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蘇生薬の実験

 長老会との交渉によりクローンエルフ1体を手に入れた。

 一応購入と言う形にはなっているが、捕らえられていたエルフ達の救出によるお礼という事で正確にはもらった。

 ただし他言厳禁という事だがこれは当然だろう。

 とにかく俺はクローンエルフを1体手に入れたので好きに魔改造してからこの世に誕生させるとしよう。


「さてさて~、どんな風にいじっちゃおうかな~。とりあえず見た目は特に興味ないからそのままで……魔力量の向上と身体能力の強化は基本だろ。見た目はエルフの形を保ちたいからな無理のない範囲で……」


 こんな調子で研究所でしばらく過ごした。

 やっぱり自分好みに好きなキャラクターを作れるっていうのはゲーマーのちょっとした腕の見せ所だと思うわけよ。

 それにある程度の基礎スキルはこの段階でもすでに付与する事が出来る。

 これも『色欲』による恩恵であり、俺が知っているスキルな付与する事が出来る。

 ただ他の普通のクローンエルフ達はスキルは一切ないらしいので、これは本当に『色欲』による恩恵なのかもしれない。


 ま、他にも『色欲』で実験してみたが有機物無機物関係なく形状からスキルまで、いろいろ自由に変更したりぐちゃぐちゃにすることも可能だから何気に恐ろしいスキルだったりする。

 例えば触れた相手の手足の形を変えたり、もっとめちゃくちゃに適当に作れば子供が粘土で作ったよく分からない動く何かに変える事もできる。

 生物を自在に変える、そして本来であれば1度きりの人生を繰り返す事が出来る。

 これが『色欲』の最大の使用方法だ。


 さて、いい加減このクローンエルフに関してだがメイキング方法は大体定まった。

 『嫉妬』や『強欲』で様々なスキルを知っておいてよかった。

 とりあえず方向は回復系の暗殺スキルだ。


 回復はよく考えてみるとユウもできるがどちらかと言うとバランス向きで回復に特化しているとは言えない。

 かといって本当に回復だけに力を注ぐのもあまり好きではない。

 なので俺達に居はいないタイプ、暗殺系にスキルを振ってみたというわけだ。


 で、出来たエルフがこちら。


 『名前  ―――― Lv1

 スキル 日陰者 消音 詠唱省略 状態異常無効 アイテム効果上昇

  回復効果上昇 清い手 短剣使い 弓使い 魔力 念話』


 まだ名前もないがこんな感じだ。

 スキルを覚えるのに制限はないが、生まれる前だと10種類が限界だったらしい。

 それから俺達が持っている最上位のスキルは状態異常無効しかつける事が出来なかった。

 どうやらクローンに最初からつける事が出来るスキル制限が存在する事は分かってよかったと思う。


 そしてスキルの説明だが、読んでそのまんまのスキルは飛ばさせてもらう。

 日陰者と言うスキルは相手から認識されにくくなる、気付かれにくくなるという中の下くらいのスキル。

 もう少し強い『暗殺者』や『忍者』と言うスキルを付けたかったが、制限に引っかかった……

 ちなみに『暗殺者』は対人特化と言う感じで人に気付かれなくなるが動物や精霊と言った存在には効果が薄い。

 『忍者』は純粋に『日陰者』の強化スキル。人だけではなく動物や精霊からも気付かれにくくなる。

 だがデメリットとして仲間からも気付かれにくくなるという無差別に発動するスキルだ。


 『消音』は足音や話し声を消すスキル。

 これはまぁ隠密行動を補助する感じのスキルであり、特に強いスキルと言うわけではない。


 『清い手』は回復系スキル。回復と言うよりも状態異常を治すためのスキルだ。

 俺達はほぼ回復や状態異常からの回復を必要としていないがやっぱ回復系はね、そういうスキルが必要だと思うわけですよ。


 おそらく説明が必要なスキルはこんなものだろう。

 とりあえずこの子がどんなふうになるのかは今後のお楽しみという事でいいだろう。


 ついでにだが見た目に関しては全くいじっていない。

 下手にいじると整形したように……と言うかその通りなのであんまりいじらない。

 前に自分の顔でやってみたがアニメっぽい顔と言うか、どこか現実的ではないと言うか、こいつ顔いじってんなっていう雰囲気があると言うか、とにかく不自然な顔にしかならない。

 だからそのままにしている。


 そしてそのクローンエルフを起動する今日、俺達の他に研究所のエルフ達も様子を見に来ていた。

 あくまでもクローンエルフ達は疑似餌として用意しているだけなので、俺のようにこだわって製作することはない。

 なのでこだわって作られたクローンエルフはどんな感じなのか、見てみたいらしい。


 そんなわけでスキルを付けるだけで完了したクローンエルフ。

 機材から取り出すとクローンエルフは自然と目を開け、びしょ濡れのまま俺達の前で立ち上がり、頭を下げた。


「はじ……め、して。わたし、エ……ルフ」

「へ~。ホムンクルスってこんな感じなのか。まだ身体を動かすのに慣れてないって感じだな」

「どのホムンクルスも似たような感じです。必要最低限の知識は事前に詰め込んでいますが、精々こちらの言葉を理解して、身体を動かす事が出来る事だけです。主様が調整してもその辺りは変わらないのはちょっと意外でしたが」

「そう?立って話せるだけで上等だと思うが」


 赤ん坊と変わらないと思えばいきなり立ち上がって話が出来るのだから十分だと思う。

 とりあえずタオルを取り出して頭と身体を拭いていく。

 クローンエルフは……


「こうして生まれてきたわけだし名前決めるか。名前は……ネクストでいいか」


 直感だけで適当に決めた。

 これでこのクローンエルフの名前はネクストとなった。


「…………ネク、スト。な、まえ」

「そうだ。お前の名前だ」


 俺がそういうとネクストは何度も自分の名前を覚えるように繰り返して呟く。

 ユウの時と少し似てる気がするな~っと思っているとユウは俺の顔を覗き込む。


「ナナシってなんでそんな簡単に名前が決められるの?もうちょっと考えるものなんじゃない?」

「俺はこういうの勘で決めてるんだよ。そんなに変な名前でもないだろ?」

「まぁ確かに。でもそれなら私の名前ももうちょっとかっこいいのがよかったな~」


 そんな事を言いながらいじけるような言い方をする。

 わざとなのは丸見えだが、もっとかっこいい方がよかったか?


「それじゃ名前変える?」

「それはヤダ。私はユウだもん」

「なら冗談でもそんな事を言うな。さて、このまま蘇生実験に移るけどいいか?」


 俺がそう確認を取るとみんな頷いた。


「それで汚してもいい場所は……」

「この奥に実験室があるのでそこでしましょう」


 サマエルがそういってくれたのでそこを使う。

 見た目に関しては本当に何もない真っ白な無菌室のようなところ。

 そこに俺とネクストが入り蘇生薬の実験を行う。

 この無菌室みたいなところは特殊な部屋であり、ユウの『正義』によって発生させる結界よりは精度は落ちるがある程度はアイテムやスキルなどの魔法効果を遮断する事が出来る。

 と言っても内側にいる俺達にはお互いに影響を与える事が出来るので本来であれば1人だけが入る部屋だが。


 部屋の機能はここまでにして、現在作った蘇生薬は2つ。お互いに1つずつもっている状態である。

 この状態で片方が死ぬことで蘇生薬がどのような効果を示すのか、確認する事が出来る。


「そっちで観測は出来てるか?」

『できています。いつでも初めてどうぞ』


 サマエルの声がスピーカーから聞こえてくる。

 俺はネクストを前に確認を取る。


「準備はいいか、ネクスト」

「……は、い」

「そんじゃ初めてみようか」


 俺はそういった後極夜で俺の心臓を刺した。


『…………え』


 そのまま極夜を引っこ抜き、『色欲』で止血することなく胸から血をだらだらと垂れ流す。

 それに驚いたのは他のメンバーだ。


『ナナシ!?何してるの!!』

「いや、やっぱ思ったんだけど自分で実験する方が色々得かなって。死ぬのは2回目だが自分で蘇生薬を使用する状況がどんなものか確認するには、やっぱり自分で死んだ方が分かりやすいかなって」

『そういったことはあらかじめ言っておいてください!!』

「いったら絶対許してもらえないじゃん」

『当たり前です!!ナナシ様が命を張るのならこの老体が!!』

『そのためにネクストを買ったんでしょ旦那様!?それならズメイでもよかったじゃない!!』

『お嬢様!?』


 何やら外でがやがやと言っているが今大切なのはこの実験を成功させることだ。

 だらネクストにちゃんと言う。


「ネクスト、もしこの蘇生薬が他人手で行われることが最低条件だった場合、お前がすぐに起動させろ。俺だってみんなとこんな形でサヨナラバイバイは嫌だからな」


 その言葉にネクストは何度も頷く。

 さて、そろそろHPがなくなるが、どうなるのかな?

 HPの状態を確認しながら0になるのを待つと、0になった。

 目の前が突然真っ暗になり、どうなったのかと確認する前に目の前に文字が表示された。


『蘇生薬を使用しますか?YES/NO』


 あ、この辺はゲームと変わらないのか。

 俺はYESを選択するとすぐに元の世界に戻ってきた。

 目の前にはネクストの顔がある。

 どうやらネクストに背中を支えられながら顔を覗き込まれていたようだ。


「だい……じょう、ぶ。です、か」

「ああ大丈夫だ。それより俺の状態は……」


 HPは1の状態で蘇生に成功したようだ。

 他は……変化なし。

 MPが減っている状態でもないし、スキルや称号が減っている事もない。

 傷に関してはふさがっている。服にも目立った損傷はない。

 服のダメージもなくなるってやっぱりファンタジー。


「ネクスト、外から見て俺はどれくらい死んでた」

「すぐ、おきた。でも、われ、た」


 ネクストの掌の中には割れて色を失った蘇生薬があった。

 割れた蘇生薬はガラスの破片のようになっており、外で使用してもただの割れたガラスの破片と思われるかもしれない。


「これは俺が持っていたほうか」

「は、い」

「なるほどな。これで実験はしゅう――」

「ナナシー!!」

「ナナシ様っ!!」

「旦那様!!」

「主様ー!!」

「ぬおっ!」


 突然とびかかってきた。

 まぁ俺を心配してくれてなのは分かるが、せっかくの綺麗な顔がもったいない。

 涙で目は真っ赤だし、ユウは鼻水まで出ている。

 そんなみんなの事を抱きしめながら謝る。


「突然実験の内容を変えて悪かったって。だからそこまで泣くな。HPなくなる」

「だっで!だっで~!!」

「本当に死ぬ馬鹿がどこにいますか!!そのためのホムンクルスでしょう!!」

「っ!!」

「それならせめて私を実験台にしてください!!主様は……主様は自身の価値を分かってらっしゃらない……」

「あ~分かった分かった。謝るから飯食わせてくれ。マジで腹減った」


 HPは『暴食』を起動させながら食事をすれば回復するから飯を食いたい。

 そう思いながら実験室を出ると、そこにはズメイが泣きながら倒れていた。


「おい。なんだこの状況?」

「これはね、ジラントがズメイの事を代わりにって言ったときに泣きながらいじけちゃって」

「あ~、あのセリフの後か」


 確かにスピーカーからそんな感じの会話があった気がする。


「そのままぶっ倒れているのも邪魔だからジラント、お前が運べよ」

「まぁ……仕方ないか」


 こうして蘇生薬の実験とネクストは誕生したのである。

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