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ネクストの成長

 ネクストが生まれてから早くも1ヶ月が経った。

 やはりクローンだからか見た目に対して常識がないと言うか、子供のような行動をするが俺はそれを面白く感じている。

 ネクストのスキルを早く進化させるために遊び感覚でスキルのレベル上げたり、魔法に関して勉強を教えたりしている。


 クローンだからなのかどうか分からないが知識に関しては成長が非常に速い。

 子供のような行動は1週間くらいで終わり、周囲から学んだ常識を元に自我が芽生え、言葉に関してはちゃんと発声することがもうすでにできている。

 たどたどしい言葉使いはもうしていないが、ちょっと寂しい。

 それに俺や周りの人物のレベルが高いせいかレベル上げに関してもかなり積極的だ。

 今はこのエルフの国周辺にいる雑魚モンスターたちを相手にして武器系のスキルレベルを上げたり、エルフの戦士達に武器の扱い方や戦い方を学んでいる。


「……なんか……早々に教えてやれることが減っちゃったな……」

「そうだね……私も妹みたいに思ってたのに、レベル以外はもうすでに抜かされちゃった気分」


 俺の隣で膝を抱えて体育座りしているのはユウだ。

 最初こそユウはネクストの前でお姉ちゃんぶっていたのだが、すぐに教えられることがなくなった。

 どうもユウは正当な騎士の剣、つまり型のある剣の動きが得意としているがネクストの肌には合わなかった。

 ネクストの剣は型のない冒険者の剣、もっと簡単に言うととにかく生き残ればいい、勝てばそれでいいと言う感じの剣の掴型何で知ったこっちゃないという動きをするのでユウが教えられることは本当に基礎の基礎だけだったのである。

 弓の扱いに関してもエルフの戦士が教えているし、ぶっちゃけ教えられるのは魔法に関する知識くらいしかない。


 ついでにネクストをクローンエルフであることを隠す設定は、長い事人間の国で囚われていた。

 両親はすでに死亡しており引き取り手がいないので俺が引き取る事にした。っという設定で俺の元にいる。

 そのため戦い方も分からずレベルが1のままという事にしておいた。


 大分荒い設定だがないよりはマシ。

 レベル1なのにどうやってスキルを手に入れたんだーっと言われたら本人が元々持っていた才能、もしくは俺がそれを使えるように練習させたいからと言えば済む。

 武器系のスキルは後天的に取得できるスキルの代表格だし、どんなスキルを持っているか調べるには奴隷にして無理やり情報を引き出すか、ユウの持つ『知識』でしか調べる事が出来ない。

 俺の持つ『嫉妬』でもできなくはないが大罪スキル持ちがそこら辺にいるとも思えない。


「それにしても本当に成長が早いな。見た目通りの発言をしてる。まだ疑問が多いと言うか、分からないことは多いらしいが」

「元々すぐに成長するように設定はされてたみたいだよ。ちょっと気に入らないけど」


 ユウはまだクローン反対派だ。

 まぁ道具のように扱っているから、と言うのが理由でごもっともだが、俺はその施設のおかげで蘇生薬を開発することもできたのだからお得だったという感覚の方が大きい。

 それに長老会に聞いてみたところクローンエルフの製造はそんなにちょくちょく適当な森に放っているわけではないそうだ。

 そりゃ裏で奴隷商と取引しているのではなく、ただの疑似餌としてばら撒いているだけなのだから1円の特にもならない。

 この先は縮小していき、そうしたらこのクローン生産所は閉鎖すると言う。

 その辺に関しては一切口出しする必要がないので好きにしろとしか言えないけど。


「それにして……残りの大罪スキル所持者はどこにいるんだろうな……『嫉妬』も『怠惰』も見つけるの大変そうだ」

「ところで見つけたらどうするの?もしかしたら持ってないかもしれないし」

「見つけたら?殺すか隷属させるかだな。ただ特定のクエストで手に入るものじゃないから探すのが本当に面倒くさい」

「そんなに難しいの?」

「ああ。『嫉妬』の方はご存じの通り性別だけじゃなく知っていればどの人間でも亜人にもなれる。『怠惰』の方はぶっちゃけ家から一歩も出ずに奴隷に任せておけば大丈夫。片方は本当の顔も分からない、もう片方は動かなくていい。どう探し出したもんだか……」

「でも今奴隷をいっぱい持っている人を探してもらってるんでしょ?『暴食』のお父さんに」

「だが人間社会で奴隷なんざ当たり前のようにいる。さすがにこの前行ったエジックほどではないが性処理にエルフ、傭兵代わりに獣人、なんてよくある事だ。被害が少なそうなのは……ドワーフと人魚達か?」

「人魚ってどんな感じの人達なの?そして何で奴隷にされにくいの?」

「理由はいくつかあるが……1番の理由は海でしか生きられない事だろうな」

「海?」

「人魚達は海に生きてる種族だからな。海から離れると生きて行けない。食べている物も海にいる魚と貝が中心。仮に奴隷として捕まえたとしても内陸に持って行ったところで殺すだけ、それに島の人間と人魚達は仲がいい。だからこの大陸にいる人間のように人魚を奴隷にしようなんて考えの人間はほとんどいないんだよ」

「ほとんどって事はやっぱりいるの?」

「当然いる。でも内陸の人間から見れば人魚も獣人みたいにゲテモノ扱いされるぞ。『お前は魚を犯すのか』ってな」

「そんなに見た目変なの?」

「頭から背中くらいまではな。下半身が魚みたいって言われてる。実際のところは海獣みたいな感じなんだけど」

「かいじゅう?」

「海にいる獣だ。アシカ、アザラシ、イルカ……って言っても内陸にいる間は分からないか。今度行ってみるか。どうせ他の大罪スキル持ちを見つけられるとも思えないし」


 そういえば最近刺身食ってねぇな……

 刺身と言ったら馬刺しにレバ刺し、肉の刺身ばっかりだ。

 たまには海の物食いたい。


「よし決めた。海に行こう。海行って魚食おう」

「簡単に決めるね……でも海は見てみたい」

「よし。なら次はドワーフの国を通りながら人魚達の国に行こう」

「ドワーフの国ってどんな国?」

「エルフの国とは違って色々と自分達で作ったものばっかりだな。別名黒鉄の国、ずっと剣や槍を作っている事から音のやまない国なんて言われる事もある。今じゃ包丁とか鍋とかも作ってるのかな?」

「武器だけじゃダメなの?」

「日常品だってほしいと思う人は多いからな。それにドワーフたちが作った鉄製品は質がいい。だから行商人が買い付けて遠くで売る事もある。同時に冒険者たちもドワーフが作った武器を求めてやってくる。ただ自然が少ないからその辺は物足りないかも」

「へ~。私も新しい武器買いそろえた方がいいかな?」

「その辺は好きにしろ。金は出す」

「マスター。訓練が終わりました」


 なんて話しているとネクストが汗を拭きながら戻ってきた。

 ネクストは最近俺の事をマスターと呼ぶようになった。

 好きに呼べと言ったらこれが気に入ったらしい。


「お疲れさん。それじゃ次はどうしようか?」

「スキルの使い方についてご指導いただけると幸いです」

「了解。ただ……やっぱり固くない?」

「固い、とは」

「言い方と言うか表情と言うか……もう少し気楽にと言うか……」

「申し訳ありません。まだこう言った際どの様な表情をすればいいのか分かっておりません」

「それは……うん。ちょっとずつ覚えて行こうか」


 なんというかネクストは表情が乏しい。

 常に同じ顔と言うか、全く表情が変わらない。

 口調も常に一定だし、ロボットでも相手にしているような感じだ。


「そんじゃ次は……日陰者のスキルを上げるか。白猫相手にどこまで気付かれずに近づけるかやってみよう」


 絶賛日向ぼっこ兼昼寝中の白猫を指さしながら言う。

 白猫は俺達の中でもかなり警戒心が強い。

 ぶっちゃけると俺達の中で1番警戒心が強いんじゃないだろうか?

 俺達も常に警戒していると言うか、索敵系スキルを常に使って状況を確認している。

 でも高レベルである俺達は多少の事では最強だから問題ないと判断している。

 だが白猫はそんなことに関係なく少しでも嫌な気配を感じるとすぐ逃げる。

 気が付けばどこかに散歩しに行って飯の時には帰ってきたり、気が付けば1日中ベッドの上でゴロゴロしている自由気ままっぷりだ。

 そんな寝ているときに白猫はちょっと用事があって近付くとすぐに目が覚める。

 なので白猫を起こさずに近付くのは結構難しい事なのだ。


「はい。必ずミッションをこなして見せます」

「そんな気合い入れてやる事でもないんだけどな……」


 ぶっちゃけ『日陰者』のスキルを使いこなすのはただ単に気付かれないようにするだけでいいのだ。

 もちろん上位スキルにするためにはそれなりに使いこなす必要があるが、そこまで気合を入れる必要があるかと聞かれるとそうでもない。

 だがネクストが白猫に1歩近付いただけですぐに顔を上げ、何か用?っという感じに首を傾けた。


「……ミッション失敗です、マスター」

「あ~うん。思っていた以上に難易度高かったみたいだ」


 ネクストのレベルが20を超えたらドワーフの国に行こうかな。

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