閑話 ポラリス上層部2
「今回は『隠者』からの招集でしたが、どのような報告でしょう」
『下らぬ事だったらお前の元に特攻してやる。ただでさえ塔から脱獄した者達を捕まえるのに忙しいのだからな!』
『あの隠者が自ら発信したのだ、ただ事ではあるまい』
『『大罪人』と思われる男を発見しました』
「何ですって!?」
『それは本当か!!』
『はい。エジックにて奴隷を品定めした男がおります。その男が現れた次の日、捕らえたエルフ共が消えておりました。そして例の白猫も』
『今その男がどこにいるのか判明しているのか!!』
『大量のエルフの奴隷を連れていたことから予想される行先はおそらくエルフの国かと』
『ならば今すぐエルフの国に攻め込みましょう!!あの『大罪人』を殺すことは急務です!!』
「『戦車』。今は逃亡した罪人たちの捕縛を優先しなさい」
『なぜですか『法王』!!』
「現在ポラリスは逃げた罪人達からの被害が大きくなりつつあります。早い内に摘み取ってください。時間をかければかけるほど国民達は不安と不満を抱くようになるでしょう。塔の修繕はどうなっていますか?」
『囚人達の牢をさらに強化したうえでより強靭な塔を建設中です。進捗は全体の8割が完成、未完成なのは武器庫と私の部屋だけです』
「きちんとお休みになられてますか?」
『休んでいますよ『法王』。お気遣い感謝いたします』
「では『戦車』はこれまで通り逃げた罪人達の捕縛を優先するように」
『くっ。承知しました』
「話を戻しますが、『隠者』の手足は彼を追っていないのですか?」
『追っておりますがエルフの国周辺は特殊な結界により濃霧によって近付くことすらできません。それを突破できるとすればそれこそ『大罪人』だけかと』
「『法王』様。これはやはりご報告通りかと」
「そうかもしれませんね。『魔術師』はあの結界を突破する魔法はありませんか?」
『残念ながらある程度は中和できますが、あの結界は多重構造です。すべて分析し、突破できるようになるにはもうしばらくかかると思います』
「分かりました。では『魔術師』はいつもの業務を行ってください」
『は』
『ふん。相変わらず『魔術師』殿は研究か。部屋で作業を行うものは楽でいい物だ』
『そんな事を言うのであれば『戦車』殿、あなたが私の代わりに禁呪に触れる研究を行えるのですか?魔法が不得意なあなたには一生かかっても研究の一端も理解できないと思いますが』
『貴様の研究に興味などろくにない。私の誉れは戦車で戦場を駆け抜け、1つでも多くの武勲を重ねる事。研究によって得るものなど興味ない』
『ならばあまり余計な事は言わないでいただきたい。最近はあまり進展がなくて頭を痛めているんです。何が原因なのか調べていますが中々特定できないのですよ』
『分かった分かった。それにしても『女帝』よ。あの者はどうなった?聖女は戦えるようになったか』
「申し訳ありませんが彼女はまだ完全に戦える状態にはなっておりません。肉体的な物より精神的な傷が大きく、今は聖女として懺悔などを聞いて人々の悩みを癒しております」
『……それほどまでに酷い物だったのか?聖女も何度か我と共に戦場を駆け抜けたこともあったと言うのに』
「かなり酷い物だったようです。発見した当時は発狂し、ろくに話をすることすらできませんでした。話が出来る状態になっても恐怖から部屋の隅で怯え、周囲の者すべてが『大罪人』に見えるようです」
『それはさすがに大げさではないか?『大罪人』は男なのだろ?『隠者』の報告でもそう言っているではないか』
「あまり信じたくない事ですが……『大罪人』は伝説の通り他の者に化けるスキルを所有しているようです」
『化けるとは見た目だけの話ですか?』
『おい『魔術師』、口をはさむな』
『しかしこれがスキルによるものなのか、はたまた魔法による幻術なのか、はっきりさせなくては対策のしようがありません。ただの幻術なら魔法である程度補強できそうですが』
「聖女の言葉からはスキルである可能性が高いそうです。突然自分そっくりの姿になり、その後元の姿になってから消えたと」
『もしその話が本当なら対策は取り辛いかと。魔法ならともかくスキルの力はスキルの力で対抗するしかありません。看破系のスキルがあればできるかもしれませんが……』
『なるほど。つまり『大罪人』は様々な者に姿を変える故に周囲の者達を恐れていたと』
『仮に本当に誰にでも姿を変える事が出来るのであれば職員にも気を付けるようにしよう。どこから情報が洩れるか分からない』
『……厄介だな』
「どうしますか?『法王』様」
「……次の会議で合言葉でも決めましょうか?もしくは新しく隠語を作るなどをして対策を作りましょう」
『現状ではそれしかありませんな』
『無難な策だが……あまり難しい暗号にしないでくれよ』
『『戦車』にも分かる暗号にしましょう』
「ところで『隠者』、『白猫』は結局どうだったんですか」
『どうとは』
「あれは獣人のようで獣人ではなかったのでしょ。結局あれの正体は何だったのですか」
『不明です』
「不明?」
『確かにあれが獣人でないことは間違いありません。しかし魔物なのかと聞かれると魔物をはるかに上回る知能と知性を有していたように感じます』
「そのような存在を『大罪人』に奪われたのですか!?」
『不安定故に心配するのはごもっともですが、問題ないかと』
「なぜそう言えるのです」
『単純にあれはやる気がない。行ってしまえばいつでも逃げようと思えば逃げられる状況であるにもかかわらず、逃げようとしなかった。それはおそらく『大罪人』の元に行っても変わらない』
「……つまり『白猫』は何かをする様子は一切ないと」
『そう見て間違いないかと』
「ですが『白猫』が何をするのか分からない以上見つけ次第監視してください」
『承知しました』




