三つ巴
「ところでこの魔法ってどんな効果があるの?」
少し開けた所にユウの『正義』で結界を張り、俺の魔法を使った結界の中で俺はユニコーンの解体をしている時にユウに聞かれた。
「これか?これは簡単な幻覚魔法だよ。周囲の風景に溶け込ませて、簡易的な陣地を作る時によくやる魔法コンボだ。まぁ俺は魔法で作った結界でしかやった事なかったけど、スキルで張った結界にもできて良かったよ」
「ナナシでも知らない事あるんだ」
「知ってることより知らない事の方が多いと思うぞ」
ユウは俺の隣りでユニコーンの解体を見ながらそんな事を話す。
レナは一応周りを警戒している様だが半分リラックスしている。
ずっと気を張って警戒し続けるのは疲れるからな。
「ところでここには『暴食』のスキルを得るヒントがあるんだよね?どうやって手に入れたの?」
「『暴食』は聖獣を100匹食べると手に入るスキルだ。だからぶっちゃけ誰にでも手に入れるチャンスはある」
「聖獣を食べるって……ここに来るまでも大変だと思うよ」
「それはポラリスが管理しているからだ。昔はポラリスが管理なんてしてなかったし、条件満たすのは結構簡単だったんだよ」
その後狩り過ぎて絶滅危惧種に指定されたけどな。
それでも俺は食べるのを辞めなかったからポラリスに目を付けられたわけだが、今思えばあれが最初か?ポラリスと敵対するのが決まったの?
「当時簡単だったことは分かったけど、それなら何で他の人が『暴食』を手に入れる事ができなかったんだろう?」
「積極的に動いていた人間、プレイヤーと言われる俺みたいなのが全然食うために聖獣を狩ってなかったのが理由だろうな。プレイヤーがいた時はもっとにぎわってたし、中には傭兵や正義の味方気取ってたり、色んな感じで蔓延ってたからな~。でも食い物は基本的に店の人から買った物ばかり食ってたから聖獣には口付けてないんじゃないか?」
「でも薬の原料でもあるんだよね?それを口に入れれば――」
「残念ながら調理以外の加工をした場合はノーカンだ。確かに薬に加工した後の物ならプレイヤーも口を付けていただろうが、調理として加工した物以外はカウントされないのがトラップかな」
自分なりに推察しながらユウの疑問に答える。
それにしても腸の下準備って面倒だよな……なんでこんなにヌメヌメしてんだ?
胃液とかじゃないのは分かってるけどさ……あとうんこだうんこ。絞り出して中を綺麗に洗うのメンドい。
「うわ~……ウンチ出てる」
「出さなきゃ食えんだろ」
「食べるの!?さっきまでウンチのあったところ!!」
「レナとかの獣人系は内臓好きだぞ。だからこうして綺麗に洗ってる訳だし。それにソーセージ食ったろ。あれも豚の腸に豚肉詰めて蒸した物だからな」
「そうなの!?」
このくらい常識だと思うんだが……
あ、この子監禁生活のせいで常識なかったわ。
なんて思いながらも下処理終了!!
「さて。食える部分は先に仕込みしてたし、食うか」
「ところであの血は?ユニコーンの血をビンに入れてたけど」
「ユニコーンの血は薬の材料になるんだよ。だから1滴も無駄にはできない。全部使えるって意味はそこら辺から来てる」
「へ~」
「それよりナナシ様。今日のご飯は何にします?」
「面倒だからステーキ!」
「ステーキ……食べられる草ないか探してこようかな……」
どうやらユウは獣人の国で肉を食い飽きていたらしい。
だが残念だな。
100日は肉食生活が続くぞ!!
――
ポラリス陣営にて、1人の騎士が上官に報告していた。
「ご報告します!ユニコーンがまた何者かによって殺害されていました!!」
「懲りないですね、密猟者たちも。それで捕らえる事はできましたか」
「残念ながらできませんでしたが、奇妙点がいくつかある事から我々が追っている密猟犯とは違う密猟犯ではないかと報告が入っております」
「別の密猟者?」
「はい。1点がユニコーンの殺害方法です。今まではドワーフの国で作られた火器を使用していましたが、今回は魔法による長距離攻撃である事と予想されます。2点目は血の跡が少なく、不思議な事に殺害したユニコーンを運んだ足跡すら発見できていない事です」
「運んだ形跡すらないと」
「例の密猟者達に魔法使いがいないため、別の密猟者が侵入した可能性を考慮し、同時に奴らに魔法が使えるメンバーを加えていないかどうか確認中です」
「現在はそれでいいでしょう。しかし他の密猟者ですか。奴ら以外にユニコーンを狩る者達が存在していた事に驚きです」
「現在他の聖獣、ラタトスクやフレキにゲリと言った聖獣は殺害されていません」
「分かりました。報告ご苦労様です」
「は!」
騎士は上官に礼をした後に下がる。
1人残った上官は思考を始めた。
「新しい密猟者……私達に見つかっていないという事はおそらく少数、5人以上はいないと思いますがそれ以上の場合も考慮して編成2人1組から2人2組に強化。手法の違いから恐らく魔法をメインに使う者達と考えて……
でも簡易的な魔法、対象を浮かせるだけの浮遊魔法を使った可能性は高い。そこから風の魔法を使って足跡を残さなかった?いや、それなら血が落ちてどこに密猟者が居たのか判明するはず。血が落ちていない事を考えると他の方法を取った事になる……
魔法の同時使用は非常に難しい。出来なくはないけど魔力の消耗も激しくなるし2人魔法使いがいるなら2人で行なった方がよほど効率が良い。最低2人の魔法使いが居ると考える方が良いか。
5人全員が魔法使いである可能性もないとは言い切れない?でも魔法使いが解体の技術を……持っている事もあるわね。そうなると研究者?ユニコーンの事を調べに来た研究者が密猟者と共に来た??
………………まずは報告からね」
上官は魔道具の水晶を起動し上司に繋げる。
上官は上司と繋がるまで片膝を付いて待ち、すぐにつながった。
『どうした』
「申し上げます。ユニコーンの密猟者が増えた可能性があり、ご報告に参りました」
『人の皮を被った獣以外の者か?』
「まだ調査中ですがその可能性が高く、魔法を使った可能性が非常に高い事からその可能性は捨てきれないと判断しご報告いたしました」
『……これ以上ユニコーンを殺させるな。ユニコーンは我らの神への供物である。よってこれ以上奪われるな』
「は!」
上司はすぐに通信を切った。
上官は立ち上がり思考に戻る。
「なんにせよ敵が増えた事には違いない。どれ程の強さなのかは分からないけど、あの義賊気取り共と同じなら共に捕まえ法の裁きを受けさせる。そうでなかったら我が弓で貫いてくれようか」
――
「獲物は」
「申し訳ありません。邪魔が入りました」
「ポラリスか」
「違います」
「あ?」
「他の密猟者です。ユニコーンの頭を光の魔法で撃ち抜き、獲物も恐らく魔法でどこかに消えました」
「光の魔法だと?ポラリスの連中じゃなくてか」
「頭だって知ってるでしょ。ユニコーンを狩る時はいつも生きて捕まえるって。その後どこかに輸送されてから殺されるんですから」
「ちっ。こんな大事な時に……」
「それより……大丈夫なんですか?」
「今は残ってる血もある。だが次発作が起きた時どうなるか分からねぇ」
「…………」
「狩りをする連中の他にそいつらを見付ける連中を組め。見付けるだけでいい、まだ殺すな」
「どうしてです?邪魔なんだから殺せば――」
「そいつら魔法が使えるんだろ。なら捕まえてこっちに引き込めばもっと狩りがしやすくなる。そして数が増えれば……」
「……分かりました。すぐにそいつらを見付けられそうな連中を見繕ってきます」
「頼んだ」




