ネクストの剣完成、そして海へ
そこからさらに数日後、ようやくネクストの剣を作ってくれていたドワーフから完成したという知らせが届いた。
期限は守っているがその間に色々あったので結構長い時間待ったような感じがする。
みんなで取りに行くと作ってくれたドワーフが待っていた。
「お待たせしました。こちらがネクスト様の剣となります。ご確認ください」
木箱に収められた短剣は淡いエメラルド色をした短剣であり、余計な装飾などは一切なく非常にシンプルなつくりとなっている。
鞘の方は軽い革製であり鞘を懐にしまう事も可能そうだ。
短剣を持っていいのかと視線で訴えるネクストに俺は手に取れと視線で返す。
ネクストは短剣を手に取ると持ってみた感触、短剣の輝きを確認していた。
「何か違和感などはございませんでしょうか。持ち手などに違和感がございましたらお教えください。調整いたします」
「すみませんがこの短剣の試し切りをしたいのですがそのような施設はございますか」
「それではこちらにどうぞ。外に簡単ではありますが試し切りを行うための場所がございます」
と言う訳で1度外に出て短剣の試し切りを行う。
用意されている的はドワーフ製のただの鉄の鎧。ただの鉄と言ってもドワーフが作ったものなのだから人間が作ったものに比べると格段に質がいい。
元々剣で鉄を斬るのは武器の性能以上に持ち主の技量と武器の相性が重要となる。
ネクストは短剣を使いこなす事が出来るかどうかの試験と言ってもいい。
ネクストは少しだけ短剣を軽く振るい、振ってみた感覚を確かめながら鉄の鎧の前に立った。
ただ立っているだけの状態から短剣をかざし、全身を使って短剣を振り下ろした。
その結果鎧はまるで紙でできているかのようにあっさりと切られ、胸に大きな傷が出来ている。
短剣の方も刃こぼれ1つしていないので上出来と言えるだろう。
ネクストはっとした雰囲気を出しながら俺に向かって言う。
「マスター、私はこの短剣を使いこなせているでしょうか」
「ある程度は使いこなせてるな」
「ある程度ですか」
「そいつは杖の代わりにもなるものだ。的に向かって杖の代わりに使ってから使いこなせたと言える。そうだろ?」
「はい。今回提供していただきました風属性のドラゴンの鱗を粉にしたものをミスリルに混ぜましたのでそのような使い方もできます」
「と言う訳で杖代わりにもなるか確認してからだ」
「はいマスター。では実験を再開します」
ネクストは鎧から距離を取り、短剣を鎧に向けながら風魔法を放った。
「エアーハンマー」
短剣の先から繰り出した風魔法は簡単に説明すると空気砲のような魔法だ。
攻撃としては物理に近く、風の砲弾をぶつけられる感じ。
そのエアーハンマーによって鎧は大きくへこみ、鎧を吹き飛ばした。
本来のエアーハンマーは拳ほどの大きさの空気砲だが、ネクストが放ったエアーハンマーは明らかにサイズが違い、砲弾くらいの大きさはあったと思う。
風属性に特化しているとはいえ初級魔法を中級並みの攻撃力を出したのは脅威と言っていいだろう。
「どうだったネクスト」
「はい。非常に使い勝手のいい短剣だと感じました。杖の代わりとして使える事は聞いておりましたが、ここまでの力が出るとは思っておりませんでした」
「そうか。それで調整は」
「必要ありません」
「そうか。それじゃ買いだ。値段を言え」
「お値段はこれくらいになりますが大丈夫ですか?」
「払える。きちんと数えてくれ」
店に戻って値段分の金貨をメニューから取り出し袋ごとわたす。
店員たちが金貨の数を数えている間ユウは聞く。
「それで次はどこに行くんだったっけ?」
「次は人魚達がいる国に行く。このままドワーフの国を突っ切れば1番近い町に着く」
「人魚ってすごい?」
「泳ぐのが専門だから陸の上では遅い」
「下半身が魚って見たことないからちょっと楽しみ」
「俺も最初見るまではそう思ってたが、なんだかんだであまり人間とそう変わらないぞ」
俺も最初の頃は夢見てたんだけどな……あいつらの生態思っていた以上に現実的だった。
でもザハギンだっけ?あんな感じじゃなかっただけまだマシか。
「ちなみに人魚の特徴って何かある?」
「そうだな……寿命は人間よりも少し短くて60年から70年くらい。海の近くに住んでないと簡単に死んじまう。下半身は結構個体差があって人によって基になっている動物が違うってところかな?」
「何というか……他の種族に比べると地味だね」
「そんなことないぞ。人魚は水中戦では敵なしだし、船の上に載っているからと言って安全とはいいがたい。海で喧嘩売るのは馬鹿がすることだ。確かレナと仲のいい奴が当時いたな」
「アナーヒターですね。さすがに彼女はもう死んでしまいましたが、今はそのひ孫がアナーヒターを継いでいます」
「あの名前世襲制だったっけ?まぁ死んでるのなら墓参りくらいはしておきたいな」
あいつなんて魚が好きだったっけな?
いや、確かクジラの肉だったような……
「あいつの好物ってモビーディックの肉であってたっけ?」
「いいえ。彼女の好物は金色マグロが好物でした」
あれ、違った?
やっぱ300年前の知識じゃ限界があるか。
それにしてもあいつらまた賢くなったんじゃないか?
普通のモビーディックを仕留めるだけでも命懸けだっていうのに。
「そのマグロどこら辺に居たっけ?」
「無理に天然物を取ってくる必要はないかと。現在では養殖の金色マグロがあるそうなのでよく食べていると思います」
「そっか……そんじゃどうしようかな~」
適当に好物でもと思ったがダメか。
他に土産になりそうなものはあったかな。
「そのモビーディック?っていう生物そんなに危ないの?」
「普通の奴は喧嘩売らん。海の上っていう事もあって人間だったら確実に殺されるし、それ以前に喧嘩売ろうと考える気すら出ない」
「レベルは?」
「最低でも80からだな、モビーディック・ムーンの場合はレベル90前後」
「うっわ~。よくそんなの簡単に仕留めようとか言えるね」
「だってあいつ美味いんだもん。また食いたい」
子供で代替100メートル、大人で1000メートル、ムーンの場合は2000メートル。子供を捕まえただけでもかなりの食料になる。
そのため人魚達の中ではモビーディック・ムーンの事を神としてたたえている者もいるほどだ。
「まぁそれでも本命は海の魚だけど、手土産として上等な部類だろ。よそ者が都市部に入るにはどうせ手土産は必要だからな」
「そうなの?」
「確かに手土産があれば入りやすいですが、モビーディック・ムーンでは喧嘩を売っているようなものです」
「そうだっけ?あ、思い出した。モビーディック・ムーンを仕留めに行ったの別な奴だ」
俺達の話を聞いていたジラントは面倒くさそうな表情を俺に見せる。
まぁ空を飛べるのはドラゴン組だけだからどうしても必要な戦力となる。
あいつら相手に水中戦を仕掛けるとかただの自殺行為だし。
なんて話しているとネクストの短剣を作ってくれたドワーフが話しかけてきた。
「確かに料金の方いただきました」
「そうか。また頼む」
「ありがとうございました」
こうして店を出てから今度はおっちゃん達の所に向かう。
世話になった分ちゃんと挨拶してから次に向かわないとな。
「おっちゃんおばちゃん。そろそろ次に行くわ」
「そうか。気を付けて行けよ」
「みんな元気でね。そしてまた顔を見せに来てね」
少しおばちゃんの事が心配だったがどうにか持ち直したみたいだ。
最初は息子さんが捕まったことでかなり落ち込んでいたけれど、ぱっと見はそれなりに回復したように感じる。
もうしばらく引きずるとは思うが。
「ちなみにどこに行くんだ?」
「海の方。海の魚食いたくなった」
「人魚の方か。最近あっちは物騒だぞ」
「物騒?」
「殺人事件が多発しているそうだ。しかも首都でだぞ」
「首都ってマジ?あそこめっちゃ防御力高くて有名なのに?」
「そうだ。だから一応気を付けて行けよ」
おっちゃんがそんな事を言った。
あの人魚がいる都市で殺人事件とは相当レベルが高い奴がやってるな。
ネクストにそいつを殺させればかなりのレベルを稼げそうだ。
「分かった。ユウとネクストは気を付けておけよ」
「は~い」
「了解しました」
「と言う訳で、またな」
おっちゃん達に別れを告げてから俺達は人魚の国に向かうのだった。




