首都行きチケットゲット
翌日。
サマエルが今までにないくらい上機嫌だ。
その理由は……まぁ昨日の事が理由だろう。
サマエルの動きは全てスキップであり、ぶっちゃけ浮かれてる。
その様子にうんざりしているのはジラントだ。
「サマエル、そろそろ落ち着いたら。もう分かったから」
「え~?落ち着いてますよ~」
「そんなだらしない顔になりながら惚気られるこっちの身にもなってよ……」
こんな感じでジラントがうんざりしている。
他のみんなはどんな感じなのか見てみるが、あまり気にしている様子はない。
「私は聞き流してるだけだよ。だって経験ないし」
「気持ちは分かりますと共感したらあっさりと引きました。おそらくただ感情を共有したいだけなのでしょう」
とユウとレナは言った。
ちなみにジラントには何も言わないし、ネクストも首をかしげるだけでなぜ性交をしただけでそんなにうれしいと思うのか分からないという感じ。
サマエルも生まれたばかりの赤ん坊とそう変わらないネクストにはあまり深く絡まない。
だからかジラントにばかり自慢話を話しているのだ。
「まぁ自慢と言ってもジラントの事はとっくに抱いてるんだけどな」
「これからは4人でしますか?」
「たまにはいいと思うけど……毎日はキツイな……」
何せ3人とも俺に負けず劣らずの性欲を持っているのだから3人同時に相手にするだなんてぶっちゃけ無理。
レナとジラントの2人ならギリギリできたが……サマエルはどうだろう。
昨日の抱いた感想を言うとサマエルはマグロ状態。元々知識だけで性交なんてろくにやってきていなかったから仕方ないと言えば仕方ないが、これから仕込んでいくしかないか。
どうもサマエルは遠慮がちで積極的に動こうとしない。精々俺の腰に尻尾を巻き付けるか、足をまわして離れないようにするだけでちょっと物足りない。
特にキスに関してはもの凄くこちらの様子をうかがいながらしてくるので襲い辛い。
おそらく蛇の毒、口にある葉から注入する仕組みになっているからキスと言うよりは口で何かをすることに抵抗があるんだろう。
ぶっちゃけ『状態異常無効』があるから毒くらいで動けなくなることはないんだけどね。
「しばらくは1人ずつがいいな。サマエルもすぐに複数人とするのに慣れるとは思わないし」
「……そうですか。ではしばらくは誘うのをやめておきましょう」
なぜか残念そうに言うレナ。
もしかしてサマエルがどんなふうに抱かれているか気にしてた?
「サマエルの事仲間にしてどうしたいんだ?」
「どうという事はありません。ただ仲間が増えればそれぞれの負担が減って良いと思っていただけです」
「いや負担って。俺そんなにお前たちの事痛がるようなことした?」
「痛いとは違いますがイかされ続けるのも大変だという事です」
「そういうもんか?」
流石に俺が一方的に攻め続けるのも疲れるので交替くらいする。
まぁ4人でヤるのも夢があって良いけど。
「待たせてすまない。ナナシ殿達の手続きが終わった。これがその証明書だ」
「お、サンキュー」
ポーラ嬢ちゃんからもらった書類は俺達が人魚の首都に行く許可書だ。
と言っても人間なので最長の1週間限定の旅行客扱い。
元々ユウに人魚の世界と言うのを見せてみたかっただけなのでこんなもんでいいだろう。
「出発は3日後の午前10時からだ。時間厳守だから乗り遅れないように」
「分かってるって。ところでもしかしてあれか?また王族に貢物と言う名の賄賂渡さないといけない系?」
「基本的にはそうだな」
「よし。クジラ肉送り付けるか」
「宣戦布告か?」
「宣戦布告?」
ポーラ嬢ちゃんの言葉にユウが不思議そうに首をかしげる。
そしてその言葉に対して俺はある程度の予想を立てから聞く。
「もしかして今の王様クジラか?」
「シロイルカの人魚だ。そのためモビーディック・ムーンへの信仰心が強い」
「あ~なるほど」
「信仰心?」
「前に言ったろ。首都の方は海獣の肉を食わないって。その理由が王族がクジラ系の人魚ばっかりだから自然と力のあるクジラ、つまりモビーディック・ムーンの事を信仰するようになった。って聞いてる」
「大体そんな感じだな。しかも今代の王はシロイルカの王だ。信仰心も強い」
「シロイルカ?ってクジラの仲間なの?」
「まぁ……似てるっちゃ似てる。いるかとクジラの差は単純に大きさが基準になってるから形だけはかなり似てるかも。だからモビーディック・ムーンへの信仰心も特に強いんだよ」
「その神と祀っている者にモビーディック・ムーンの肉を送ってみろ。喧嘩を売っているとしか言いようがない」
「なるほど。でも王様に何か上げないといけないんでしょ?」
「その辺はまぁ……適当に金でも渡しておけばいいだろ。もしくは宝石系だな。これば無難な奴だ」
「ルビーの類はあるか?今代の王はルビーが好きだ」
「ならルビーをいくつか渡せばいいか。お土産渡すのは……乗る前だっけ?」
「乗る前に渡すのが通例だな」
「んじゃ宝箱でも用意しておくか」
ぶっちゃけ首都の連中は自分達が海を支配していると調子乗っているので俺より傲慢だ。
まぁ実際に海洋資源をほぼ独占しているわけだからそうならない方がおかしいのかもしれない。
その代わり陸にある物、果物とか野菜と言った植物関連には弱いけど。
「さて、送るものも適当に決めたし。そんじゃもう少しだけ世話になるよ」
「ちなみにだが……首都の観光が終わった後はどうしようと考えている?」
「そうだな……とりあえず他の大罪スキルを所有している奴を当てもなく探す。首都で起きてる殺人事件がそうかもしれないと思ってさ」
「何だと」
ポーラ嬢ちゃんが興味深そうに聞いてくる。
でも確かな確証はない。ほとんど勘に近い。
一応の理由はあるが。
「この首都に関する新聞を読んだんだが、ずいぶんと誤認逮捕が多いみたいじゃん。中には牢屋の中に容疑者がいるのにそいつが殺したなんて記事にもなってる」
「ああ。だからこそ事件は難航している。今言ったように犯人と思われた人物が捕まったはずなのに、捕まっている人物がまた殺人をしたという話も出ている。もしくは犯人だと確定しているのにアリバイがあったりと色々おかしい事が起こっている」
「多分それ『嫉妬』のスキルを持ってるんじゃないかと思ってる」
「嫉妬?それはどんなスキルだ」
「こんな感じ」
そう言ってから俺はポーラ嬢ちゃんの姿に化けた。
それを見たポーラ嬢ちゃんと後ろにいる護衛はかなり驚いていた。
俺は元の姿に戻ってから言う。
「多分アリバイがあったり捕まっているはずの誰か牢の外で殺してるっていうのはこういうからくりなのかもしれない。まぁ幻術系の魔法で姿をごまかしてるって言われたらそれまでだけど」
「いや、今ので十分だ。ちなみに癖などはどうなっている」
「そっちも完璧にコピーできてる。ただ違和感は残るだろうけどな」
「どういうことだ。癖もコピーできているのであれば違和感なんてないだろう」
「正確に言うとコピーした相手と本来の自分の癖が混じるんだよ。だからこそコピーした相手が今までしたことのない癖をしていたらちょっと違和感が出る。まぁそれを特定するにはかなり腕が必要だろうけど」
「……なるほど。どれだけコピーしても本人の癖は抜けないという事か。ちなみに記憶や知識はどうなる」
「流石にそこまではコピーできない。あくまでも見た目とスキルだけだ。元々戦闘用だしコピーした相手の半生を全てコピーできるとしたら頭の中がおかしくなるかもな」
「分かった。つまり適当に質問をしてかまをかけることは出来るかもしれないっという事だな」
「ああ。でも何でそんな入念に聞きたがる」
「奴が目的もなく殺しているのだとすればこの港だって安全とはいいがたい。だからこそ少しでも相手のいいようにならないよう対策を練らないといけない。そしてそのコピーする条件はどのような感じだ」
「コピーする相手を視認する事だ。ただしこれは肉眼で捉えていないとダメだから双眼鏡越しとかはダメ。その代わり視覚を強化するスキルと同時に使うことは出来るから相手のスキル次第で見つける難易度は跳ね上がるぞ」
「聞けば聞くほど厄介だな。しかしそんな強力なスキルが複数存在するとは、知らなかった」
「あ~。それに関しては別な事情があるが、とにかく俺が首都に向かうのはそういう理由だ。あわよくば『嫉妬』のスキルを持った奴に会って仲間に引き込めるかもしれないからな」
「引き込めそうになかったら?」
「邪魔だから殺す」
「……こちらの安全のためにも確実に殺してほしい所だ」
「気が合わないようだったら殺すよ」
やはり人魚の首都に『嫉妬』持ちの誰かがいるのかもしれない。
少しだけ楽しみだ。




