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犯人発見

 劣化版魔剣の反応を確かめながら進むと、本物の魔剣があると思われる場所はさびれた教会の中からだ。

 ホラーゲームなら確実に幽霊かゾンビが出てくるであろう雰囲気が出ている。

 そんな教会の扉を蹴破り、扉を破壊しながら中に入ると奇妙な騎士がいた。

 鎧はぼこぼこで錆びていたり腐っていたりする。

 そして騎士に目玉はなく、ただ空洞がこちらを覗いていた。


「完全にゾンビだな。で、会話することは可能か?」


 一応騎士ゾンビが持つ魔剣に向かって言ったが、反応はなく襲い掛かってきた。

 予想通りの行動だ。

 ゾンビが持つ魔剣はそれなりの強さであり、今までの劣化版魔剣と比べればはるかに性能が良い。

 だが俺が想定していたよりは弱い。

 劣化版魔剣をばらまいて戦闘データを収集していたにしては動きがまだ悪い。

 それにこの魔剣から何か特別な力を感じる事もない。


 対象の違和感を感じながらも、プレイヤーレベル30前後の動きをするゾンビは意外としなやかな動きで魔剣をふるう。

 俺はまだ極夜を抜くこともなく余裕でかわせる。

 そしてゾンビが大きく魔剣を振りかざして俺の頭を狙う前に、極夜を抜いた。


 もちろん狙いはゾンビではなく魔剣。

 プレイヤーとのレベル差と極夜と言う手に馴染んだ魔剣によりゾンビの持つ魔剣はあっさりと斬りおとした。


 斬られた魔剣の刀身は床をはじきながら甲高い音を立てる。

 ゾンビは魔剣の力でただ操られていただけなのか、あっさりと倒れて元の死体に戻った。

 魔剣の方も破壊されたことによりチリのようになって消滅。

 一応の目的は果たした。


「極夜。味は覚えたか」


 闇と完全に溶け込んで姿が見えない極夜に聞くとあまりおいしくないという感じの反応が返ってきた。

 まぁそうだろうな。

 この魔剣もハズレだ。


 おそらくこの魔剣は本物の魔剣だと勘違いさせるためのトラップ、そして本物の魔剣と繋がっている唯一の魔剣だ。

 劣化版魔剣と本物の魔剣をつなげる中継地点のような役割も持っていたのだろう。

 それに今までの魔剣と比べて性能が良かったことから他の連中なら余計に勘違いさせる事が出来たはずだ。


「ユウ。外の様子はどうだ?」

『動き出したよ。思っていた以上に大混乱になってる』

「大混乱?」

『この1か月でかなり力を付けたのかな?騎士団は全滅で冒険者達も一部魔剣に取り込まれちゃった。そして今本気の殺し合いをしてるよ』

「分かった。俺は本物の魔剣をぶっ壊しに行ってくる。ユウやレナ達は一般人に被害が出ないようにできるだけ食い止めてくれ」

『……止め方は好きにしていいんだよね』

「好きにしていいぞ」

『それじゃ止めてくる』


 予想通りだ。

 ここにきて本物の魔剣を持った奴は焦り始めた。

 おそらく俺に本物の魔剣を特定されたのが理由だろう。

 だから少しでも魔剣の力を高めるために騎士団や冒険者達を支配し、争わせることで急速に経験値を得る算段なのだと思われる。

 だから今ここでは騎士団と冒険者が仲間同士で殺し合う地獄絵図が出来上がっている。

 それを止めるのが大罪人とは大笑い物だ。


 町を走り抜ける間も多くの騎士と冒険者達が殺し合いをしていた。

 しかも死んだと思われる騎士や冒険者達はそのままゾンビとして魔剣に操られ、邪魔者達を殺そうと動く。

 邪魔者とは操られていない冒険者達やユウ達の事だ。

 彼らは剣を使わない、もしくは魔剣では操る事の出来ない対象だったのだろう。

 ユウ達だけでも十分だと思うが、まぁ手が多い事はいい事だ。


 そんなことを思いながらあえて屋根の上を跳びながら主犯がいる建物にたどり着いた。

 そこには1人のドワーフが戦斧をもって警戒していた。


「ナナシ!これはいったいどういう事だ!!」


 おっちゃんだ。


「悪いなおっちゃん。本物の魔剣だと思う魔剣を破壊したんだが、どうやらそれも偽物だったみたいでさ。ようやく見つけた本物の魔剣をたたっ斬るために来たんだ」

「本物の魔剣だと!?そんなもんここにあるわけねぇだろ!!」

「いや、移動してる様子だったからちょうどおっちゃんの所に逃げ込んだみたいなんだよ。正体はまだ分からん」

「よりにもよって家に逃げ込むとは……そいつはどこにいる!!」

「作業場」


 短く言うと俺とおっちゃんは一緒に作業場に乗り込む。

 おっちゃんは荒々しく扉を開けると、そこには1人の男が魔剣をもってこちらの事を眺めていた。

 そして俺達が入ったことに対して驚いているようなそぶりは一切なく、むしろ俺とおっちゃんを見て微笑んでいるくらいだ。

 おっちゃんは魔剣を持っている男に向かって驚きながら声を上げた。


「なぜ、なぜおまえが魔剣を持っている!!バカ息子!!」


 魔剣を持っていたのはおっちゃんの息子さんだった。

 流石にそこまで予想していたわけではないが、理由と種明かしくらいは聞いておきたい。


「親父……僕、ようやく魔剣作れるようになったよ。まだまだ切れ味がいいだけの剣だけどさ、この魔剣を使えばいくらでも魔剣を量産する事が出来る。これで魔剣はいらないだなんて言われなくなるよ」

「そんなことどうでもいい!!なぜおまけがその魔剣を使って人を殺している!!」

「別に、ただの戦闘経験を積ませるだけだよ。この魔剣はね、本当に凄いんだよ。量産された普通の剣を魔剣に変えるだけじゃなく、戦闘経験も共有させる事が出来るからすぐに強くなる。大罪人の兄ちゃんみたいに苦労して魔剣を強くする必要なんてないんだよ。かなり苦労したって言ってたよね?魔剣の兄ちゃん」

「何だ。今だにそんな風に俺の事を呼んでくれるんだ。俺がお前に会ったのはお前が10歳くらいの子供の頃だろうに、よく覚えてたな」

「忘れるわけないよ、忘れられるわけないよ。兄ちゃんの持つ極夜は魔剣の極みだ。そんな綺麗な魔剣見たことがない。僕もいつか極夜みたいに綺麗で強い魔剣を作るのが夢だったけど、僕にはそんな技術はなかった。努力はし続けたけど、極夜みたいな魔剣を一から作るのは無理だった。でも僕はこの魔剣を見つけた!!この魔剣があれば僕はいくらでも魔剣を作る事が出来る!!」


 彼はそう言った。

 正直俺の極夜を高く評価してくれるのはうれしいが、彼が持ってる魔剣はただの魔剣だ。

 普通の剣を魔剣に変える、それも十分脅威と言える能力だろう。

 だが――


「結局お前が出来るのは作るところまでだ。お前じゃ魔剣を使いこなせない」

「それは分かってる。あくまでも僕は鍛冶師で砥ぎ師の息子、戦闘能力ははるかに差がある。だから鍛冶師らしく戦闘はちゃんとしたプロに任せるさ」


 そう言って彼は魔剣を窓から外に向かって投げた。

 それを受け取ったのは外にいた騎士。

 騎士はすでに劣化版の魔剣を持っていたが、本物の魔剣を手にすると身体に異常が生じる。

 鎧の下から剣の様なものが飛び出し鎧を破壊する。

 まるでその姿は人間ハリネズミ。

 危なっかしい姿だ。


「1つ聞く。あの魔剣を使って君はどうしたい」

「何度も言わせるな。魔剣はもう古い、もういらない技術だと言った連中にそんなことはないと見せつける」

「それなら俺じゃなくてもっと有名どころを狙った方がいいんじゃないか?この国のドワーフ王とか」

「あれはダメだ。あれは聖剣使い、負けたら聖剣しか認められない。でも大罪人の持つ魔剣同士なら必ず魔剣は評価される」

「勝っても負けても最低限の目的は果たせるように考えてるって事か。まぁいいか。乗ってやるよ」


 そう言ってから俺は出口に向かって歩く。

 その前におっちゃんに軽く言っておく。


「息子さんの事は任せましたよ」

「分かってる。説教してやる」


 その言葉を聞いて俺は外に出て魔剣と向き合う。

 騎士はすでに魔剣に完全に意識を奪われ、獣のようなうなり声をあげているがその剣の構えはキレイだ。

 俺も極夜を抜いてそっと構える。

 そして俺と魔剣の戦いが始まった。

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