面白いやつ見つけた
ユニコーン生活5日目、問題が起きた。
「いい加減野菜が食べたい……」
ユウが音を上げた。
毎日ユニコーンを1頭狩って食べ続けてきた訳だが、流石に同じ食材5日間はやっぱり厳しいか。
「でもここで野菜が食べたいという所がユウ様ですよね」
「だな。他の子だったら菓子が食いたいとか、もっと別な食いもん求めると俺は思う」
「だって……お菓子はナナシが作ってくれるし、フルーツ系のお菓子くれるからしばらく耐えられたけど……そろそろご飯にも野菜が欲しい!」
それは確かに。
ここんところ肉と米しか食ってない気がする。
そうなると……
「盗みに行くか」
「え?」
「ポラリスの連中から食料分捕ってこよう。野菜だってあるだろ」
ないのなら自分で作るか奪うしかない。
誰も持っていなさそうだったら自分で作るしかないが、近くにはポラリスの連中が居るのでそこから食料を奪ってくる事にしよう。
「でもそれって危険じゃ……」
「出来るだけ相手に気付かれないようにするって意味では悪手だが、まぁバレた所で問題ない。もしかしたら密猟者側の犯行だと勘違いするかもしれないし、いざとなったら『強欲』で奪えばいい。まぁどの野菜があるか分からないから何とも言えないけど」
食料を奪うだけなら『強欲』で十分。
スキルによる移動はバレにくいし、敵情視察にもなるのでついでに行ってこよう。
どうやらポラリス側と密猟者側で俺達の動きを監視しようとしている動きがある。
ポラリスは密猟者側に力を注いでいるためあまり真剣に捜索している感じはないが、密猟者側は俺達の事を真剣に探している感じがする。
目的は何なのか分からないが今は放置していてもいいだろう。
攻め込んできた際に余裕で殺し尽くせるくらいの規模、だいたい30人前後か。
余裕をもって殺し尽くせる。
しかし簡単に殺せないのがポラリスの連中だ。
規模と言う問題だけではなくごく少数ではあるがそれなりに強いのが混ざっている。
そいつらもまぁ殺せるが、問題はユウが見付かった際の対処だ。
即ポラリスに連絡されて増援となったら面倒な事この上ない。
ユウの事はできるだけ隠しておきたい。
俺の傍に居る事はバレているだろうが、だからと言ってそう簡単に姿を見せるつもりはない。
ユウはまだ人を殺せる段階に入っていないのだから。
人を殺せるようになった後、自分でどうするか決めさせたい。
「今は偵察と食料泥棒してくるだけだから2人はここで待っててくれ。相手の規模をある程度把握しておきたい」
「でもそれってえっと……傲慢?のスキルで確認できるんじゃないの?」
「正確に言うと『傲慢』と『森羅万象』の同時使用でだけどな。それに相手の動きを把握するだけなら森羅万象だけで十分だし、傲慢の方は転移魔法とかを使うために使用しているだけだからな。このまま『強欲』で食料奪えるかどうか分からないけど、あとで試してみるか」
「スキルの同時使用は数が増えれば増えるほど困難であり、高位のスキルであればあるほど制御がさらに困難となります。常時発動型は数えないとしても、オーラを集めたりするのも難しいはずですが」
「問題ない。確かに大罪スキルは全部常時発動型じゃないから制御が大変だが、慣れればどうって事ない。それにちょっとしたズルもあるしな」
「ズル、ですか?」
「言ってなかったっけ?大罪系スキルが統合されて『大罪人』になった。これにより他の連中に大罪スキルが手に渡る事になった事は確かに痛手だが、代わりの大罪系スキルの同時使用が滅茶苦茶楽になったメリットもある。しかも称号『大罪を背負う者』は大罪系スキルをさらに使いやすくなる様になってた。これは後になってから気が付いた事だが恐らくこんな所だろう。だから俺は大罪系スキルの同時使用が非常に楽になってたって事だ」
残りのスキルは仕様のONOFFが出来るくらいでONにすれば常時発動する。
覇王覇気に関しては使用してオーラを高める、体のどこかに集中するという行動の他に制御らしい制御は必要ない。
つまり『大罪人』以外はすべて常時発動型スキルだけになってしまったのだ。
「それは……かなりズルいですね。私だっていまだに『憤怒』と英雄覇気の同時使用は難しいのに、それがなくなったというのは羨ましいです」
「1回死んだんだからこれくらい許してくれっと言いたいところだが、マジでこれはマジでチートだと俺も思う。ただし、ユウは別だけど」
「え、何で?何で私だけ別なの??」
「『嫉妬』で調べて分かったぞ。お前の持つ美徳系スキル、あれ『正義』以外全部常時発動型スキルだったじゃん」
「あ、そうだったかも」
美徳系スキルは防御特化のせいか『正義』以外はすべて常時発動型スキルだった。
主に消費量を減らすスキルが多かったが、防御に特化し過ぎだと思う。
「ま、大罪系は攻撃特化と言えるから良いけど。とにかくちょっと野菜盗んでくるからそれまで狩りは中止な。じゃ、行ってくる」
「「行ってらっしゃーい(ませ)」」
ポラリスの連中がいる陣地に向かって俺は木の上を跳びながら向かう。
この方が地面に足跡が残らないので追跡が難しくなる。
そしてすでにポラリスの連中がいる地点は把握済み、真っ直ぐ向かう。
ポラリスの陣営は森の出入り口付近に陣を構え、せわしなく動いている。
ほとんどの騎士は鎧を着ておらず、どちらかと言うと神父のような格好をしている方が多い。
見る限りどうやら完全に補給するための人が多いらしく、戦闘が出来るようには感じられない。
もちろん鎧を着て周囲を警戒している騎士も居るが、全体のおよそ4割、今森に入っている騎士達を含めれば6割くらいだろうか?
残りの4割はここで騎士達の世話をするために居る。そんな印象を受ける。
さて、まずは最初の目的である食材を奪う事から始めるか。
『森羅万象』で食材がどのテントにあるのか確認し、『強欲』で盗む。
これだけしっかり管理されているのであればニンジン1本とかならともかく、数人分の食糧を奪えばすぐにバレるだろうから今のうちに出来るだけ多く盗んでおく。
幸いまだ使用していない野菜は木箱の中に保管されている様なのでそちらから盗む。
未開封の木箱の中から食材だけがないとバレた時にはどんな反応をするのか楽しみだ。
出来るだけ多くの野菜を奪った後、ポラリスの中で結構強そうなのを発見したので少し様子を見る。
シリウスの言っていた聖女と言うのはこの女だろうか?
ユウが来ているポラリスの鎧と似た鎧を着た女。
髪はショートの金髪で学級委員長と言うか、生徒会長と言うか意外と若くて責任感の強そうな女。
他の騎士達に指示を出しているから多分あの女が偉いのは間違いない。
どんな奴なのかもっと詳しく観察してみようと思っていると女がこちらに振り向いた。
まさかとは思ったがすぐに女は俺に向かって光の魔法を使って攻撃してきた。
正確に俺の頭を撃ち抜こうとしていたのだから完全にこちらの事を細く出来てるな。
光の攻撃魔法を首を傾けるだけで避けた俺は面白いと表情に出しながら女と目を合わせる。
女もまさか目があるとは思っていなかったのだろう。一瞬驚いた表情を作ったが、すぐに騎士達に指示を出し俺に向かってくる。
と言っても発見できているのは女だけであり、他の騎士達は俺の事を視界に捉える事すら出来ていない。
なら逃げるのは簡単なので俺は転移で俺達の陣地に一瞬で戻った。
「わ!ナナシお帰り。転移で帰って来たんだ」
「ナナシ様お帰りなさい。転移で帰ってきたという事は何かありましたか」
「ちょっと面白い奴が混じってた。多分シリウスが行ってた聖女だと思う」
「まさか、見付かったのですか!?」
「見付かっちゃった。敵陣地から100メートル離れてたの見付かったから俺も驚いたよ」
「……それは少し厄介かも知れません。転移で帰ってきたので恐らく大丈夫だと思いますが、それでも同じところに陣を構えるのはよくありません」
「あの女の子と何か知ってるんだな」
「もちろんです。獣人の国だって何の情報もなしに突撃するほど愚かではありません」
「なら情報について話聞きながら、奪ってきた野菜の整理でもするか」




