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楽しい時間

 1万を超える魔剣の雨が正確に確実に俺を殺すために降り注いでくる。

『憤怒』を起動したまま魔剣を破壊して俺はさらに力を上げる。


 本来であればただの武器を破壊しても俺のステータスは上昇しないが、こうして魔剣を破壊するときは別だ。

 道具として存在しているのではなく、1体の生命体として捉えられるために魔剣の破壊も対象となる。

 俺は楽しく仕方がない。

 こうして真正面から堂々と殺しに来る奴なんていつぶりだろうか。


 そして何より、殺してもいいそれなりに歯ごたえのあるやつは久しぶりだ。


 俺に向かってくる劣化版魔剣を極夜で破壊し、ボルテージが上がっていく。

 あいさつ代わりに極夜を思いっきり上から下に振り下ろすと、それだけで劣化版魔剣は風圧で吹き飛ばされたり、斬撃で破壊される。

 魔剣は俺の攻撃を避け、その後方にある黒い雲を軽く吹き飛ばす。


 その時魔剣は俺の事をどう感じたのかは分からない。

 だが最大級の警戒と、全能力を使用して殺さないといけないと言う殺意。

 必死さも混じったこの空気に感覚が研ぎ澄まされていく。


 飛んでくる劣化版魔剣を切り伏せ、魔剣に向かって前進する。

 魔剣はまさに雨のように俺に向かい命を奪おうとするが残念ながら届かない。

 前後左右、上下どこから来ても俺は『森羅万象』で分かるし、どの順番で攻撃してくるのか分かる。

 無駄なフェイントは一切なく、すべての攻撃が俺の頭と心臓を狙う。

 極夜を振るって劣化版魔剣を破壊し、折れた刀身をはじき、真っすぐ最短距離を進む。


 劣化版魔剣は銃弾よりも早く放たれるが俺の足を止めるほどではない。

 全方位から一斉に来ても必ずわずかなズレがある。

 そのずれを見極め1番最初に到達する劣化版魔剣を斬り、極夜では対応できない部分は殴ってはじく。

 はじかれた劣化版魔剣はすぐ再び俺に向かって飛んでくるが、その次は確実に切り伏せた。


 劣化版魔剣を100本ほど破壊したころ、魔剣の方も数では勝てないと感じたのか他の劣化版魔剣が魔剣に集まる。

 残りの劣化版魔剣がすべて魔剣に吸収されると、騎士だったものが大きく変化していく。

 全身に生えていた劣化版魔剣もすべて魔剣に取り込まれたようで、魔剣は普通の片手剣とは思えないほどの分厚さと長さに変化した。

 人間が扱うなら大剣と言う方が正しいほどの大きさだ。

 それを軽々と扱い俺を殺そうとする。


 だが『憤怒』によってさらに強化された俺はその程度じゃ止まらない。

 上からたたきつけるような攻撃を正面から受け止め、長い魔剣を極夜で滑らせながら魔剣に近づく。

 魔剣はすぐに引こうとするが魔剣が大きく重くなったからか先ほどよりも遅い。

 俺は騎士の腹に拳をぶち込む。

 騎士の腹に風穴を空きながら吹き飛び10メートルほど飛んだ。


 ダメージ……になっているとは言えないか。

 本体はあくまでも魔剣。

 どれだけ騎士の身体損傷を与えたところで意味はない。

 ダメージを与えるためには魔剣に直接ダメージを与える必要がある。


 と言っても全く意味がないわけでもない。

 身体の損傷が大きくなればなるほど動きは悪くなるし、もちろん耐久値も下がる。

 それに本来であれば人間の心臓にあたる部分に穴が開いているのだ。

 耐久値と言う意味では相当下がったはずだ。

 そして魔剣にそんな身体の修復は出来ない。

 回復が出来る聖剣は聞いたことがあるが、魔剣で回復系のスキルを持っているとは思えない。

 その予想は正しいようで起き上がる騎士の風穴は修復されない。

 魔剣もただデカいだけでは無意味であると分かったのか、剣の大きさを元の大きさに戻した。

 その分魔剣は他の劣化版魔剣の質量を圧縮しているような感じで油断はできない。


 今度は魔剣の方から俺に向かってきたが、先ほどよりも動きがずっと良い。

 無駄に大きくない分スマートになったというか、無駄な動きが減った。

 極夜で防ぎ、動き回りながら魔剣と極夜をぶつけ合う。

 火花が夜の暗闇を一周だけ明るくし、ぶつかり合う鉄の音が響き渡る。


 少し離れた位置から極夜を思いっきり振って斬撃を飛ばすが魔剣はうまくいなして流す。

 斬撃は見知らぬ誰かの家にあたって真っ二つにしてしまったが、中に人はいないようで何より。


 すると魔剣が少し構えながら点滅し方と思うと上段に構え、思いっきり振り下ろした。

 そして飛び出す斬撃。

 俺は簡単にはじくとまた誰かの家が真っ二つになる。


 へぇ。

 これは面白い。


 俺の斬撃は他のプレイヤーのように武器スキルによる恩恵で繰り出しているわけではない。

 極夜の動きに合わせて魔力を飛ばす、それが俺にできる斬撃の飛ばし方。

 他のプレイヤーは武器スキルによる斬撃を飛ばす攻撃なのでMPを一切消費しないが、俺のこのやり方だとMPを消費する代わりにより強力な攻撃が出来る。

 MPをどれだけ消費するかの調整によって威力を上下させることもできるので俺は便利だと感じているが、戦いながらのMP管理は難しいと言われているので使う奴は少ない。


 だが魔剣は俺の斬撃を見ただけでコピーして見せた。

 ならこれもできるかと思い、突きを騎士の左肩に向けて斬撃を飛ばした。

 突きの場合は点で飛んでくるので野球ボールが飛んでくるような感じ。

 それが触れれば貫かれるのだから、三日月のような大きな斬撃に比べると防ぎ辛い。


 魔剣を使って突きの斬撃をまたいなした。

 こいつ……俺の方がパワーやMPが多いから相手の攻撃をうまくいなす方向にずいぶん成長してるな。

 逆にそれが出来ない状況に陥れば、簡単に魔剣は破壊できる。


 それにしてもこの魔剣、本当に面白い。

 他の魔剣だと成長が非常に遅いというのにこの成長速度は異常と言ってもいいくらいに早い。

 これほど急速に成長する魔剣は見たことがない。


 だが、相手の力を受け流すことにも限界がある事を教えてやろう。


 魔剣はその場で構え連続の突きで俺流の斬撃を飛ばす。

 しかも一時的にかもしれないが他の劣化版魔剣を100本ほど召喚。まるでマシンガンのように突きの斬撃が飛んでくる。

 流石に100発を超える斬撃に正面から応えるのは不可能だ。

 それに俺の覇気を突破するだけの威力を持っているのでは気を身に纏っていれば防げるものではない。


 だがそれでも俺は愚直に前に進んだ。

 頭の中では転移すれば簡単に避けられると分かっているが、それでもこの殺し合いで転移を使う気になれなかった。

 前に進みながら俺は斬撃を受けながら突進する。

 受ける斬撃は全て致命傷をかわしながら、身体の表面にだけかすらせるように進む。

 もちろん当たったところから血は吹き出し、肉はえぐれるが痛みよりも興奮が勝っていて痛みを感じない。

 移動しながら俺は突きを繰り出す。

 魔剣がちょうど突きを繰り出した直後を狙い、魔剣を持っていない左腕を吹き飛ばず。

 その余波で家の壁にも風穴が空いたがまぁいいか。


 魔剣は再び劣化版魔剣と一体化し、剣による攻撃を行う。

 俺は極夜で受けてわき腹を横から蹴る。

 騎士が体勢を崩したところで騎士の太ももを蹴ったら劣化版魔剣が俺の足を貫いた。

 ちょうど足の甲を貫かれてさらに形状を変化、俺の足を動かせないようにご丁寧に返しまで付けやがった。

 抜けないようにした後に殺そうと魔剣を振り下ろすが、俺は自分の足首を無理やり引き抜き転移で引いた。

 流石の魔剣もいきなり転移を使ってくるとは思わなかったのか、勢い良く魔剣を地面に叩き付け地面を割る。


 流石に片足が使えないのは面倒だ。

『色欲』を使って欠損を修復、空いた穴をふさぐ。

 今のでそれなりにMPとHPを削られたな。

 靴の方も俺のMPを消費する事で自動修復されるが、これで直接殴っての攻撃は難しくなった。


 魔剣は十字の斬撃を繰り出しながら走ってくる。

 まだまだ俺には余裕はあるが……そろそろ決めようか。


 俺は極夜に意識を半分明け渡す。

 ゲーム風に言うならセミオート、とでもいう感じの状態。

 俺の感覚と極夜の感覚が完全に混ざり、ある意味魔剣に意識を乗っ取られているのとあまり変わらない。

 これが極夜との俺の本当の戦い方。

 俺は力尽くではなく、かといって俺の技術だけでもない。

 極夜の剣としての最善手を感じ取りながらまっすぐ極夜を振り下ろした。


 それで繰り出されるのは漆黒の斬撃。

 揺らぎは一切ない、綺麗な三日月形の斬撃が魔剣が繰り出した斬撃を軽く切り裂き、魔剣はスンの所でかわした。

 俺の繰り出した斬撃はどこまでも飛んでいく。

 一直線上にあった家や物は全て細い線を描いたかのように一瞬斬れるが、崩壊などは一切しない。

 本当に定規を当てて描いた線のようにまっすぐ綺麗に残るだけ。

 だが生物が触れれば確実に斬り落とされる線だ。


 これが俺達の本気。

 本気で殺すと決めた時にだけ行う戦法。


 魔剣は俺達の攻撃を分析しているようだったが、しばらくして再び俺達に立ち向かってきた。

 俺達は魔剣をただ受け止める事はしない。

 極夜に触れればただの鉄だろうが魔剣だろうが関係なく斬る。

 魔剣は極夜に触れた瞬間すっと極夜の刃が入る。

 それに驚いたのか魔剣は慌てて下がり、刃が入ったところまで修復した。


 それならと斬撃を飛ばし、長距離での勝負に出るが同じように斬撃を飛ばして対抗する。

 もちろん斬撃も俺達の方が上だ。

 お互いの斬撃はぶつかり合うも俺の斬撃に斬られ、貫かれた斬撃はまっすぐ魔剣を切り裂きに飛び続ける。

 騎士はスンの所でかわすが、体中に損傷を負う。

 魔剣は傷ついていないがかなり動きが悪く、これ以上の戦闘は難しい。


 それでも立って剣を構える魔剣は武器としての美しさがそこにあった。

 武器として、相手を殺す瞬間を見逃さない。

 武器として、相手に殺されるまでは目を離さない。

 そんな意志を感じて俺も極夜を構える。


 構えたまま呼吸を整えていると、先に魔剣が攻撃を仕掛けた。

 向こうもこの時最高の技を出そうと魔剣を振り上げる。

 それなら俺達も技を見せよう。

 面白い物を見せてくれた礼だ。

 魔剣が俺をとらえる寸前、俺達は技を出した。


「魔剣技、『血桜』」


 下から上への斬りながら魔剣と騎士、両方を紙を斬る様にすっと極夜を動かした。

 魔剣はあっけないほどに落ち、魔剣を失った騎士も動きを止める。

 そして騎士はあおむけに倒れながら血を噴出した。

 これが魔剣技『血桜』。

 まるで血が上に向かって血が吹き出し、桜が咲くかのように見えることから名付けた。


 魔剣は破壊されたことで完全に機能を停止、騎士に関してはやはりただの死体として転がる。

 俺は壊れた魔剣を拾ってこれで終了。

 さて、他の人達はどうなったかな~。

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