見学者達
「久しぶりに見ました。ナナシ様の殺すつもりの技を」
「あれ見ると本当に私達の事殺す気はなかったって思うわよね。ズメイもあれを見れば私の旦那様としてふさわしいと改めて思ってくれるでしょ?」
「正確に言いますと、認めざる負えない。と言う表現の方が正しいかと」
「うう、早くサマエルの事も抱いてくださいご主人様~」
「あれがマスターの本気。インプットしました」
「…………」
ユウ、レナ、ジラント、ズメイ、ネクスト、サマエル達はナナシの攻撃を確実に避けられる距離を保ちながら魔剣との殺し合いを眺めていた。
レナ、ジラント、ズメイ、サマエルは過去に何度も見たナナシの殺すための戦い方に懐かしさと心強さを感じ、ネクストはナナシの強さを知った。
唯一ナナシについて考えているのはユウだけだ。
「ねぇレナ。ナナシって昔からあんな感じなの」
「あんな、とは具体的にどういう意味でしょう」
「相手を殺すことを楽しんで、自分が死ぬかもしれない事も楽しむ。ナナシって昔からそんな性格だったの?」
ユウの質問にレナは少し考える。
「……そう……ですね。最低でも私と出会った頃はすでにあのような性格でした。誰彼構わず殺すような方ではありませんでしたが、殺すと決めた場合は普段とかなり性格が変わっていたのは覚えています。ただし本気で殺すときは非常に冷静に、でもどこか殺し合いを楽しんでいました」
「分かる分かる。旦那様ってヘラヘラしてるときは全然本気じゃないよね。ああやって冷静に、確実に殺すと決めながら敬意をこめて殺す。ああやって気に入って殺していった人たちは少ないと思うけど」
「ご主人様は普段は効率効率と言ってるけど、あのように強いと感じた相手には正面から戦いたがるの。ユウちゃんの時はどうだったか分からないけど、本気を出すときはああやって極夜に身体の半分を渡して戦う事の方が多いの」
ユウの質問にレナだけではなくジラントとサマエルも答える。
その答えにユウは悲しんでいるような、可哀想なものを見ているような、そんな表情を作る。
それを見たレナは質問し返す。
「なぜユウは疑問に思ったのですか」
「……ナナシの事何も知らないから」
「もう少し詳しくお願いします」
「だって普通は怖いでしょ?嫌でしょ?他人を傷付ける事も自分が傷つくことも普通は怖いでしょ?それなのに何でナナシは何とも思わないんだろうと思って」
「……なるほど。そう思うのはユウがまだ幼いからです」
「幼い?」
「はい。ユウはまだ精神的にまだ幼いと私は思っています。どうして相手を傷付ける事、自分自身が傷つく事に疑問を持っている時点でまだ子供なのです」
「な、なんで?普通は嫌でしょ??」
「そうですね。できる限り死に近づくようなことは避けるのが本能です。そしてはっきりと言っておきます」
「な、なに?」
「ナナシ様を脅威と感じているのであればナナシ様と共に旅をするのはやめるべきです」
はっきりとレナはユウに言った。
脅威。
魔剣に意識を半分明け渡して使用するナナシに対して脅威と感じない訳ではない。
だがユウは首を振ってレナの言葉を否定する。
「確かにレナの言う通りナナシの力が怖いと思ってる。その恐怖心が脅威だと思っている証拠だって言われたら否定できないよ。でもナナシとの旅を辞めるつもりはない」
「それは居場所の問題ですか。他に居場所がないからナナシにしがみ付いていたい、そのような話ですか」
「違うよ。私はナナシの事を理解したいの。何で私を連れだしてくれたのか、ナナシの言う自由って何なのか、私が美徳系スキルを全て持っているのはなんでなのか、なんで全て得られるようにしたのか、分からない事が多すぎるもん。だから私はナナシを通して知りたい。私にとっての自由は何なのか、美徳系スキルをどう使うべきなのか。そして愛が何なのか知りたい。その答えを得るまではナナシと一緒に旅をする」
レナの目をまっすぐ見てユウは答えた。
その答えを聞いたレナはユウから視線を外してナナシの事を見る。
「そうですか。ならナナシと共に入れるでしょう。ですが脅威しか感じられなくなった場合はすぐにどこかに行った方がいい事は覚えておいてください。脅威としか感じられないようであればユウもナナシ様も不幸になるだけですから」
「ありがとうレナ。でもそのつもりはないから」
「それは何故です?」
「なんとなくだけど、ナナシと一緒にいれば『愛』が分かる気がするから。それじゃそろそろ迎えに行く?」
「え、ええそうですね」
そう言ってユウは先にナナシの元に向かった。
レナが動揺した姿を奇妙に感じたジラントはレナに聞く。
「レナ?どうかしたの??」
「……いえ、何でもありません」
「絶対何でもありませんはないでしょ。そんなに変な事を言われたようにも聞こえなかったけど」
「大したことはありません。ただ……」
「ただ?」
「……厄介なライバルになりそうだな~っと思っただけです」
それを聞いたジラントは納得した。
「確かにそんな雰囲気あるよね。ナナシの事を怖いと思いつつもああやって一緒にいるわけだし、今までいなかったタイプかも」
「ええ。ですから少し驚きと興味がわいてきました」
「だよね~。私達ドラゴンも強い異性を見ると繁殖したいって気持ちの方が強いけど、人間は怖がるだけで繁殖したいって思わないもん」
「獣人も似たようなものです。だからこそのハーレム制度ですし、雌の本能を抑制しないための法ですから」
「うんうん。絶対ではないけど強い雄の子種から強い子が生まれる可能性の方が高いからね」
納得しているジラントに対してネクストだけは不思議そうに首をかしげる。
「そういうものなのですか?」
「流石にネクストには早いと思うけど、結局はそんなところだと思うわよ。私達雌って生物はなんだかんだで優秀だと思う雄から子種を欲するものよ。ネクストはその辺生まれたばっかりだからまだ分からないと思うけど」
「いつか分かるものでしょうか?」
「多分ね。この辺は感覚と経験によるものだからもうしばらくかかるでしょうね」
「経験……マスターにもよく言われます。経験を積むことで学習します」
「経験……私はいつになったら抱いてもらえるんだろう……」
ふと空気が凍った。
レナとジラントは即座に目をそらし、ネクストはよく分からない表情をし、ズメイはそっと伏せた。
しかしサマエルはぶつぶつと言う。
「僕はいつでもオッケーなのにご主人様は全然抱いてくれない。確かに他のみんなに比べるとおっぱいちっちゃいかな?まだ男の子っぽいかな?なんて考える事もあるけど何で私だけ抱いてくれないの?レナちゃんもジラントちゃんもたまに抱いてもらっているのに私だけいまだに処女。そんなに魅力的じゃない?中性的なのが好みじゃないとか??それならベレトちゃんに頼んで整形するのも手段の1つとして考えておかないと。整形費ってどれくらいなのか調べておかないと」
あ、これ本気だ。
周りにいる女性人たちはそう感じた。




