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密猟犯組がやられた

 ユニコーン生活9日目。

 毎日1頭ユニコーンを狩っているがやっぱりペース遅いかな……

 聖獣100体食えば良いので他の聖獣でもいいが、1番多いユニコーンが狩りやすいのは事実。

 他のを狩ってもいいが数がな……少ないんだよな……


「ナナシどうしたの?」

「いや、もう少しペースを上げたいと思ってな。1日3頭はどうかと思ってた」

「それは……多くない?」

「だよな。それにポラリスが最近を俺の事を探し回っているみたいだし、ここで狩る数を増やすのは危険かな~って」


 ぶっちゃけ俺なら全滅させる事くらいできるが、その間ユウがどうなるか分からない。

 もちろんユウだってそれなりには強いし、防御力に関しては俺より上。

 でも最大の欠点として人を殺せないという所がある以上どうしても油断できない。

 と言っても毎日必ずユニコーンを仕留めている訳でもない。

 その理由が――


「あ、銃声だ」

「今日はあっちに先越されたか。今日の狩りは中止だな」


 特に口約束をした訳でもない、いつの間にか決まっていたルール。

 それはどちらかが先にユニコーンを仕留めたら片方は仕留めないというルール。


 この聖域の生態系を守るためなのか、単にユニコーンが減り過ぎると困るのか、お互いに1日1頭だけ仕留める様にルールが出来ていた。

 俺も無駄に敵を増やす事は好きではないし、面倒臭いだけなのでこれに乗った。

 だがユニコーンを仕留めるのは早い者勝ちであり、いつどこでどんな風に仕留めようが構わない。


 実際俺達がユニコーンを仕留めに行こうとした前に罠にかかったユニコーンにとどめを刺している現場に出くわした。

 その時初めてお互いに顔を合わせた訳だが、すぐ俺達が去ると向こうは俺達に戦う気はないと察してくれたようで不干渉を貫いている。

 本当は交渉をするべきなんだろうがポラリスの連中が居るのでそう簡単に会う訳にも行かない。

 かと言って勝手に獲物を多くとってもいけない。

 どうすっかな~。


「ナナシ様。今日はイチャイチャしてますか?」

「そうだな。飯作る以外特にやる事ないし、イチャイチャしてエロい事してよう」

「あ、私ナナシから料理学びたい」


 とりあえず今日の狩りはないので思い思いに過ごすのである。


 ――


 深夜。

 常に『傲慢』と『森羅万象』を使っているので最初の頃は騒がしくて落ち着かなかったが、今はもう慣れた。

 そして慣れると出てくるのが遠くで起きている事だ。

 こちらには被害がないという事は分かっているが、これほどまで騒がしくなっていると自然と目が覚めてしまう。


「ナナシ様」

「ああ、気付いてる。どうやらポラリスが動いたみたいだな」


 どうやらポラリスは密猟者に対して夜襲をかけたらしい。

 密猟者たちも逃げているし、ある程度対策をしていたからかそれなりに逃げれている。

 と言っても当然全員逃げれている訳ではなく、一部捕まっている様だ。

 まぁこちらに被害が及ばないのであれば問題ない。


 ただ気になるのは1人、いや2人と言った所か。

 誰かが小さい物、おそらく子供を抱えて逃げているのが居る。

 ポラリスの連中はその子連れを狙っているらしく、多くの人材を集中させている。

 人間の中ではそれなりに強そうではあるが、流石に子供を抱えた状態ではハンデが大き過ぎる。

 直ぐに回り込まれ、剣で子供をかばいHPを減らしていく。


「ナナシ様?」

「ここでこいつが消えたらポラリスはどんな反応をするのか、面白そうだ」


 ある程度ポラリスの連中が痛めつけた後、ギリギリのところで助けてやろう。

 そうすればこの密猟犯達の目的が何なのか、どうして危険を冒しているのか、面白い話が聞けそうだ。

 誰かがポラリスの攻撃で残り僅かなHPを減らさせれそうになった時、俺は『傲慢』を使用してそいつをここに強制転移させた。


「!?ここは、一体……!!」


 子供を抱えた者、それは1人のおっさんだった。

 密猟者と言うよりは冒険者の格好をしており、マントで顔を隠していたのだろうが攻撃で破けてしまっているのでよく見える。

 無精ぶしょうひげのおっさんは小さな曲剣を持ち、空いた手には完全に布で覆い隠したおそらく子供が抱きかかえられている。


「んん?どうかしたぁ~??」

「おはようユウ。お客さんだ」


 ユウがおっさんの声に反応してのんびり起きた。

 目をこすりボーっとした表情をしていたが、おっさんの反応は非常に大きい。

 何せ何者かに強制転移された後に敵であるポラリスの鎧を着た女がいるのだから。


「貴様!ポラリスの者か!!」

「違う。ポラリスの人間ではない」

「ではなぜそこにポラリスの人間がいる!!」

「こいつは俺の奴隷だ。ポラリスの人間が獣人と仲良くネンネしてる訳ねぇだろ」


 おっさんの後ろでおっさの首に爪を立てるレナの事を教えながら言った。

 おっさんもすぐレナの爪が首に当たっているのを感じながら剣を渋々下ろした。


「何が目的だ」

「いや、ただ単に珍しいな~っと思って。同業者で子連れは相当珍しいからな、実家なり妻になり押し付けるもんだろ?」

「貴様、もしかして同業者か」

「そう。では初めまして、俺の名前はナナシ。そこにいる獣人がレナで、ここでぼんやりしているのがユウだ。ユウは元ポラリスの騎士だが今は俺の奴隷だ」

「よろしくお願いします」

「よろしく~。ふわぁ」


 何とも閉まらない元ポラリスの騎士様だが、これを見てポラリスの騎士とは思えないかも知れないが。

 しかしそんなポラリスの騎士様、密猟犯の抱きかかえている子供の事をじっと見始める。


「どした?ユウ」

「この子病気にかかってる。魔力……過剰吸収症?」


 子供を見ながら言ったユウの言葉に密猟犯が驚愕している。

 その病名だけは聞いた事がある。


「え~っと、何だっけ?過剰に魔力を吸収し過ぎて体調に不調を起こす病気、でよかったか?」

「そうみたいだね。体内に溜まった魔力を放出するのが1番いいみたいだけど、この子の場合体内で魔力が腫瘍?みたいになってるから簡単に排出させる事できないみたい」

「……詳しく言うわりにはみたいってあいまいだな」

「だってスキルの力で分かるだけで理解はできてないもん」


 ああ、『知恵』か。


 ――スキル『知恵』――

 美徳系スキルの1つ。

 視界に捉えた対象の状態を表示する。


 確か『知恵』にはゲーム系転生物の定番、鑑定の様なスキルがあるんだった。

 この世界にも鑑定スキルは存在するが、全て物、もしくは薬草、素材などに対してのみであり人物に対して鑑定する事はできない。

 出来るとすれば俺の様に誰かを隷属させてからになるので全く違う。


 密猟犯は顔をゆがませながら言う。


「そうだ。この子の病気をどうにかするためにユニコーンの血を集めていた。だが症状は酷くなる一方。薬は存在しないと言われるし、この子の体内にある魔力溜まりも摘出できない。ならせめてユニコーンの血を飲んで発作が起きないようにしなければ死んでしまう」

「それが密猟の理由ね。で、今日はこの子のユニコーンの血飲んだの?」

「昨日の昼に飲ませた。その後はまだ飲んでいない」

「そっか……ところでおっさんって顔広い?」

「んん?それなりにだが、表の顔はとあるギルドのギルド長だ。冒険者や貴族達にも顔は広い」

「それじゃ俺と契約してみないか?対価は隷属、その代わりその子の病気を治してやる」


 ギルド長か。

 私立か国立かにもよるが、結構お偉いさんじゃないの。

 そんな父親が子供のために密猟ね……

 美談かも知れないが、ポラリスに捕まればただの罪人。俺ほどではないが死ぬのはまず間違いない。

 密猟犯は顔をゆがませながら考えている間に子供の呼吸がおかしくなってきた。

 子供の喉から出てくるのは風を切るような高い音でヒューヒューと音を立てる。


「エウロー!?」


 どうやら発作が始まってしまったらしい。

 慌てて密猟犯はユニコーンの血を飲ませようとするが、呼吸が荒くなっているので飲む事が難しく、口に含んでもこぼれてしまう。

 こりゃ恩を押し売りした方良いな。

 とりあえず多分効くであろう薬を作るか。


「ナナシ。あの子死んじゃいそうだけど薬作れるの?」

「俺“万能薬”しか作った事ないんだよね……とりあえず作ってぶち込む。飲めなさそうだったら注射する。死なない様見とけ」


 そう言いながら薬の材料を取り出し調合する。

 本日使うのは乾燥させた世界樹の葉っぱを乾燥させた物、ディアン・ケヒトからもらった泉の水、ユニコーンの血と角を細かく砕いた物。

 これに聖なる炎で煮詰めながら不純物を取り除いて完成。

 ちゃんと完成した証拠に銀色だった薬は金色に変わり、辺りを柔らかく包む。


「はい完成。これも知恵で使ってもいいか確認してくれ」

「……うん。大丈夫みたい。これなら治るって」

「例の腫瘍も?」

「そうみたい」


 流石“万能薬”。本当にどんな病気も治せるようだ。

 やっぱゲームの設定って凄いな。普通どんな病気にも効く薬なんてないだろうに。


「飲めそうか?」

「いや、このままでは!!」


 密猟犯は娘に何とかユニコーンの血を飲ませようとしているが、咳き込んで全く飲み込めない。

 仕方ないので俺の人差し指の爪を『色欲』で変形、注射のようにしてから子供に遠慮なく刺した。


「き、貴様!!」

「さっきの万能薬を注射した。強い薬だからしばらくだるさとか力が入らないとか色々あるだろうが、これで病気の方は大丈夫だろ」

「こ、これは本当に大丈夫なのか!?」


 子供の身体から黒いもやの様な物が体中からあふれ、すぐに消えていくがどうなんだろ?

 ユウに視線を向けると答えてくれる。


「今治療中だよ。今は体内に溜まってた魔力が身体の外に出ているからその黒い靄が収まれば治療は完了、だって」

「それなら大丈夫だな。寝る」


 密猟犯が目の前に居ようとも問題ない。

 俺、と言うよりはレナが警戒しているので動く必要がないだけだが。

 妙な親子拾っちゃったな~。

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