手土産を持っていく
深夜3時、誰もが寝静まったであろう時間帯に俺達は動く。
町の方に他にも拉致られたエルフはいないのかレナに聞いたがもう匂いでは判別できないとのこと。
300年の間に相当繁殖させたようで純粋なエルフは少ないのではないかと予想している。
元々寿命が長い分子供ができにくい種族でもあるから自然な事だと言ってしまえばそれまでだ。
それにあくまでも今回は手土産、他にも拉致られたエルフがいたとしてもそれは自分たちで頑張ってもらおう。
それでは作戦開始。
と言っても奴隷商内の奴隷達を『強欲』でこっちに移動させるだけだけど。
これを本当に作戦と言っていいのかどうか判断に迷うがとにかく奴隷達を俺の物として奪い続ける。
奴隷達は突然森の中に自分たちが移動していたことに驚いていたが説明はレナに任せる。
珍しい拉致された獣人に関してはレナの事を知っている者がおり、獣人の奴隷達もエルフ達の説得に協力してくれたので非常に助かった。
さて、ちゃっちゃか奴隷を拉致し返すと最後に1匹だけ気になるのがいる。
例の白猫だ。
あいつ明らかに獣人じゃないしあのまま放っておいてもいいが、便利なペットは1匹でも多いと助かる。
よく分からないがあの白猫俺に媚び売ってたしな。
そんな感じで関係のない白猫をついでに奪う。
白猫は突然外に出てきたことに驚いていたが、俺の姿を見つけるとゴロゴロと喉を鳴らしながら転がって腹を見せながら媚を売る。
そんな姿の白猫にレナはジト目で見ていたが、白猫は気にしない。
「そんじゃ面倒だから転移連発行くぞ。酔う奴がいたら素直に報告」
それだけ言って全員まとめて転移を繰り返すのだった。
――
転移を繰り返しながらエルフの国に到着。
一部のエルフ達が軽く酔っていたがまぁ大丈夫だろう。
白猫の方は突然景色が変わるのが怖かったのか、本当の子猫のような姿になって俺の足元で小さくなって震えていた。
そんなに怖いね?
そう思いながら白猫を抱きかかえていると上から声が聞こえた。
「貴様!何者だ!!」
声をかけてきたのは砦の上にいるエルフだった。
弓を構えたエルフの戦士達が俺に向かっていたので俺は大声で答える。
「俺は大罪人のナナシ!入国を許可願いたい!」
「大罪人はとうの昔に死んだ!本人なわけないだろう!!」
「だが手土産はある!これを受け取ってほしい!!」
そういって後ろにいたエルフ達を指さした。
「少し待っていろ!」
そのあと門の奥からエルフの戦士達がやってきて奴隷になっていたエルフ達を保護しに来る。
その間お堅いエルフ達の許可は何時間かかるかな~なんてのんきに考えていると、1人のエルフが俺の前に来た。
「…………」
「何だよ?」
何も言わずにただじっと俺の事だけを見るエルフの戦士。
しばらくじっと見ていたかと思うと他のエルフの戦士たちと共に砦の向こうに戻っていった。
エルフの国は長老会と言われる500歳近いエルフの爺さんばあさん達がさまざまな事を相談しながら決める。
今回もおそらくそこまでいくだろうから明日までに返事がくればいい方かな~。
「ナナシ様。返事はすぐに来ると思いますよ」
なんて考えているとレナがそういった。
「なんで分かる?」
「私とトカゲがいるからです。これでも一応獣人の国とドラゴンの国の女王と姫ですから。それにジラントが早く伝え、決めるように威圧していましたから」
「なるほど~。武力行使は出来るだけ最終手段にしたいんだが?」
「武力ではありません。ただのお話です」
「まぁね」
とりあえずしばらくは待機だな。
白猫をしばらくかまってやると元の姿に戻り、適当に作った猫じゃらしでじゃれ始める。
行動は完全に子供だな。
見た目通り幼いという事でいいんだろうか?
おそらくこの白猫はトラップ系のモンスターだと思われる。
トラップ系モンスターとは特定のクエストに導くモンスターだったり、そのきっかけとなるモンスターの事だ。
なぜトラップ系と言われているかと言うと、難易度の高いクエストであることが多いからだ。
前情報が一切ない状態での強敵の出現が非常に多いのでトラップ系と言われるようになった。
せめてもの恩情と言えばいつそのクエストを開始するかはプレイヤー側が自由にできる事くらい。
大抵はプレイヤーがやろうと思ったときにその強敵の所に連れて行ってくれる。ちなみにクエストをしようとするまではただ後ろをちょろちょろ付いて来るだけで戦闘には一切参加しない。
戦闘となるといつの間にか消えていて、戦闘が終わると現れる。
そんな存在だ。
だからおそらくこの白猫もそんなトラップ系モンスターだと思うが……確証はないんだよな……
何せ俺が奴隷商から連れてきた後どこかに連れて行こうとはしない。どこかに一緒についてきてほしいという事もない。
簡単に言ってしまえば俺が奴隷商から奪い取っただけのモンスター。
そのモンスターは現在適当に作った猫じゃらしに興奮して遊んでいる。
「なぁお前はどこの誰なんだ?」
俺が白猫に向かって聞くと白猫はただ首をかしげるだけだ。
ただ近くにいるレナはオオカミの姿になって俺の膝の上に座る。
どうやらイヌ科として猫に対して対抗心があるらしい。
だが白猫は気にした様子は全くなく、むしろ遊んでくれと軽い猫パンチで構え~っという感じだ。
そんな風に1時間ほど時間を潰していると砦がまた開いた。
10人ほどのエルフの戦士達が現れ隊長っぽい人が言う。
「許可が下りた。しかしまずは長老様に会ってもらう」
「あいよ~」
この流れは前にもあったな。
俺が初めて手土産を用意してこの国に入った時も長老の1人に会った。
で、そこでエルフ達に何もしないことを約束させられたな……
今回もおそらく似たようなものだろう。
そう思いながら俺達は砦の向こう、エルフの国に入った。
白猫だけはもう遊びはおしまい?っと不満そうな表情をしていたが。
エルフの国は木々が豊富なので木製の家が非常に多い。
そのため昔からある日本の平屋のような建造物が多く、個人的に見るとホッとする。
ユウは完全木製の家を見るのか珍しそうに家とエルフを見続ける。
「やっぱり珍しいか」
「うん。エルフを見るのも初めてだし、木でできた家を見るのも初めて」
「この辺りは木材の資源が豊富だからな。長老会がいる場所はずっと前に死んだ古い大木を加工したものらしいし」
「木をそのまま家にしたの?なんか鳥みたい」
「個人的には洞を住処にするリスとかそんな動物みたいなイメージだったけどな」
へ~っとユウは言いながらまた辺りを見渡す。
本当にエルフの国が珍しいんだな。
ちなみにエルフ側は俺達の事を歓迎していない。
これは当然の事であり、当たり前だ。
エルフ達から見れば同族を連れ去るただの悪人にしか見えないのだろう。
俺は悪人だから別に構わないがユウをそんな目で見られるのは気に入らない。
そしてレナとジラントに関してはなんであの2人が?と戸惑うような雰囲気がある。
エルフは人間とはなじめないが同じ奴隷目的で拉致られた獣人と同盟を組んでいるし、ドラゴン達ともうまくやっている。
300年前と変わらないのであれば仲が悪いのは人間とドワーフだけ。
人間は説明した通りで、ドワーフに関してはただの思考や文化の違いであいつら嫌いだっと言っているだけなので大した事ない。
そして俺達は長老がいるであろう場所に転移する転移門の前に来た。
転移門とは俺が使用している転移の設置型魔法であり、特定の場所と場所しかつなげる事が出来ない転移魔法の中では下の方の魔法だ。
だがこれはあくまでも転移魔法の中では、なので普通に見れば非常に高度な魔法に位置する。
転移魔法そのものが難しいと言われているのだから当然だし、俺だって転移魔法は『傲慢』を手に入れるまでは全く使えなかったのだから本当にチートだ。
そして転移魔法の中では最も現実的な魔法と言える。
俺のように好きなところに移動するのは難しいが、1度固定した座標に移動するくらいならまぁ何とか?って感じの技術になる。
その転移門で転移した先は、かなり意外だった。
それはエルフの長老達全員がそろう長老会の会場だったからだ。
500年近い年月を生きるエルフの中でも非常に年を取ったエルフ達。彼らが護衛付きとはいえ全員で俺達を出迎えるとは思ってもみなかった。
そんな長老会の1人が俺に向かって言う。
「お久しぶりです、大罪人殿。私の事をお覚えでしょうか」
「いや、長老会に在籍するエルフの知り合いはいないぞ」
俺がそう答えるとその老人エルフは笑いながら言った。
「それはそうでしょうな。当時の私はまだ100歳程度でしたから。300年前、あなたに私の姉を助けていただいたエルフの1人、とでも言いましょうか」
なるほど、当時のエルフが長老会のメンバーになっていたのか。
やはりエルフの中でも300年とは長い時間だったようだ。
「それじゃ俺達がこのエルフの国にいるのは許可してくれるのか?」
「長老会で話し合いましたが許可が下りました。あなたは300年前の大罪人その人、故にあなたの人間の奴隷にも許可を与えます」
「そりゃよかった」
「しかしながら……この国に訪問した理由をお聞かせ願いたい」
なるほど。それは当然の質問だな。
「俺がこの国に来た理由は2つある」
2つと言うところに引っかかるユウ達。
それを無視して続ける。
「1つはサマエルがこの国に居ると聞いてきた。あいつに会いたい」
「なるほど。それは構いませんが、彼が行っている事に関しては目をつむっていただきたい」
「なんかしてんのかあいつ。まぁそれに関しては内容を確認してからだ。で2つ目はこいつにエルフの国を見せてみたかった。以上だ」
こいつと言いながら俺はユウの頭に手を置く。
他のみんなはえ、そんな考えあったの?と言う表情がよく出ている。
そして長老エルフは不思議そうに言う。
「なぜその少女に我が国を見せたいと思ったのですか?」
「なんとなくだ」
「なんとなく、ですか」
「ああ。こいつは昔から、俺と会う前から奴隷としてあっちこっち転々としていたみたいだからな。世界と言うものを全然知らない。だから見せてみたいと思った。この世界を。ならその世界の1つであるエルフの国だって見せておかないとおかしいだろ?」
俺がそんなことを普通に言うと老人エルフは頷きながら言った。
「そういうことでしたらどうぞご覧ください。サマエル殿にはこちらから連絡します。彼はすぐ大罪人殿に会いたがるでしょう」
「あ~うん。だろうね」
あいつ本当にヤンデレだからな……
会ったら二度と離れない気がする。
「それでサマエルはどこにいるんだ」
「研究所です。そこでサマエル殿に実験の協力を依頼しております」
「分かった。それじゃその研究所に行くよ」
「案内人を付けましょう。すぐに参られますか?」
「ああ。すぐに行く」
こうして俺達はエルフの国に滞在する許可、そしてサマエルがいるところを知る事が出来たのだった。




