宴会
戦いが終わった後は飯を食うのがドラゴンの国でのやり方だ。
決闘後の治療?
ドラゴンは頑丈な生物なので飯を食って寝れば明日には治るって考えなので、怪我をしたらとりあえず飯っという考えの方が圧倒的に強い。
なので目の前にある端が見えないほど巨大なテーブルの上にはこれでもかっと言うくらいの料理が並んでいる。
そしてその皿の上にも山のように料理がのっかっている。
「我が子よ、そして新たなる我が子よ。存分に食らうといい」
そういったのはこのドラゴンの国の王様、つまりジラントの父親だ。
ジラントの父親は真っ赤な鱗を持ったドラゴンでちょっと爺臭い。
でもあまり常識にとらわれない考えで俺は気に入っている。
それにジラントが俺のことを気に入ったと言って俺のことを無理やり連れてきたときもある程度実力があるならいいか、という感じで認めてくれている。
で、俺のことを渋々認めているのがジラントの母親。
真っ白な鱗のドラゴンで女王としての気品を持っている。
しかしジラントの父親と違い血統を重んじるので俺の事は気に入らない。
いくら力があっても人間だから俺とジラントが仲良くするのは気に入らないと。
でも力があることも事実なので……みたいな感じで結構悩んでいる。
俺はそんなこと一切気にせず飯を食ってるけど。
「あ~ん!はぐ!んが!」
「ナナシ……いつもよりすごい勢いで食べてる」
「今回の戦いでかなりのHPとMPを消費したようですからそれを補充しているのでしょう。ユウ様はあまり食べ過ぎないように」
「え~。みんな美味しそうなのに?」
「女性ならプロポーションの維持は必須です。食べ過ぎて太ったりしたらユウ様も嫌でしょう」
「あらあら~、おばあちゃん狼のレナはそんなこと気にしてるのね~。年を取って贅肉が体につきやすくいなったのかしら~」
「殺す」
レナがジラントに挑発されてさっそく殺し合いを始めた。
ジラントもまだ呪いの効果が落ちていないだろうによく挑発できるな。
がつがつと様々な料理を食いつくしているとユウが聞いてくる。
「ドラゴンの国っていろんな料理があるんだね。てっきり獣人の国みたいにお肉ばっかり出てくるのかと思ってた」
「あそこはあそこで自分たちの種族にとって1番効率のいい食事をとっているだけだ。それに料理が豊富なのは基本的に暇だからだ」
「暇?」
「暇だからいろんなことに挑戦する時間があるんだよ。寿命がないってことだからいろんな趣味を見つけてそれに費やす。それがない奴はどっかで寝たっきりになってるし、趣味の多い奴はいつまでもこうして起きていろんなことをする。意外かもしれないがジラントも300年前の時から意外と家事とかできてたぞ」
「へ~。暇だから家事とかをするの?」
「その辺は好みを異性を手に入れるための努力らしいけどな。あくまでも料理とかは人間の真似をし始めたのが始まりで、そのまま人間みたいに過ごすようになったのが龍人って言われる連中なんだよ」
「それはこの都にいるのはみんな龍人?」
「そだよ」
ドラゴン達は非常に長い時間を生きることになる。
そんなドラゴンの1体が暇で人間の暮らしをまねして家を作り、家事をし始めたのがきっかけと聞く。
本当に基本的に暇な種族なんだよな、龍人って。
「どうぞ」
不機嫌なことを隠さずに水を置いたのはズメイだ。
「俺の事が気に入らないのは知っているが、そこまで睨まなくてもいいだろ」
「いいえ睨みます。今度は私と決闘をしていただいてもよろしいでしょうか。特に何も賭けず、ただの本気の殺し合いをしたいと思っています」
「相変わらず姪っ子萌だね~。かわいい妹の子供の事が心配なのは分かったが、そろそろ自分の子供も求めてみたら?」
「私はこのような性格なので自分の子供より他の子供を愛でている方がちょうどいいと思います。自分の子供だと厳しくしすぎる気がしますので」
本当にズメイは仕事一筋のキャリアウーマンみたいなこと言うな……
そりゃ自分の幸せ=自分の子供とは限らないよ。
でもさ……もう少し自分の子供にも興味を持った方がいいんじゃない?
「でもお前だって血統はかなりいい方だろ?現女王のお姉さま」
「私は現状に納得しています」
「彼が妹に求婚してきたときは本当に驚きましたが、彼は妹のことを本当に大切に思っているので特別に許したのです。でもあなたの事は許した覚えはありませんよ」
「お堅いね……で、どうするの?」
「どうするとは?」
「今回の決闘でジラントは俺の元に来ることになった。お前はついて来るのか?」
「……妹に止められました。あの子は、ジラントはもう立派な女だと」
レディ?あれが??
現在進行形でレナと大喧嘩している女がレディ?
「周りの酔っ払い共が勝手にどっちが勝つか賭けている片方がレディ?」
「………………やはりもうしばらく近くで見ていたいような……」
「好きにしろ。この間俺の金庫の中見ただろ。ひもじい思いはさせないって」
「……嫌ではないのですか」
「嫌って何が?」
「お堅い私というドラゴンがついて来ることがです。いつまでも妹離れと姪っ子離れができない年増ドラゴンの事を」
「う~ん。別にいいんじゃない?」
俺がそういうと意外そうな表情をするズメイ。
視線でなぜと問いかけてくるので俺は答える。
「いやさ、俺はまだ親っていう奴になってないから分かんないけどさ、真っ当な親ってそういうものじゃない?子供がどれだけ大きくなって大人と言えるくらい成長したとしても親から見るといつまでも子供で、子供の方も大人扱いしてくれと口で言いながらも突き放さない。とりあえず家はそんな感じだったからそれでいいじゃないかな~って思ってる」
「…………それは人間にとって当たり前の考えですか」
「さぁ?俺の考え方が常識だなんて傲慢な事言えねぇよ。だからこれはあくまでも我が家での事。ほかの家庭の事なんて知らん」
最近はドラマも見てなかったからな……創作物の家族すら今どきどんな感じになっているのか分からん。
普通の家族ってどんな感じなんだろうな~。
うちは母ちゃんが過保護、父ちゃんが放任主義って感じでバランス取れてたのかな~
なんて考えているとズメイはズメイで何やらお考え中。
その間にジラントの父親が話しかけてくる。
「感謝する。我が子を貰ってくれて」
「別に、俺もそろそろ長距離砲台が欲しかったところだ」
「人間の間ではそれをツンデレと言うんだったか?」
「今のにデレ要素あったか??」
「とにかく我が子を貰ってくれて感謝する」
「そこは父親らしく“娘はやらん!!”みたいなこと言ってもいいんじゃない?」
「いや……あの子はその……お転婆で貰い手がいなかったから……」
確かにこの国のお姫様は現在獣人の国の元女王と大喧嘩の真っ最中。
食器は飛び、空き瓶が舞い、酒飲んだ馬鹿どもが騒ぎ出す。
あれに求婚する猛者はそう多くはないか。
「でも血統も力も確か、300年でレベル90行ったんなら好条件だろ?」
「そうかもしれぬが……我も我が子を止めるのが難しくなってきてな。今では妻とともに止めるしかない」
「父親だろ。怒鳴れば止まるんじゃない?」
「止まらぬ。特に獣の国の姫たちと旅をした後は既にレベルだけなら我を超えていた。ほかのオス達もさすがにあれはと尻込みをしておった。故にもらってくれそうなのは新たなる我が子だけである」
「俺の事を新しい我が子というのは気が早いんじゃないか?女王様の方はどう思ってんだよ。前から反対派だったろ」
「血筋も大切だが、それよりも結婚できるのかどうかの方が心配だと語っていた」
血筋よりも結婚を選びましたか。
でもドラゴンに寿命はないし、ゆっくり選んでもいいような気がするけどな。
「……ここだけの話だが」
親父さんは俺の耳元でそっと教えてくれた。
「我が子は新しき我が子が亡くなったと聞いたとき、1年ほどふさぎ込んでいた。我々ドラゴンから見れはわずかな時間とはいえ、見ていていたたまれなくなった。たとえいつか燃え尽きる命であろうとも、それは老いによるものだと好ましい」
「……もう二度と死ぬ気はねぇよ」
俺がそういうと親父さんは満足そうに頷いた。
少し視線を感じてそちらに視線を動かすと、そこにはジラントの母親が俺の事を睨み付けていた。
その言葉、忘れるなよっという感じで。
そりゃ忘れるつもりはないけどさ。とりあえず……レナとジラントの喧嘩、止めてくるか。




