に長時間閉じ込めた場合どうなるのか、実験の開始だ。


「とりあえず最初は……2時間がいいかな?2時間後またここに戻るぞ」

「はぁ」


 シリウスもこれが拷問になるのかどうか、半信半疑と言う感じだ。

 サマエルが用意してくれ茶を飲み、シリウスが持ってきてくれた茶菓子を食べて2時間後、女帝の所に俺とサマエル、シリウスの3人で戻ってきた。

 魔法を解除し女帝の様子を確認すると、目を細めながらこちらを見てきた。


「何だ。もう戻ってきたのか。拷問はどうした」

「おや?今のじゃ拷問にならなかったかな?」

「当然だ。ただの暗い空間にいるだけではないか。どうした、拷問して口を割って見せろ!!」


 なんて女帝は言っているが脂汗をかき、どう見ても普通の状態とはいいがたい。

 2時間くらいだったからこそこの程度なのかもしれないが、これを伸ばしていったらどうなるのだろう。


「1つ質問だ。前に合ったときからどれくらいの時間が経ったと思う?」

「そんなことを聞いてどうする」

「別に、ただの確認」

「30分くらいか。意外とすぐに帰ってきたじゃないか」


 強気で言っているが嘘なのは間違いない。

 たった30分の暗闇でここまで疲弊するとは思えない。


「そうか。それじゃ次はもっと時間を伸ばそう。シリウス。捕まえた者に対して食事は何回与えている」

「食事は1日に2回ですが」

「ではその次の食事まであの状態にしておくとしよう」

「おい!ま――」


 俺は再びブラックボックスを使用して女帝を閉じ込めた。

 何か言いかけていたようだがどうせ暴言だろう。


「シリウス。次の食事まで何時間だ」

「次の食事は……4時間後です」

「ならその時に同行しよう。行くときは教えてくれ」


 ブラックボックスの効果で女帝がいる檻の中には誰もいない、拘束具もないただの檻に見える。

 だが実際にはあの中に人はおり、誰にも気付けない。

 ついでに従者と思われる5人は隣の檻の中で食って寝るを繰り返している。

 俺が隷属させているので俺が決めた行動しかとれないというのもあるが、俺から見れ彼女達も痩せ過ぎのような気がした。

 全員線が細いがそれはただの体型と言う感じではなく、あまり栄養を取っていないから線が細いように見えるのだ。


 単純に運動をしているから線が細いという感じでない。

 ちょっとこいつらを使って確かめてみるか。

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