魔剣騒動
おばちゃんにネクストの武器を持てもらった帰り、おっちゃんとおっちゃんを呼びに来たドワーフとまた会った。
「おっちゃん。そっちはもう終わった?」
「ナナシ。終わったというよりはこれから始まるってところだな」
「どういうことだ?」
「魔剣騒動だよ。久しぶりに起きやがった」
魔剣騒動。
プレイヤーなら1度は聞いたことがある不定期型クエスト。
どこかの町で行われる魔剣を持った誰かが町で辻斬りを起こすという感じだ。
ただしイベントの難易度はバラバラであり、剣をもってただ手当たり次第騒ぎを起こしたり、恨みを持った人物が手に入れて殺人事件を起こしたり、理由も内容もバラバラなクエスト。
難易度はプレイヤーレベル最低30のイベントであり中堅以上が好ましい。
難易度が高いとプレイヤーレベル60辺りまでいったものもあるらしい。
「魔剣騒動ね。どっかの新人が適当に作った奴か?」
「いや、大体200年前の剣がいつの間にか魔剣になっていたらしい。魔剣になっていたことを知らずに職員を支配して近くにいた職員を殺して逃走、見つかった職員はすでに魔剣は持っておらず行方不明らしい」
「それで魔剣に詳しいおっちゃんが呼ばれたって事か。200年前の誰の作品だ」
「正直に言うと大して名のない鍛冶師が作った剣だ。質は大したことないが180年前の戦争で使われた剣の1本で怨念がたまっていたんだろうさ」
「てことは剣そのものは量産品か」
「ああ。だが怨念が長い時間溜まっていたからかそれなりに強力な魔剣になっている可能性が高い。さすがにナナシが持っている魔剣には劣るがな」
「…………それって冒険者ギルドに依頼として出てるか?」
「もちろんだ。危険度が高い事から国もこれから本腰を入れるつもりのようだし、クエストとして受ける気か」
「もちろん。たまには小銭稼ぎもいいだろう」
と言う訳でこの魔剣騒動に首を突っ込むことにした。
他の魔剣なんてもう全然見てないし、たまには他の魔剣を狩るのもいいだろう。
難易度の割に報酬はデカいから結構いい小遣い稼ぎにもなる。
「それじゃ明日から魔剣騒動に加わりますか」
いったいどんな魔剣なのか楽しみだ。
――
話を聞いてから捜索し始めた魔剣騒動はすでに1週間が経った。
おっちゃんから詳しく聞いた話によるとこんな感じ。
魔剣は片手剣タイプ。
量産型のため装飾などはなし。
鞘と柄が古くなっており結構ボロボロ。
鞘から抜くといや~なオーラが出ているので見れば分かる。
「今回の魔剣騒動はずいぶん楽そうだな」
「すでに5人が殺されたのに?」
「魔剣騒動は暴れる魔剣のレベルによって難易度が大きく変わるんだよ。過去の英雄が使っていた武器が魔剣化すると町1つ簡単に終わらせるし、弱い物だと今回みたいな辻斬り事件で終わりだな」
「人が死んでるんだから楽とか口に出さない方がいいでしょ」
隣にいるユウがそういう。
でも魔剣が使用されているから魔剣騒動と言うクエストにはなっているが、ぶっちゃけただの人斬り事件だ。
報酬も思っていたよりも少ない。
ちなみに今回は分かれて魔剣の情報を探っているので今俺の隣にいるのはユウとネクストだけだ。
レナとサマエル、ジラントとズメイで組んでいる。
「マスター。魔剣はそこまで危険な物ではないのでしょうか?」
「危険の捉え方に違いによるな。大抵の魔剣は使用者を発狂させたり、何らかの精神系状態異常を付与させることが多い。まぁ大抵は拾った相手の精神ぶっ壊して乗っ取るけど」
「十分危険なように感じますが」
「これはあくまでも魔剣の一面だ。他に質にもよるが鉄くらい簡単に切れるし技術もいらない。なんせ魔剣が勝手に身体を操作してくれるわけだしな」
「自分の意志と関係なく動くって怖すぎるけど……」
ネクストだけじゃなくユウも不安そうに言う。
でも実際便利な点もそれなりにある。
極夜も魔剣だが一緒に戦うときは心強い相棒だし、認められれば結構素直だ。
他の魔剣コレクションも俺の事を認めているからおとなしくしているわけだし、使えるだけのレベルではないのに使おうとするのが悪い。
「ま、最終的には魔剣との相性が大切って事だ。俺みたいな罪人みたいなのがな」
「はぁ。悪人なら使いこなせるって訳でもないでしょ」
「マスターほどの力を得なければならないと仮定するなら、ミッション成功は非常に難しいと思われます」
「流石に俺レベルじゃなくていいはずなんだが……そういえば俺以外に魔剣の所有者って全然いないな。やっぱり時代の流れなのかね~」
300年前、つまり俺が普通にこのゲームをプレイしていた頃はたま~に魔剣使いがいた。
どいつもこいつも魔法より剣の方が性に合っているという感じで、魔法の詠唱を唱えられる前にぶった切ればそれでいいんじゃない?っという感じが多かった。
まぁ俺もそんな奴らの1人で魔法と言うよりは長距離攻撃は得意じゃなかったので近距離攻撃に専念していたという方が正しい。
「だがそうなると魔剣はすぐに見つかりそうだな。他の冒険者達や騎士団も探しているみたいだし、あっさり見つかりそうだな」
「あ、それ知ってる。フラグっていうんでしょ?」
「マスターがフラグと思われる発言をキャッチ。周囲を警戒します」
「おいおい。今のがフラグの訳――」
「キャー!!」
どこからか女性の悲鳴が聞こえてきた。
周りは女性の声に反応して逃げ出した中、ユウとネクストは確信したように頷く。
「ナナシがフラグを踏み抜いた」
「マジか……今のがフラグになるんだ……」
軽くショック。
俺今までフラグが立ったことないんだけどな。
「悲鳴は約50メートル先で確認。参りましょうマスター」
「おう」
「そうだね」
こうして逃げる周りとは逆方向に進む俺達。
悲鳴が上がったと思われる場所には片手剣を握った冒険者と思われる男が荒い息のまま周りを見渡している。
その男の足元には血を流している冒険者がいた。
その血を流している冒険者の仲間と思われる連中が魔剣を手にした冒険者を取り囲んでいた。
「そいつが持ってるのが魔剣か?」
「そうみたいだ」
「よし。あの魔剣持ちは半殺しにするか」
「……半殺しってどれくらいだ」
「腕斬りおとす」
「辞めてくれ!あいつも俺達の仲間なんだよ!!」
「……マジ?」
「マジだ!あいつを傷付けるならそこで見ててくれ。俺達のパーティーの問題だ」
なんて言うが足元に転がっている冒険者は出血多量で死にそうだ。
それに他の冒険者たちも仲間という事もあるからかずいぶんやり辛そうにしている。
これじゃこいつらがあの魔剣持ちの奴をどうにかする前に死ぬな。
「どうしますかマスター」
「任せる?」
ネクストとユウが聞いてくるが答えは簡単だ。
つまり気絶させればいいだけだ。
「ネクストは治療の準備しておけ。一撃で終わらせる」
俺はそう言ってから俺はすぐに動く。
仲間と言っていた冒険者は俺の事を止めようとしていたが、その冒険者の目に留まらないスピードで魔剣持ちの前に立ち腹に深い一撃を入れた。
魔剣持ちは息を詰まらせた間に魔剣を鞘にしまった。
男ば倒れてピクピクとしか動かなくなる。
すぐに仲間が駆けつけるが俺が気になったのは男の事よりもこの魔剣についてだ。
「……おい。これどうやって手に入れた」
「それよりこれ大丈夫なんだよな!?」
「腹に重たいの一発いれただけだ。それよりこの魔剣どうやって手に入れた」
「……露店の商人から買ったって聞いてる。今日は魔剣の調査できたのにまさか買ったのが魔剣だなんて思わなかった」
「買うところを他の奴は見たのか」
「見てない。こいつ1人で買ったんだ。帰ってきて自慢してた。安く良い剣が手に入ったって」
「そうか。ネクスト、治療は終わったか」
「ポーションで治せる怪我でしたのですでに処置は終わっています」
「ならこいつらと一緒に冒険者ギルドに行くぞ。思っていたよりも難易度が高いクエストかもしれねぇ」
「ナナシ?」
不安そうにユウが言ったが、俺の予想通りなら結構面倒な事になっているかもしれない。
俺はこの冒険者達と共に冒険者ギルドに向かうのだった。




