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今までと違う魔剣騒動

 結論から言うと今回の魔剣騒動は非常に難易度の高いクエストになった。

 その理由はなくなった魔剣を元に劣化版の魔剣と言える魔剣がばら撒かれているからだ。


 先日見つけた冒険者のように商人から買った、ただ落ちている剣を拾ったら魔剣だった、メインで使っている剣の修理中に貸してもらった剣が魔剣だった等々。

 そのためこの間の魔剣を手に入れた冒険者の他にも同様に魔剣を手に入れた暴走してしまった事件が多発している。

 そのため捜査は難航、劣化版魔剣の被害を抑えるのが騎士団の仕事になり冒険者達は自力で本物の魔剣を捜索していた。


「困ったな……」

「面倒だな」

「おいナナシ。お前も一応冒険者なんだからもっとまじめにやれ」

「無理。これ想像以上に面倒すぎるもん。この間劣化版魔剣100本目の発見だとか騎士団だか冒険者達の間で騒いでたぞ」


 おっちゃんの家で茶を飲みながら俺は話していた。

 量産型魔剣を更に劣化して量産するという訳の分からない状況に冒険者も国も大騒ぎだ。

 各鍛冶師の所に騎士団が家宅捜索をしたり、権を売買している商人を手あたり次第調べているという話だ。

 しかしそれで魔剣だと判明するのは数本程度。

 ほとんどの魔剣は町の冒険者や騎士が魔剣を手にしたことで暴走したところを取り押さえられたことで魔剣も回収されている。


「ナナシのスキルでどうにかならんのか?」

「この国中の剣を奪っていいのなら多分できるぞ」

「冒険者が多いこの町でそんなことをしたら経済的にも大打撃になる」

「それもうとっくにそうなってるじゃん」

「……そうだったな」


 ドワーフの商人や鍛冶師から魔剣を渡されたという事でこの国の信用はがた落ちになっている。

 ろくに武器として使えない武器を渡すのは問題だが、使用者が使いこなせない武器を渡すことも信用問題につながってしまう。

 そのため今のうちにこの魔剣騒動を潰さないと国の経済も傾くのではないかとドワーフの国では騒ぎになっている。


「おっちゃんも1回捕まったんだっけ?」

「捕まったなんて言うな。店の様子を確認されただけだ」

「引退した魔剣関連の鍛冶師にもいい迷惑だな。もう鍛冶師と言う職業の人全員確認するつもりじゃないか?」

「そう思われても仕方がない。だが鍛冶師にしかできない犯罪でもある」

「それに劣化量産型と言っても魔剣であることに変わりはない、か。子供でも掴めば親だろうが鉄でできた道具だろうがなんでも斬る事が出来る。危険物であることは変わらないか」


 茶をすすり息を吐くとおっちゃんは確認するように言う。


「他の職人を疑う訳じゃねぇが、本当に魔剣なんだよな」

「俺から見ればぎりぎり魔剣として成り立っているって感じだ。切れ味は上がっているがそれ以外はただの量産型の剣と特に変わらない。脆いし薄いし本当に量産に特化した感じだ。ありゃ型に鉄を流し込んでるだけじゃないか?」

「目利きは相変わらずだな。ナナシの言う通りありゃ型に鉄を流しているだけの粗悪品だ。ドワーフじゃなくてもできる」

「そのせいで最近は捜索範囲を広くせざる負えなくなったんだろ?」

「そうだ。鉄を溶かす事が出来る施設がある場所は全てだそうだ。さすがにある程度調べたうえでの話ではあるが、現状そうしてしらみつぶしに探し回るしかない」

「しらみつぶしでも何でも情報が出てきてくれるならそれでいい。人間の町だったら鍛冶師の家なんて1つ2つしかないから楽なんだけどな……」


 お互いにクエストの事でため息が出る。

 特に目立った進展もなく起こり続ける魔剣事件。

 そんな俺達を見ておばちゃんがお茶のお代わりをくれる。


「ナナシちゃんも大変ね。もう1か月は経ったかしら?」

「あ~、もうそれくらいになるんだ……ネクストの剣が出来るまでの暇つぶしと小遣い稼ぎと思っていたが、思っていた以上にデカいクエストを受けちまったみたいだ~」

「本当にお疲れね」

「おばちゃんの方は大丈夫?魔剣騒動のせいで色々制限がかかってるって聞いてるけど」

「食料品とかは大丈夫よ。でも魔剣騒動のせいで店が閉まる時間が早くなっちゃってちょっと大変ね」

「それじゃ一般的な方にはあまり被害が出てない?」

「騎士団や冒険者に比べるとそうかもしれないわね」


 それを聞くとまだ一般には魔剣騒動が広まっていないという印象も受ける。

 だが実際には魔剣を手に入れた冒険者が一般人を…………ん?

 俺は1つの事を思い出しておっちゃんに確認する。


「なぁおっちゃん。魔剣被害者ってどれくらいいたっけ?」

「魔剣被害者?ざっと考えても100は越えてるぞ」

「その中に一般人はどれくらい混ざってる」

「一般人?そりゃもちろんいる。被害者のほとんどが魔剣所有者の周辺にいた一般人だからな」

「どれくらい斬られた」

「あ?」

「どれくらいの一般人が魔剣に斬られた」

「………………斬られてねぇ。全然斬られてねぇ!?」


 そう思いだしたことと言うのは魔剣に斬られた一般人の数だ。

 低級の魔剣騒動の場合手当たり次第に周囲の人を斬っていくという感じでただその場で暴れる事の方が多かった。

 しかし今回は一般人に対して全くと言っていいほど被害が出ていない。

 精々魔剣所有者から逃げる際に転んだとか、ドミノ倒しになったとかそのくらい。

 むしろ俺が覚えている被害では近くにいる仲間、冒険者や騎士団への被害が圧倒的に多い気がする。

 その事に気が付いたので俺は記憶力のいいおっちゃんに確認したが、やはり一般人への被害はほぼなかったようだ。


「つまりなんだ、魔剣は斬る相手を選んでいるとでもいう気か?そんなことになっていたら……」

「おそらく上級指定にはされるだろうな。そういう意識があるかどうかだったっけ?」

「そうだ。いわば武器としての本能、殺すという考えだけではなくなったときに上級扱いとされる。殺す以外の作業が出来る魔剣ほど厄介な物はない」

「問題はその目を覚めたばっかりの魔剣が本当にいきなりそれだけの力に目覚めるとは思えない」

「だよな……そうなると協力体制を取っている誰かがいる。それがお前たちの言う通り鍛冶師なのか、それとも誰も想像していない誰かかもしれない」

「だがそうなるとさらに謎は深まる。いったい本物の魔剣はどこに行った、そしてなぜ劣化版の魔剣をばらまく必要がある?」

「さすがにそこまでは分からない。ただ魔剣の力を試すだけならそこら辺にいる一般人を切りつけて殺す方がよっぽど分かりやすい。なぜわざわざ冒険者や騎士と言う戦える連中を狙っているのかも分からない。その辺も改めて調べてみるか」


 大雑把に方針を決めて次は実行するだけ。

 劣化版の魔剣なら俺が握っても何の問題にもならないし、ある程度調べる事もできる。

 これは協定違反を起こして調べてみる価値はありそうだ。


「また悪い顔してやがる」

「ナナシちゃんがああいう顔をしているときは本当に楽しそうね」

「おまえ……ナナシを調子に乗らせるなよ」


 ――


 深夜。

 魔剣捜索中に騎士の1人が魔剣を手にして暴走したのを発見、『強欲』で奪い取って拠点に戻ってきた。


「ただいま」

「お帰りナナシ」

「お帰りなさいませマスター」

「お帰りなさいませナナシ様」

「あ、それ話題の魔剣?ずいぶん貧相な魔剣ね。本当に魔剣なの旦那様?」

「ご主人様おかえりさない……」

「なんかサマエルだけ元気ないけどなんかあった?」

「ご主人様が全く手を出してくれないからです!!性欲がたまった時はなぜかレナちゃんとジラントちゃんばかり!!私にも手を出してください!!」


 サマエルだけ別なところで嘆いているが、レナとジラントって結構うまいんだもん。

 レナは舐めるのが得意だし、ジラントはなぜかテクがある。

 2人とも性欲強いから2人抱けば十分満足なんだよな。

 サマエルはその辺知識しかないみたいだし。


「そんな事より、面白い事見つけたぞ」

「そんな事って言われた……」

「それで何が面白いのナナシ?」

「この劣化版の魔剣、何かと繋がってる」


 ユウの質問に答えるとユウは首をかしげながら続ける。


「繋がってるって……どんな?」

「おそらく本物の魔剣とだ。こいつらはただの劣化版コピーじゃなく、一応の役割はあったみたいだ」

「それってどんな?」

「劣化版魔剣を使った連中の戦闘情報だ」


 俺がそういうとユウは訳が分からないという表情でぼーっとした表情をした。

 ネクストも理解しきれていないようだが300年前からの付き合いのみんなは気が付いたようだ。


「それって『怠惰』に似てませんか?」

「その通りだレナ。おそらくだが本物の魔剣を持っている奴はあえて劣化版の魔剣を作りまくって適当にばら撒いてる。そして手にした冒険者、もしくは騎士を利用して戦闘データを収集、おそらく今回の元凶である魔剣に戦闘データを移しているはずだ」

「でも旦那様。そんなこと簡単にできるの?」

「出来なくはない。でもスキルに頼らない魔法によるものとなれば非常に難しい。劣化版とはいえ一々魔剣にするのも面倒だし、ぶっちゃけ難易度が高すぎる。だからおそらく本物の魔剣の能力も関係しているんじゃないかと思ってる」

「本物の魔剣の能力ですか」

「これはあくまでも仮だが、本物の魔剣の能力は支配系。魔剣よりも劣る剣を魔剣もどきに変化させる、みたいな能力だったら色々説明が付く」

「そう……なの?ナナシ」

「あくまでも仮だけどな。冒険者ギルドや騎士団連中の証言によると手に入れた魔剣の質も作り方もバラバラ、普通に鍛冶師が作れば癖やら作り方などでどの職人が作ったのか大体の予想はつく。だがそれが一切感じられない剣、型に流して作った量産品から騎士団の剣まですべて手にかけている奴なんて存在しない。だから通常の剣を魔剣に変える、みたいな能力ではないかと予想してみたわけだ。そしてこの魔剣から本体と思われる魔剣と繋がっている。つまり俺がこれからする事は――」

「「「そいつの所に強襲をかける、でしょ」」」


 俺の事をよく知っているレン、ジラント、サマエルが合わせて言った。

 その通りだと頷いているとユウとネクストがちょっと仲間外れのように感じたのか落ち込んだ雰囲気を出す。

 それにちょっとだけ苦笑いをしてから俺は言う。


「さて、本物の魔剣がどんなものか。教えに行くぞ極夜」


 そう呼ばれた極夜は楽しそうな雰囲気を出すのだった。

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