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大罪スキル所有者

 話のために謁見の間に向かいながらユウとレナは軽く挨拶をする。


「初めまして、ポラリスの勇者様。私は元この国の女王、レナ・フェル・ヘルシングです」

「初めまして。私はユウ。本来名前はないけれどナナシからそう呼ばれている」


 2人とも奴隷の首輪をはめた状態で俺の後ろを歩いているが、意外と雰囲気は悪くない。

 謁見の間までそれなりに距離があるからレナに聞いておくか。


「レナ。憤怒のスキルはどうやって手に入れた」

「以前ナナシ様が教えて下さった場所にクエストが発生していたので、そのクエストをクリアした後手に入れる事ができました」

「マジか。そうなると俺の仮説は間違ってないかもな……」

「仮説とは?それにナナシ様も以前と変わらず憤怒だけではなく他の大罪系スキルを使用している様に感じました。てっきり大罪系スキルは使えなくなっているのだとばかり思っておりました」

「俺だって俺以外の奴が大罪系スキルを使えるとは思ってなかったよ。そうなると他の大罪系スキル所有者も調べておかないとヤバいかもな……どうにかして情報を手に入れるパイプ作りが必要だな」


 以前だったら複数の奴隷に情報を集めさせる事ができたが、現在それほど多くの奴隷はいない。

 適当に違法ギルドのボスを隷属させて情報収集でもさせるのが現実的か。

 そのためには人間の国に侵入する必要があるな。


「一部ですが他の大罪系スキル所有者は判明しています」

「え、マジ?誰がどのスキルを持ってるんだ」

「『憤怒』は私、『強欲』はトカゲ、『色欲』はベレトさん、『傲慢』はおそらくサマエルさんが持っている可能性が高いです」

「は?ベレトだと。あいつそんな事一言も言ってなかったぞ」


 慌ててベレトに連絡するとすぐに出た。


『ナナシ!!やっと連絡くれたのね!!』


 直ぐに嬉しそうなベレトの声が響くが俺は冷たく結論だけ言う。


『お前、『色欲』持ってるって本当か』

『え、あ、それは……その……』

『持ってるんだな』

『……はい。黙ってましたごめんなさい』

『詳しい事はレナから聞く。言い訳考えておけよ』

『え?レナちゃんと一緒――』


 通信を切ってからレナに確認を取る。


「はぁそれでトカゲってまさかジラントの事か?」

「そうです。そのトカゲです」

「まだ仲悪いのかお前ら」


 本当に犬猿の仲と言うか、喧嘩するほど仲のいいコンビと言うか、飽きねぇな。


「それにしてもジラントが『強欲』ね。正直意外なチョイスだ」

「あれはどちらかと言うと偶然が重なって手に入ったと言ってもいいと思います。私が先に『憤怒』を手に入れたので自分も何か欲しいと言って暴れて他国の宝を奪っている間に手に入れたようです」

「なんだってそんな事。あいつドラゴンだぞ?種族ステータスだけ見れば世界最強候補の1つだぞ」


 今話題に出ているジラントと言う人物はドラゴン族のお姫様だ。

 え?お姫様属性が多い?だってこの世界強い女程血筋が良いのが多いんだもん。だから自然と王族関連の女に手を出してた訳だし。


 ジラントはピンクの鱗のドラゴンであり、赤いドラゴンの血筋と白いドラゴンの血筋がロミジュリ的な展開になり、2人して駆け落ちしようとした時に国側が折れて祝福?してできた子だ。

 赤いドラゴンの国と白いドラゴンの国のけ橋として大切に育てられたのだが……かなりの我儘娘に育ってしまった。

 ジラントの両親も甘やかしすぎたと反省していたが、だからと言ってどのようにすれば直るのかも分からず困っていた時に俺が現れた。


 俺はその国に行った時にジラントが単身ドラゴンの国に来た事を面白がってちょっかいを出してきたのだが、俺が軽く迎撃。圧倒的実力差を見せつけての勝利である。

 問題はその後。

 ジラントは俺に惚れた。

 何と言うか、人間以外の種族は基本的に戦闘の力が高い異性と子孫を残したがる傾向が強過ぎるため自分を倒した初めての雄、つまり俺と結婚すると我儘を言いだした。

 これまた頭を悩ませる事態になったのだがその時に俺が立派な女になったら抱いてやる。と言った所、素直に聞いて花嫁修業及び女王としての勉強をし始めた。と言う所までは知っている。


 でも流石に死んだ後に関しては分からない。

 もっと戦闘に特化した種族であり、寿命も数千年と言われるドラゴンが人間の作った武器を使って戦うなんて事はまずない。

 それなのに何故人間の国の宝を狙ったんだ??


「他の国の宝を奪ったと言うが、宝石系か?」

「聞いたところによると宝石だけではなく武器の収集が目立っていたと聞いています」

「武器?ジラントが??」

「武器です。ジラントが」


 余計に分からない。

 俺がありえねーっと思っているとユウが聞く。


「何が変??」

「何ってどこが」

「ドラゴンが武器を求める点」


 あ、もしかしてユウってドラゴンと戦った事ないな。

 それなら説明しないと分かり辛いか。


「ユウはドラゴンと戦った事ないな」

「何故分かる?」

「その発言が理由となります。彼らドラゴン族は武器を使いません。これは武器を作る技術や素材の問題でもありますが、1番大きいのはプライドです」

「あいつらドラゴン族は自分自身の持つ鱗や爪、牙が誇りなんだ。そして同時に強力な武器でもある。それ以外の純粋な筋肉量でもあいつらムキムキだから。武器を使う必要がないんだ。そして使えない」

「使えない?」

「あいつらの身体能力が高過ぎてそれに耐えられる武器がない。あいつらの鱗より硬い防具がない。だから武器を使って戦うと言う文化がないし、魔法は便利な道具と言う感覚だけで強力な攻撃魔法を生み出そうともしない」

「魔法も?」

「魔法も元々人間が自分達以外の敵、魔物なんかを殺すために開発したが、ドラゴンのブレスは最低で人間が使う上位魔法、強い奴で最上位魔法クラスのダメージ量だ。だからドラゴンは武具に頼らず己の肉体を鍛え、とにかく戦う事で戦闘経験を積む種族だ。だから武器の使い方を教えられるドラゴンはいないし、作れるドラゴンもいない。自分達の身体を鍛える方がよっぽど効率的だからな」


 人間は弱いから武器を作った。人間は弱いから防具を作った。

 でもドラゴン達は最初から最強の武具を持って生まれる。

 だから武具を作り出したりブレスをより効率的に使うための研究なんてした事がない。

 むしろ魔法を覚えるドラゴンが居たらそれだけでかなりの異端だし、覚えようとする奴がいるとは思えない。


「あいつらは最初から最強の看板を背負って生まれてくる。だから武具なんて子供がごっこ遊びで使う紙で出来た剣と鎧を身に付けているのと同じだ」

「……最初から最強」

「だから最も傲慢な種族とも言われています。ジラントはその中でも特に傲慢でナナシ様以外の者を全て見下しています。本当に腹立たしい」

「でもあいつは両親から受け継いだ才能と肉体の頑丈さは本物だ。俺が勝ったのも成熟しきっていないのと戦闘経験が少ないから、だからな。正直今の状態であったらどうなるかさっぱり分からん」


 レナだって大罪系スキルを手に入れて更に強くなっている。

 もし仮にあの試合が1対1でなかったら負けていたのは俺の可能性が高い。

 と言うか狼系はチームワークを駆使して戦う種族のはずなのに何で単独であそこまで強くなれる訳?

 俺がいない300年間どんな風に戦ってきたんだよ。


「こちらが謁見の間です」


 話をしながら進んでいるといつの間にか着いていたみたいだ。

 扉の隣りにいる兵士が巨大な扉を開き、恐らく王族貴族達がこちらの様子をうかがっている。

 既に貴族達は隷属の首輪を付けられたレナを見て「本当に負けてしまったの?」「あのレナ様が?」と婦人どうしがひそひそと話していた。

 そんな声を聞き流し、現獣王の前に着いたが……あんまし強くなさそうだ。

 俺の感覚ではレベル70後半と言う所か。レナが特別強かったのは認めるが、俺が知っている国王はレベル80超えてたぞ。

 そんな玉座に座る獣王とその子供と思われる少年少女が4人、女王と思われる人が1人俺達の前まで歩いて来て頭を下げながら言った。


「「「「「レナ様を連れて行くのは辞めていただけませんか!!お願いします!!」」」」」


 それはそれは見事な頭の下げ方だった。

 その姿に表情は変えないが驚いた雰囲気を出すユウ。そして情けないとため息を吐くレナ。

 俺は……2人の感情を足して2で割った様な感じ。

 もちろん王族の態度に驚いたし、同時に情けないとも感じる。

 戦力ではかなわないと察しているのかいさぎよいとも感じた。


 でも一国の王がそう簡単に頭下げちゃダメでしょ。

 虚勢でも何でも自分は偉いんだぞ~って雰囲気出さなきゃ。


 なんて考えていると1人の狼の爺さんが現れた。


「情けない姿をさらしてしまい申し訳ない。謝罪する」


 謝罪すると言いながら結構堂々としている爺さんはレナに少しだけ視線を送った。

 レナはそっぽを向きながら視線を決して合わせようとせず、顔を逸らし続ける。

 俺は爺さんの顔にほんの少しレナと似ている気がしたので聞いてみた。


「もしかして爺さん、シリウスか?」


 そう言うとしわくちゃな顔で嬉しそうに微笑む。


「覚えていただき感謝いたします。儂は……いえ、僕がシリウスです。この方が分かりやすいですかの」


 昔の頃を真似して僕と言う言葉をわざと使ったので少し笑ってしまった。

 だが俺が笑った事で王族達は雰囲気をよく出来たと感じたのか少しだけ緊張を緩ませる。


「シリウスが出て来たって事は現獣王はシリウス側の子孫って事か」

「そうですじゃ。この者は儂の息子、スコルと言う。まだ少し弱いが、群れをまとめる際はあるので獣王としてどうにか機能しておる」

「どうにかって、そんな危機的な状況なのか?」

「危機的ではありませぬが、やはり姉上がおられるで少々自信がないのが欠点での。今回の様にすぐ頭を下げてしまうんじゃよ」


 まぁレナが居ると自信は持てないよな。

 でも俺の答えは決まっている。


「いくら頼まれようがレナは連れていく。俺の番犬兼ペットとして連れて行くからな」


 俺がそう言うとレナは嬉しそうに尻尾を振り、他の王族達はやっぱダメか~っと言う感じで意外とあっさり引き下がった。


「最近は平和なのか?最高戦力を手放すにしてはやけにあっさりしてるな」

「平和な方ではありますな。ここ300年は人間達も森に集まりませんし、来たとしてもこの国にまで来ようとはしない。そのため最近の若者たちはみな平和ボケしてしまっている状態でして、お恥ずかしい」

「平和は良いが平和ボケは良くないな。何ならもうしばらく滞在して鍛えてやろうか?」


 俺がそう言うと王族と貴族達は大きく肩を震わせた。

 先程の試合を見ていたからか非常に怯えていると言ってもいい。

 だが先代獣王であるシリウスは笑いながら言う。


「それは非常に素晴らしいお話ですじゃ。最近の若者たちも気を引き締める事でしょう」

「この雰囲気だと逃げ出しそうだが?」

「ご安心を。――我が私兵団が確実に捕まえましょう」


 シリウスの私兵団ってどれくらい強いんだろう?

 ぱっと見貴族でレベル60から65、王族だとレベル70くらいか。

 レナのレベルが高過ぎて大した事のないように感じるが、本来であればこのレベルに到達するまで非常に難しいレベルだ。

 しかも何だか若い連中を中心に60後半から70前半までレベルが高いのだから不思議なもんだ。


「いつから始める?」

「明日の早朝から始めましょうぞ」

「それなら今日はもう帰るぞ。レナを手に入れたから他に欲しい物はない。宿に戻る」

「お待ちを。それなら客室、もしくは姉上の自室を使うのはどうでしょう?」

「ならレナの部屋を借りる。良いな、レナ」

「はい!」


 レナは尻尾を振って了承する。

 ちょっと宿代は勿体ないがどうせ寝るならいい部屋の方が良い。

 でも宿屋に一言言ってからこっちに移るか。


「それじゃレナは部屋の準備。俺とユウは宿に一言言ってくるからちょっとお留守番な」

「え!?一緒に行ってはいけないんですか!!」

「だってレナを連れていくと絶対面倒じゃん。だから置いてく」

「そんな……」


 床に座り込んで耳と尻尾が力なく垂れさがる姿を見ていると、本当に子供の頃と変わらない様に感じる。

 そんなレナの頭を撫でると尻尾だけはパタパタと左右に動くのだから面白い。


「ほんのちょっとだけだ。今夜抱くからベッドの上、整えておけよ」


 俺がそう言うとレナは顔を勢い良く上げ、本当に抱いてくれるのかと期待を込めた視線を送る。

 その視線に対して頷き返すとレナは即座に動き出した。


「いつでもいいように準備しておきます!!」


 気合いの入った言葉を残しあっと言う間に部屋に向かって走っていってしまった。

 俺レベルじゃないと姿を捕らえる事もできないほどのスピードだったから、おそらく他の連中には消えた様に見えただろうな。


「と言う訳でしばらく厄介になるぞシリウス」

「分かっております。ナナシ様」


 上手くレナを部屋に誘導した後宿屋のおばちゃんにちゃんと言っておかないとな~。

 とりあえず買った景品としてお城にしばらくいれる様になりました、とでも言えばいいかな?

 なんて思っているとユウが俺の服を引っ張る。


「どした?」

「大罪人なのに罪、犯してない」

「犯す理由がないからな~。それにここはレナの国だ。出来るだけ問題は起こしたくない」

「何故?」

「何故って俺が飼ってるペットの家族がいるんだ。300年前は身内なんて居なかったから知らない奴の方が多いと思うが、結構身内には甘いんだぞ俺」


 俺の信条は『自分に甘く、身内も甘く。ただの他人には容赦をするな』だ。

 優しくするのは身内だけで他人はどう扱おうがどうでもいい。

 そしてこの国はレナの国。

 つまり身内みたいなものだ。


「意外」

「そうか」


 それだけ言うとユウは何か考えながら俺の後を追う。

 一体何を考えているのか、ユウの感情はどれほど育っているのか、色々な期待を込めながら歩くのだった。

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