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依頼されました

 俺がこっそり抜け出して仲間と会っていたことを悟られないように俺はひっそりと檻の中に戻ってきた。

 そのままグダグダしていると檻が開けられた。


「お、朝飯か」

「その前についてこい」


 騎士がそう言うので食堂にでも連れて行ってくれるのかと思ったら、なぜか監獄の外に出た。


「何だもしかして俺が白だって証拠が出てきてくれた?解放って事?」

「いいから黙っていろ」


 騎士はそっけなく言うので俺も黙る。

 つまんないな~っと思いつつも護送車?みたいなので首都に戻る。

 これで自由だ~っと思ったら手錠はまだ外してもらえない。


「ねぇ解放してくれるんじゃないの」

「いいから黙ってついてこい」


 まさか1日で処刑されるわけじゃないだろうな。

 そんな不安を感じながらなぜか城にまで通され、そしてなんかでっかい扉の前でようやく手錠を外してもらった。


「で、こんなところに連れてきてどうするわけ」

「知らん。俺は命令されてここまで連れてきただけだ。詳しくはこの部屋にいるものに聞け」


 騎士がそう言うと扉が開いた。

 俺はため息をつきながらも扉の奥に進む。

 いつでも逃げようと思えば逃げられるし、話を聞くだけならいいか。

 だがこの場所、部屋ではなく謁見の間ってやつだな。

 この国のお偉いさんが一体どんな用なんだか。


 ダラダラと歩いていると玉座に座っているのは白い女の子だ。

 王冠をかぶり、手には白い杖を持っている。

 その白い女の子は赤い目で俺の事をやさしく見る。


「初めまして、私はアナーヒター。2日後にこの国の女王になるものです」

「自己紹介どうも。俺はナナシ。つい昨日あんたのせいで捕まっていた男だ」

「それに関しては謝罪します。どうやらあなたは私を狙った男とは違うようですね」

「何故そう思う」

「だって殺しにこないじゃないですか。何度も失敗してるのに」


 俺の姿をコピーしておきながら何度も失敗してるんかい。

 確実に1回で終わらせるのになんてことしてくれやがる。


「何度も失敗してるんなら大したことないんじゃないか」

「しかし私の占いによれば私が死なないためにはあなたの協力が不可欠だと出ました。なのであなたに依頼します。私の護衛をしていただけませんか」


 何がいただけませんかだ。

 命令する気満々のくせに。

 だが次の国の王に恩を売っておくのは悪くない。

 何かしらの形で返してもらおうか。


「それで、依頼を受けたとして俺に何のメリットがある」

「私に用意できるものであればなんでも差し上げます。金が欲しいのであれば支払いますし、私の身体が欲しいというのであればどうぞお抱きください」


 へぇ。意外な返答。

 周りの護衛達も驚いてるじゃないの。


「いいのか。俺みたいなやつの子を孕むとか言ってよ」

「構いません。どうせ私が王になれば貴族達の中から夫を選ばないといけませんし、かといって夫にふさわしいものが貴族の中にいるのかと聞かれれば、否ですからね。それならあなたの優秀な子種をいただいて私1人で育てる方がよほどマシですから」

「大胆にもほどがあるだろ。もっと考えろよ女王様」

「これでも色々考えた結果ですよ。一応求婚してきた男性たちとの未来を占いましたがどれもろくな物ではありませんでした。それなら一時の関係だけで終わる方がいいかと思いました」

「…………少し気に入らねぇな」

「はい?」


 女王様は首をかしげるが俺にとっては気に入らない。


「まるでお前、スキルに支配されてるみたいだな」


 俺がそう言うと女王は理解できないと質問してくる。


「何故です。スキルに支配されるはずがないでしょう」

「そうか?俺はお前がスキルを使って全て確認しているように見える。そりゃ便利なスキルだ。未来の事が分かるんだから使えば使った分だけ多くの情報を得る事が出来る。でもそればっかり使って他の事見失ってねぇと良いな」


 そんな感想を言ったが女王様はやはり理解できないという感じで改めて聞く。


「それであなたは依頼を受けてくれますか」

「依頼は受ける。でも報酬はもう少し考えさせてくれ」

「分かりました。では早速今日から戴冠式まで護衛をお願いします」

「それは分かったが少し待ってくれ。連れがいるから説明しないといけないし、何よりまだ朝飯食ってねぇ」


 腹の音が響きながら言うと女王は笑った。

 俺もこんなタイミングよく腹が鳴るとは思ってなかったよ。


「分かりました。では彼に朝食と彼の仲間にこのことを伝えてください」

「あ、面倒だからこっちに呼んじゃダメ?」

「出来る限り少数で挑みたいと思っています。理由は分かるでしょう」

「うちの連中だったら誰に化けててもすぐ分かるぞ」

「……それは確実にですか」

「確実にだ」

「では許可します。強いのならそのまま私の護衛をお任せしたいのですがよろしいですか」

「その分報酬は上乗せしてくれよ」


 こうして俺達は意外な形で女王様の護衛依頼を受けることになったのだった。


 ――


 朝飯を食っている間にユウ達がやってきたので改めて女王様からの依頼内容を確認。

 護衛期間は今日と明日の2日間で戴冠式まで守り抜けばいい。

 報酬は好きな物なんでもくれる。

 個人的には金でいいかな~っという感じだが他のみんなは色々考えている雰囲気がある。

 まぁとりあえずすぐに報酬を決めるつもりはないのでちゃんと護衛が完了したら支払う、と言う内容になった。

 もちろんこの中にポーラ嬢ちゃんはいない。

 俺の偽物とはいえレベル差だけで圧倒される可能性があるし、向こうは向こうで別の仕事のために来ているのだから巻き込まないという配慮だ。


「本当にこういう感じの依頼ってあるんだね」


 ユウがそう言った。

 まぁお偉いさんの依頼なんてそう受けるものじゃないからな。


「たまにあるぞ。俺の事大罪人だと知りながら雇う権力者。まぁ表には出ないで裏方でこっそりとだけどな」

「話には聞いてたけど……本当にあるとは思わないじゃん。だってバレたら大変でしょ?」

「そうだろうけどその権力者も裏でこそこそしてた連中ばっかりだからな。表舞台で活躍する権力者はかなり珍しいが、俺が暴れてた時から300年経ってるんだ。俺が本物だって分かってるのはおそらくポラリスの連中くらいだろうよ」


 知っている知らないではない。

 300年前の人物と同じだという発想すら普通はしない。

 忘れ去れているのが当然なのだ。


「でもそれなら何でナナシに依頼したんだろ?」

「例の占いの結果らしいぞ。俺の予想だと完全にスキル系の占いだな。そうでなきゃあそこまで確信した感じで言うとは思えない」

「予知夢だっけ?そんなによく当たるの?」

「さぁ?俺予知系のスキル持ってないから分からん。『嫉妬』でそういうスキルで相手の攻撃を先読みして戦う奴もいたが、精々数秒先の未来を見るくらいだったからな……」


 それに予知系のスキルだって絶対ではない。

 言ってしまえば複数ある候補の中から1番確率の高い攻撃の予想を視認する事が出来るくらいだ。

 それに戦闘となるとそのほかの事にも気を付けないといけないので結構面倒くさかったことだけは覚えている。

 それに非戦闘型のスキルはあまり手に入れたことがないからな……


「それって強い?」

「強い奴が使えば。たとえ予想通りの攻撃が来たとしてもそれを防ぐ術がないなら意味なかったし」

「微妙だね」

「微妙だな。でも女王様みたいに戦わない奴の予知系がどれくらい強力なのか全く知らないからそこは分からん」

「『嫉妬』で変身して確かめてみたら?」

「興味ないからパス」


 護衛と言っても何度も正面から喧嘩売ってくる馬鹿でない事を祈りながら俺は仕事をするのだった。

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