大監獄で確認する
バイクで大監獄まで爆走する事ざっと1週間、遠くから様子をうかがえるくらいの距離まで近付いた。
その大監獄は非常に巨大な塔の形をしており、24時間体制で塔を守っている事が分かる。
俺とレナはスキルで、ユウは双眼鏡を使って大監獄の様子をうかがう。
「大監獄って言うくらいだから防御に特化してると思ったが、意外と外側にも目を向けてるんだな」
「例の噂も広まっていますから。他にもあの監獄内に捕らわれている誰かを脱獄させようと考えている者もいるようですので無視できないのでしょう」
「それにしてもおっきーね。雲に届きそうなくらいおっきいよ」
「ユウ。太陽は見るなよ、目が潰れる」
そう言うとユウは慌てて双眼鏡を下に向けた。
確かにユウの言う通りこの監獄塔は非常にデカい。
見上げるだけでも非常にデカいのに、地下も何十階と続いているのだから規模の大きさが凄まじい。
正確に言うと地上27階の地下35階建て、この世界の建築技術舐めてたわ。
「ちなみにこの建物は建物で名前があるそうです」
「何て名前?」
「バベルだそうです」
「……いつか神様にぶっ壊されそうな名前だな。名付け親はその事ちゃんと知ってるのか?」
多分有名だからくらいの感じで名付けたのかも知れないが、不吉な名前はよそう。何なら自分で考えた名前にしなさい。
中二病丸出しでも大丈夫だと思うからさ。
「それにしても……囚人たちはみんな地下なんだな。警備の人は地上暮らしか」
「恐らくそうやって上下関係を示しているのでしょう。監視が上、囚人が下と暮らしからも上下関係が分かるように」
「レナが言うと説得力あるな。それじゃあノ1番上に住んでいるのが看守長か?」
「恐らくですが。私は臭いでのみ確認していますが……ナナシ様は色々見る事ができるのでは?」
「ちょっと待ってね……あ、見えた。確かに看守長って書いてある机あった」
机には『看守所長スイッチャー・トール』と言う名前らしい。
「看守所長の名前はスイッチャー・トール。聞き覚えある?」
俺がレナに聞くとレナは分からないと首を横に振る。
「いえ、初めて聞く名です。おそらく看守長と言うのであればそれなりのレベルを有していると思いますが……」
「詳しい事は不明か。誰がその看守長なのか分からないから『嫉妬』で変身できないな……」
「待ちますか?」
「まぁ別にいいだろ。無理に突入するつもりはないし、ぶっちゃけここから大罪スキルを持ってそうな奴を調べればいいんだ。見付けたらその時改めて確認すればいい」
気楽に行こう。
この距離なら何か言われも旅人でちょっとキャンプしてました~で誤魔化せそうだし、聖域でぶっ殺しまくった奴が大監獄周辺をうろついているとは思わないだろう。
それじゃ地下に居る囚人たちを1人ずつ調べてみますか。
そう思っているとユウに肩を叩かれた。
「どうしたユウ?」
「見てあの戦車、もの凄く頑丈そう。それにその後ろにいっぱい人がいる」
ユウが双眼鏡で覗きながら言うのでその方向を見てみると、確かに戦車に乗った男が大監獄に向かっている。
その後ろには檻付きの馬車が引かれており、おそらく新しい囚人の護送と言う感じだろう。
馬車には囚人がぎっちり詰められているので馬も大変そうだ。
「本当だ。多分囚人をあの監獄に運んでるんだろ。レナはあの先頭に居る偉そうな男知ってるか?」
「…………ええ、知っています。面倒なのがいますね……」
レナの表情から本当に面倒な相手である事が分かる。
あの戦車に乗った男誰?
「あの男はロードマン・ランナウェイ。ポラリスで戦場をかける返り血戦車野郎です」
「返り血戦車野郎?戦争で前に出る奴か」
「はい。槍を持って戦車に乗ったまま戦うのが得意な騎士です。非常に好戦的な男で神の神託を一切疑わないバカです」
「結構知ってるな」
「戦争となれば必ず出てくる男ですから、知っていて当然の男です。ただし彼の信仰は過激派と呼ばれ、一定以上の信仰心がない者は愚者として見下しているそうです」
「タカ派って奴か。それじゃその戦車野郎の相手をしているのが看守長様かね?」
戦車野郎と話をしている看守を見てみる。
非常に体格の良い大男で2メートル超えているんじゃないだろうか?
制服に金色のバッチを付けているので恐らく看守所長で間違いない。
年齢はおそらく50代後半。ちょっと年いってる気がするがやっぱりこういうのは統率力が物を言うのだろうか?
で、戦車野郎の方はギラギラと血の気の多い30代前半の男。
戦いのためか鎧を着ているが戦車を降りると下半身には鎧がない。上半身だけ鎧を着ている所を見ると下半身は戦車に守られていると見た方が良いか?
それに鎧は胴体の部分だけだし、腕は槍を振り回しやすいよう鎧を付けていないのだろうか?
とにかくポラリスが絡んでいるとなると本当に面倒臭そうだ。
とりあえずマークしておくべきは看守所長と戦車野郎だな。
戦車野郎は帰るのをのんびり待つか。
さて、とりあえず囚人たちの日常でも確認でもしよう。
――
大監獄の近くでキャンプ張って数日。やっぱりハズレだったかな~っと言う雰囲気が流れている。
特に動いている訳でもないので食っちゃ寝を繰り返すだけだがこれが想像以上に暇だ。
いや~あの大監獄から誰を狙って奪いだしてやるぜ!!みたいな事があれば別だったんだけど、そんなの一切ないからな……
『強欲』も流石に人間を奪う事はできないし。奪う事ができたとしてもユウの時みたいに奴隷の所有権が限界だからな~。
「ナナシ様。コーヒーです」
「ありがと」
眠気を誤魔化すために不味くて苦いだけのインスタントコーヒーをすする。
あ~眼は冷めるけど本当に不味い。
「もう既に深夜を回っております。お休みになられたらいかがでしょう」
「休む前にコーヒー飲ませるなよ。目が覚めた後だぞ」
「失礼しました。では私の事を抱き枕にして寝るのはいかがでしょう」
「それが目的だな。最近構ってくれなくて拗ねてただけだな」
スキルを利用した観測なので向こうには気付かれていないっぽい。
これは後から知った事だが意外とこの大監獄周辺でキャンプする旅人は多いらしい。
理由は大監獄周辺に犯罪者は来ないから。
俺と言う大罪人は普通に来ているがこれを灯台下暗しと言うのだろうか?
そんな事は置いておいて、先に看守所長と戦車野郎を『嫉妬』で調べてみると妙な称号があった。
看守所長には『塔』、戦車野郎には『戦車』と言う称号があった。
何だこれ?って思って調べてみるとどうやらポラリスの上層部の証らしい。
つまりあの大監獄に2人のポラリス上層部の人間がいるという事になる。
何も考えずに潜入しなくて本当に良かったわ。
聖女犯したばっかりなのにすぐにポラリス上層部に喧嘩売るとか面倒でしかない。
あと2人のレベルはどちらも50前半、聖女ちゃんとあまり変わらない。
看守所長は防御系スキルとそれを他の人にも共有させるスキル、そして統率力を向上させるスキルが多かった。
戦車野郎に関してはぶっちゃけ聖女ちゃんとあまり変わらない。ただ種類が微妙に違うだけで戦車に乗って攻撃する時や移動速度を上げるスキルばっかり。
戦車に乗って戦わないと雑魚だな。
その後は地味~に囚人たちを調べていたが……全然いない。
予想通り全然いない。
…………どっか別な所探すか。
「あの監獄にはやっぱりお眼鏡にかなう奴はいなかった。明日ゆっくり休んでどこか適当に大罪スキル所有者を探してみよう」
「承知しました。それで今夜は……」
「温かい抱き枕が欲しいな~」
「ご自由にお使いください」
俺はたっぷりレナの事を堪能してから寝るのだった。
それにしてもやっぱり空振りはきついな~。




