次はエルフの国
風呂上がりに飯を食い二度寝をした後ようやく俺は復活できた。
ふと左腕が動かないと思って顔を向けてみると、そこにはユウがいた。
ユウは穏やかな表情で静かに寝息を立てている。
てっきりジラントがいると思っていたがジラントの姿は見当たらない。
風呂あがって飯を食っている途中でまた眠くなって寝落ちしたからな……ぶっちゃけよく覚えていない。
ジラントの奴本当に容赦ねぇ。
なんて思っているとユウは自然と目を開けた。
「あ、ナナシおはよう」
「おはよう。今何時だ?」
「えっと……夕方の5時」
「俺昼食ったっけ?」
「食べてない。ずっと寝てたよ」
「そうか。だから腹減ってるんだ」
起きてからすぐに空腹を感じたのはそれか。
「なら飯を食いに行こう。ユウは腹減ってるか?」
「私はまだかな~。ナナシってそんなにお腹減ってるの?」
「軽くだ軽く。なんかないかな~くらいのもんだ」
そう言いながら俺はベッドから降りて何か食い物はないか食堂を目指す。
ユウも何もないからか俺の後ろをついて来る。
特に何も話すこともないのでただ歩いているがユウは俺の疑問をぶつける。
「ナナシは何で私にエッチなことしないの?」
想像もしたことがない質問をされたので俺の足はつい止まってしまった。
「何でって……そりゃしないだろ普通」
「そうなの?でもナナシって気に入っている女の子とエッチしたがるよね。私の事は気に入らない?」
「そんなこと思ってるわけないだろ。思ってたらここまで連れてこないしレベリングの手伝いなんてしないぞ」
「でもナナシは私の事抱こうとしないようね?何で何で??」
「何でってそりゃ………………」
何でだろ?
確かに今までの俺は気に入っている女は抱いてきた。
獣人だろうが人間だろうがモンスターだろうが抱いてきた。
だがなぜユウの事だけ抱かないのかと聞かれると……答えが出ない。
正直に言ってしまえ何となくとしか答えが出ない。
何かを考えてユウの事を抱くことを避けていたわけではないし、意図的に抱こうと思っていたわけでもない。
今まで抱こうと考えなかったのは単純にユウが幼すぎたから。
でも最近は心身共に成長しているし、見た目は中学2年生くらい。
個人的には抱きたいと思うほど成長しているとは言えないが、個人の趣味によっては多分抱こうと思えば抱けるだろう。
こうして話す前はもっと幼く年齢一桁に見えたくらいだ。
正直その時の印象がまだ強く、まだまだ子供っという感じが抜けないんだと思う。
だから俺の答えはこれだ。
「まだ子供じゃん」
そういうとユウは頬を膨らませながらポコポコと殴り始めた。
「もう子供じゃないもん!実年齢はもっと上みたいだもん!!」
「お前はまだ精神的にも肉体的にも子供だ」
「初潮来たもん!!」
「それだけで大人判定するならこの世界大人多すぎるだろ」
貧しい所だとそれくらいの年齢で仕事をするらしいが、初潮のタイミングくらいで大人判定できるか。
んなこと言ったら男は精通したら大人かよ。
「それにそんなことで大人扱いは出来ねぇよ。しょうもない基準だ」
「それじゃナナシの中で大人ってどんな感じ?」
「最低20年生きたら大人だな」
「生きるだけ?」
「生き残るだけでいい」
「ナナシの大人だってしょうもないじゃん。20年生きるだけなんて」
「20年生きればそれなりに経験と知識を持つことができる。それにこの世界無事に20年生き残れるかどうかは結構分からないものだぞ」
前の世界、つまり俺が生まれ育った世界では確かに20年ただ生きるだけならほとんどの者が達成する事が出来ただろう。
でもこの世界だとやはり厳しい環境にいればそれだけ何らかの原因で死ぬ可能性は高い。
モンスターに襲われる、病気に侵される、戦争に巻き込まれるなどなど、死ぬ要因を探せばいくらでも出てくる。
「そうなの?」
「そんなもんだ。俺達が巡っている人間以外の国はそれなりにいい所ばっかりだが、ポラリスで見ただろ。首都から離れれば離れるほど不便なところが多い。そうなると薬を運ぶことすらしない。ま、元々なんでも神様の奇跡扱いしている魔法治療ばっかりで薬の開発なんてしてないだろうけどな」
「…………」
「それに薬の開発に関してはエルフがスゲー得意だし、そこの薬を買い付けて他の国に売る行商人だっているくらいだ。と言っても売るのはポラリスから離れた人間の国だけど」
「人間の国ってポラリスしか残ってないよね?」
「でも首都から離れた場所は一応薬の文化が残ってる。面倒なのは首都から微妙に遠い地域だけだ。うんと離れてれば薬は買いやすい。おかげでポラリス全体で見れば人口は全く変わってないけど、地域ごとに見ると極端に人が少ない所と多い所に分かれるんだよ」
これに関しては元の世界でも同じか。
活気のある地域、住みやすい地域には人が集まるが、そうでない地域は人が離れていくばかり。
これが世に言う過疎化だな。
ポラリス以外の人間の国を堂々と言っているのはベレトの所だけだ。
今じゃポラリスに他の国も取り込まれてしまったが……300年前はもっといろんな国があって活気があったんだけどな~。
「…………ねぇナナシ。正直に答えて」
「ん?何にだ??」
「本当に悪いのはポラリス?」
「…………」
その質問に関しては何といえばいいのか分からない。
俺は確かに今の時代から見て300年前に生きていたが、300年前と現在の間の歴史をよく知らない。
だから一概にポラリスが他国に対して侵略行為をしたことが悪であると断定することは出来ない。
だから俺はごまかしながらこう言う。
「自分で調べて自分で判断しな」
「え~、そこで丸投げ?」
「こればっかりはな……俺は大罪人だが他人の罪を裁くような立場にいない。所詮善悪なんて誰かの主観によって大きく変わる。もし語る事が出来るのであればそれこそアストライアにでも聞いてみな」
「アストライアさんに?う~ん。分かった。今度聞いてみる」
納得はしていなさそうだが適当な事を言うわけにもいかないからな。
あいつなら善悪について第三者の視線で話せるだろう。
そう思いながら食堂に行くと連とジラントが真剣な表情をしながら向き合っていた。
その2人の間には、チェス盤と将棋盤が並んでいた。
「2人仲よく遊んでたのかな?」
「喧嘩するほど仲がいいの代表格みたいな2人だが、大真面目にやってるから遊んでたとは違う気がする」
「でも何でゲーム盤が2つもあるんだろ?」
「あいつら得意なのが違うからな~。チェスはおそらくレナ、将棋の方はジラントが得意だから多分お互いに得意なゲームで勝負してんだろ」
「でも似たゲームだよね?」
「似てるけど微妙に違うからな」
そんな話をしながら見守っているとジラントが拳を握り締めながら固まった。
それを見たレナは大きく息を吐きだし勝利を確信した。
「私の勝ち」
「もう1回よ!!次こそ勝つ!!」
「もう時間切れ。ナナシ様、おはようございます」
「あ、旦那様おはよう」
「2人ともおはよう。あとジラントはなんで旦那様?」
「え、だって昨日上下関係をはっきり示されたし……旦那様でもあるからそれ様付けは必須かなって思ったから。最初は大罪様って呼ぼうと思ってたけどレナに止められた」
「当たり前でしょ。ナナシ様の事大罪人と言ったらポラリスの連中にすぐばれてしまうじゃない」
「と言われたので旦那様に変更しました」
「あ~うん。納得してるならそれでいいや。それよりなんか食うもんない?」
「おやつの残りの焼き鳥ならありますが」
「じゃあそれくれ」
ジラントは火の魔法で冷めた焼き鳥を温めなおしてくれる。
それにしてもおやつで焼き鳥って、もうちょい女の子らしいおやつはなかったのか。
温めなおした焼き鳥を食いながら俺はジラントに聞く。
「所でジラント。お前らってまだサマエルの事見張ってるのか?」
「それはもちろんです。あの堕天使は我々にとって脅威ですから」
「今どこにいるんだ?」
「ここ150年ほどはエルフの国で薬師として働いているようです。彼……彼女でしたっけ?サマエルに何か?」
「あいつが『傲慢』を持ってるって本当か?レナが言ってたんだが」
「それは多分本当。サマエルも転移が使えるようになってたから多分だけど」
「俺の他に教皇を殺せた奴がいるとはな……驚きだ」
「いえ、どうやらその条件は違ったようですよ」
レナがそんな事を言った。
え、『傲慢』を得る条件が違うってマジ??
「それってマジ?」
「これも予想の範疇を出ませんが300年前、ナナシ様が当時の教皇を殺してから新しい教皇になるまで290年の空白がありました。現教皇は10年前に発見され正式に新たな教皇になったのです」
「10年前?その間に仮でも教皇は……」
「存在しません。なので仮に本当にサマエルが『傲慢』を手に入れていたとすれば教皇の殺害が切っ掛けではないのかもしれません」
確かに。教皇がいない空白の期間内に『傲慢』を手に入れたというのであれば俺が確認した教皇の殺害がキーでないことになる。
それじゃ教皇がいない間はどこかの枢機卿を殺せばいいのか?もしくは全滅させるとか??
いや、そんなことをサマエルがするとは思えない。
あいつは確かに自分の考えを持っていたが、見ず知らずの誰かを殺すとは思えない。
だが何かしらの大義か理由があれば殺す可能性は高いけど……
さて、サマエルが本当に『傲慢』を得ている可能性を考えるとすれば…………あれかな?
「もしかしたらあれかもな」
「あれ?あれって何??」
「俺とサマエルが『傲慢』を得た答え。こっちなら納得できるかも」
「『傲慢』を得る方法が分かったのですか!?」
「いや、どちらにせよただの予想だ。これから答え合わせに行く。ジラント、サマエルの所まで案内してくれ」
「え、えー!!サマエルの所に行くの!?」
「何だよ。まだ苦手なのか?」
「当たり前じゃない!!サマエルは私たちドラゴンの天敵よ!!出来るだけ近付きたくないに決まってるじゃない!!」
まぁあいつのスキル構成的にドラゴンから見れば天敵だわな。
でも少しでも大罪系スキル所有者で集まっておきたい。
全員俺の元に来させるつもりはないが最低でもほんとに持っているのかどうか、そして協力する事が出来るのか確かめていきたい。
それと同時にポラリスの幹部連中がどこにいるのか、どんな奴なのか確かめておきたい。
対して強くないと思うが、それでも死なないためには必要な情報だ。
「それじゃ次はサマエルの所を目指してエルフの国か」
「うう~、サマエルも苦手だしエルフの国も苦手なんだよな~」
ジラントが嫌がっているがこれは強制な。




