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ラブレター

 ジラントによる大監獄強襲により中で捕らえられていた囚人たちが脱走し、この情報は世界各国に通達された。

 しかし情報操作はある程度されている様で、逃げ出したのは階層の浅い囚人達だけとなっている。

 俺が見た限り階層の深い連中も結構逃げ出していたように感じたが、こんな事を嘘ついて大丈夫なんだろうか?

 その後ギルドを通して浅い階層の脱獄囚に対して賞金首として取り上げられ、おそらく深い階層の連中はポラリスの連中がこっそり捕まえるつもりなんだろう。


「面倒な事になったな~」

「ええ。ジラントの事もそうですが、思っていた以上に囚人達が逃げ出したと考えるべきですね。町の方や村の方達は本当に大丈夫なのかと疑っているようです」

「と言うよりはポラリスから離れた国は、だろ。いくらポラリスが人間の国の中心と言ってもその支配圏は絶対ではない。遠ければ遠いほどこっそりエルフやドワーフ、ベレトの所に通っている貴族も居るからな」

「ポラリスってその辺りの事取り締まってるんじゃないの?」

「どこにでも悪い連中はいるって事。ルールの穴をぶち抜いたり、隠し通したり色々な。特にさっき言った3つの異種族国家は技術的な面やそこでしか取れない貴重な素材、宝石の類だってある。そう言うのを裏で取引してぼろもうけしてる国は絶対にあるんだよ。ま、それを取り締まって横からかすめ取るのもポラリスのやり口だけどな」

「どこも悪い事してるんだね」

「光が強い分闇も深いってな、み~んなポラリスに不平不満を持ってるって事だよ」


 特にここ、人間の国では最も東に存在するこの国では特にそれが顕著けんちょだ。

 ポラリスの騎士はどいつもこいつも不良騎士で俺がこんな話をしていても全く取り締まらない。昼間っから酒飲んで本国への愚痴をこぼしている。

 さらに言うとこの国、周りにエルフの国、ドワーフの国、ドラゴンの国がすぐ近くにあるので裏取引をしている。

 目的は打倒ポラリス。

 世界で1番強いのは我が国だといつでも主張しそうな勢いだ。


「とっくにポラリスの騎士連中を買収済みみたいだし、さらに言えばポラリスを消す時にエルフやドワーフ達も一緒に戦争を起こさないか交渉中らしい」

「それ絶対表に出てこない情報だよね?本当なの??」

「この国のお偉いさんならそういう事を平然とやるのは想像に難しくないぞ。300年前もそうだったが、本当にこの国表っ面だけは分厚いから。300年前のは極東の帝国、何て呼ばれてたくらいだし、当時の皇帝と俺仲良かったから、あいつの子孫がちゃんと皇帝の座を継いでいるとすれば好機ととらえてる可能性は高いな」

「つまり……ただの予想?」

「そうだよ。距離的にはこの国が1番遠いし、こうして見張りのはずのポラリスの騎士達の買収に成功。当時の意志を継いでいるのなら、やるだろうな」

「へ~」


 ユウはギルドで頼んだ肉を手掴みで食いながら言う。

 フライドチキンみたいなのだから特に言わないが、それ5つ目だぞ。腹の中大丈夫か?


「ごちそう様。それで、何でこの国に来たの?」


 食べ終えて指を舐めるユウに簡単に答える。


「ドラゴンの国に行くのにここが1番楽だからだよ。ジラントの奴が明らかにあの場で俺に視線を送ったのに何もしなかったのが気になる。『強欲』の大罪スキルを持っているかどうかも改めて確かめてみたいし、丁度いいからな」

「裏でこっそり道があるって本当?」

「らしいよ。こっそりではないけど」

「どういう事?」

「ドラゴンの国に攻め込むためって名目で作った道があるんだと。そこを通ればドラゴンの国の端っこには行ける。そこから首都に向かってまたバイクをかっ飛ばせばいい」

「そう言えばこの国、時々変な馬車が通ってたね。馬がいないのに動く馬車」

「あれは車って言うんだよ自動四輪の方が親しまれているみたいだけど。あれは1部の本当に金のある貴族だかがドワーフの国から買い取った輸入品だ。ドワーフの国に行けばもっと数もあると思うぞ」

「……あれは臭いが苦手です。あと乗っていると気持ち悪くなりますし」

「あれ?レナって乗り物酔いしたっけ?」

「風が当たっていれば問題ないのですが、風がないあの箱は苦手です」


 バイクはよくて車はダメって……普通にありそうだな。

 俺もフライドチキンの山盛りを食べながらポラリスへの嫌がらせをどうするかな~、ジラントの事どうするかな~って考えているとギルドの雰囲気が変わった。

 まぁ森羅万象を常にONにしてるから誰が来たのかとか分かるけどさ。

 ギルドにやって来たのは2人、その2人は俺の後ろに立って聞いて来る。


「失礼いたします。お話よろしいでしょうか」

「食いながらでも構わないなら」

「ありがとうございます」


 そう言って俺の前に座ったのは執事の爺さんだ。

 髪は真っ白で線は細い。

 しかし雰囲気だけは衰えず周囲を委縮させるだけの気迫がある。


 そしてその後ろに控えているのは20代後半のメイドさん。

 目をつむって静かに立つ姿はそれだけでも絵になる。

 青い髪をポニーテールでまとめ、静かすぎて彫刻か何かと勘違いしそうなくらい微動だにしない。


 ユウは2人の気迫に飲まれ結界を張り、レナは気に入らなそうにフライドチキンを骨ごと砕いて食べる。

 そんな2人にとりあえず挨拶をする。


「久しぶりじゃん。まだ生きてたか爺さん」

「姫様がご結婚し、子を見せてくれるまでは死ぬつもりはございませんよ。大罪人殿」


 爺さんがそう口に出した事で周囲でざわめきが起きる。

 どうやらこの国では俺の名はまだ生きているらしい。


「は、俺が死んで清々してるくせにか?お前はジラントが俺に惚れてるのかなり嫌ってただろうが」

「その通りです。今でも我が国は血筋を重んじておりますのでそこに人間の血が混じるなど決してあってはならない事、当然の考えです」

「だからお前らの所の女共に手は出してなかっただろ。正直ヤりたかったな~。町や村の女の子にすら手を出すなって言うんだからあの時は久しぶりにオナったよ」

「そんなこと知ったこっちゃありません。この度はこれを渡すために参りました」


 そう言ってスッと出した物を見て俺は笑いが止まらなかった。

 ユウは不思議そうにそれを見て、レナは苦々しそうに口元をゆがませる。

 恐らく俺がレナに言う言葉を予想しているのだろう。

 だから予想通りいってやるよ。


「レナ、やっぱりお前とジラントはよく似てる。果たし状(ラブレター)だとよ」


 内容はとりださなくても想像つくが、一応取り出して読んでみる。

 そしてその内容はドラゴンの国に来て1対1で勝負し、勝った方が負けた方を隷属させるという勝負だった。

 そして受けなかったら俺が居る所に強襲して無理矢理隷属させると脅し文句も書いてある。


「いや~レナの時も思ったが、やっぱりお前ら本当にそっくりだ。お前ら実は姉妹だったりしない?」

「獣人と龍人の姉妹なんて悪夢ですね。絶対にありえません」

「そうだな。普通はそうだ。でもここまで思考が似ているとそう思いたくもなるって。な、ユウ」

「そうだね。この勝負内容は前にも見たもん」


 ユウも認める程のそっくりである事が証明された。

 これは流石にレナも恥ずかしいと思うのか、顔を赤くしている。

 そして『強欲』を使えるジラントに対し倒し方を考えてみるとちょっと面白い勝ち方を思いついたので爺さんに確認を取る。


「爺さん。これって受けたらすぐにドラゴンの国に行かないとダメか?」

「何か準備をするおつもりですか」

「ああ。俺は弱っちい人間だからな。それなりの準備が欲しいんだよ」

「構いませんが準備が終わり次第すぐに向かってもらいます。そして逃げないように彼女を監視として付いて行ってもらいます」

「それでいいよ。ちょっとアストライアの所に行って武器を取り出して来るだけだ」

「承知しました。それでは勝負を受けるという事でよろしいですね」

「もちろん。それからジラントに伝えといてくれ、必ずお前を俺の女にするってな」


 そう挑戦的に言ったが爺さんは何も反応せず去っていった。

 さて、ジラントはせっかちな性格だからできるだけさっさと動いた方が良いだろう。

 フライドチキンの油を舐めとり、手を洗ってから行く。


「そんじゃ行くか~」

「でも何でアストライア?って人の所に行くの?」

「ちょっとね~、面白い倒し方を思いついてそれを実践してみようかと。それからあいつらにも暴れる機会は与えておかないとな」

「あいつら?」


 ユウはよく分からないという表情をしているが、とりあえずアストライアの所に行くとしよう。

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